”問い”との出合い vol.1
1.上司から勧められた1冊の本
私は大学卒業後、教育や求人広告を扱う事業に営業職として携わりましたが、社会人3年目の時に、当時まだまだスタートアップだったリンクアンドモチベーションへ同じく営業職で転職しました。
もともと人と接することや人前で話すことに苦手意識はなかったので、営業には向いていると思っていましたし、顧客にも可愛がっていただけるようなキャラクターだったと思います。
ただ、前職の求人広告営業では、全社で表彰されるくらいの成績を出すことができましたが、新しい研修事業の営業ではどうもパッとしない自覚がありました。
そんな中、当時の上司から「是非、宮本に読んで欲しい本がある!」と勧められたのが、『あなたの話はなぜ「通じない」のか』というタイトルの本でした。
自分では話し上手な方だと思っていたので、そのタイトルを聞いた時は少し(いや、かなり)ショックを受けました(笑)。「自分の話は伝わっていない。少なくとも上司はそう感じている」と。
著者の山田ズーニーさんは、かつて進研ゼミの小論文編集長として多くの小論文に触れてきた経験を持ち、現在は文章表現・コミュニケーションインストラクターという肩書きをもつ、いわば伝えることのプロです。
そのノウハウを「ほぼ日刊イトイ新聞」のコラムや数々の著書で伝えています。
ズーニーさん曰く、良い小論文の背景には「?」がある。読み手にとって興味深い小論文を書く子に共通しているのは、「?(=問い)」という道具を持っているとのことでした。
それは”書く”ためには、”考える”ことが必要で、考えるということは”自分自身に問いかけ、自問自答すること”だからだそうです。
初めは読むに絶えない文章だったとしても、多面的な問いかけをしてみると、個性溢れた実感の伝わる文章に変わっていくと。
「”伝える”ためには”問い”が武器となる」
これが、この本から私が受け取ったメッセージでした。
2.問いの100本ノック
当時、論文やコラムを書くような機会はありませんでしたが、この「?」は、きっと営業活動においても大きな武器になると感じました。
研修営業は顧客の課題を踏まえた上での提案営業です。そして、提案営業において顧客へのヒアリングは必須です。しかし、それまでの私はこちらが提案のために、聞きたいことを一方的に質問し、一生懸命自社のサービスを、これまた一方的に説明していたのです。
本から得たメッセージを自分の営業場面に当てはめた時、営業として自分が伝えるべきことを伝えるためには、自分のことを語るのではなく、多面的に顧客を知り、多面的に顧客について考えることこそが必要だと気づきました。
そこから聞きたいことをただ聞くだけでなく、”質の高い情報収集をしよう”と決め、「問いの100本ノック」と称して、お客さんに聞いてみたいことを商談前に100個挙げてみる。そんな宿題を自分に課すようになりました。
例えば、「今回の研修受講対象者は?」「彼らはどんなことに困っているか?」「彼らの上司や先輩はどんな期待をしているか?」「これまでどんな研修を実施してきたか?」「その研修によってどんな変化が生まれたか?」「彼らの顧客は?」「顧客の顧客は?」「彼らの入社動機は?」。。。
問いを挙げるだけなので、答えを出す必要はありません。仮説を立てる必要もありません。聞いてみたいことや気になることをただ100個挙げるだけなので、観点を変えればそんなに難しい作業でもありません。※実際は50個くらいで大変になってきますが。(笑)
多面的に質問を考えていると、顧客への関心が自然と膨らんでいき、顧客について自分の考えを共有できる次の商談にワクワクするようになりました。
それまでは自分自身のことや自社のサービスで一杯だった頭の中が、担当者や顧客企業についての興味関心でいっぱいになるようになったのです。
実際に100個全てをお客さんに質問する訳ではありません。その時間をいただくこともできませんし、そもそも必要もありません。
ただ、100個も問いを立てると「これは是非聞いてみたい」という質問が5つくらい浮き彫りになってきます。その質問というのは、だいたいが顧客自身が考えなければならないこと、考えるヒントとなるようなものでした。
たいていの担当者は人事担当で、会社の課題をわかった上で”打ち手を考えている”人たちです。しかし、わかったつもりの課題が真の課題ではない場合も往々にしてありました。
以前の私は、そんな担当者に「どんな解決策がいいですか?」と”ヒアリング”をしていたのです。真の課題ではない課題に対しての解決策を提案しても、担当者がピンとこないのは当たり前です。
問いの100本ノックを経てからは、真の課題を発見できるような”問い”を担当者に対して問いかけるようになっていたのだと思います。
そこから、商談の流れは大きく変わりました。
すでに担当者がもっている答えをヒアリングするのではなく、顧客・担当者が抱える課題を考えられるような問いと共に、それを一緒に考えるような商談スタイルになったのです。
商談スタイルが変わることによって、顧客の課題やニーズを自分事として捉えられるようになっていきました。
結果として、物売り営業だった私が、課題を共に考えながらも、その打ち手となる解決策は任せてもらえるような顧客にとってのパートナーになることができたのです。
改めて私にとって「問い」との出合いを振り返ると、この一冊だったのだと思います。
ちなみにこの「問いの100本ノック」は、営業場面だけでなく、新たなプログラムを企画するときやチームをマネジメントするとき、ビジョンを考えるときなど様々な場面で今でも活用しています。