2022年 読んで面白かった本
(以下ネタバレ注意)
昨年書いて、結構手ごたえがあったので今年もやろうと思います。できれば毎年やりたいです。
📖小説
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」
今年読んだなかでは一番、というか、これまで読んできた小説のトップ5くらいに入るかもしれない小説でした。
やわらかい温もりと、静かな悲しみが表裏一体になっているような作品でした。キャシーがなくしたカセットを、トミーが見つける場面は、心の底から「二人とも、本当によかったなあ」という風に、深~く感情移入してしまいました。
太田光「文明の子」
炎上したり、youtubeチャンネルを始めたり、事務所のウエストランドがM-1を優勝したりと、なにかと忙しい一年だった太田光の小説です。
今どきの小説には珍しいくらい、真っ直ぐかつ壮大で、血の通った人間への愛に満ちた小説でした。途中に登場する<未来はいつも面白い!>の一言は、この『文明の子』を体現しているように思います。
(個人的には今年は『文明の子』意外にも、↑の記事を書いたり、初めて『爆笑問題カーボーイ』でネタメールが読まれたり、『カーボーイ』が縁で親しくなった方がいたりと、なにかと爆笑問題について思うことの多い一年でした)
本城雅人「マルセイユ・ルーレット」
カタールW杯もあったので、サッカー小説も読みました。野球・サッカー・競馬、いずれのジャンルでも名作ミステリーを書いている作者による、欧州サッカー界の八百長の闇を暴く作品です。
比類なき重厚さでグイグイ引き込まれていきました、独特なハードボイルドさを持った文体で、スポーツという男くさい世界を描写する作風が、今回もばっちりハマってます。
📖ノンフィクション・エッセイ
平子祐希「今日も嫁を口説こうか」
さすがにこれを買う時はちょっと照れた……。お笑い界の最強愛妻家、アルコ&ピースの平子が「いかに配偶者と愛を育むか」というテーマを書いた、スゲー本です。
仕事でジェンダー関係の文章を校正することも多いのですが、そういった観点からも「なるほど」と思う部分の多い本です。もちろん「芸人本」らしい、笑える部分ともちゃんと両立しています。
……相方はこの本、読んだのでしょうか……。
アンネ・フランク 深町眞理子訳「増補新訂版 アンネの日記」
20世紀に書かれた本の中でも、世界的に価値のある一冊を読み通すことが出来ました。
書くこと、文字に残すこと、想像すること。そうした人文学の尊さを、あらためて感じました。世界中の人間が読むべき作品の一つだと思います。次の100年も、必ず読み継がれる世界であってほしいと切に願います。
ジェーン・スー「生きるとか死ぬとか父親とか」
これはドラマ版を昨年見てからの読書でしたが、肉親への感情をここまで深く書ききったエッセイは、他にないのでは。
愛憎がどこまでも深く混ざり合い、最後には永久に切り離すことのできない「親子」というドラマに行き着くという、向田邦子の作品のような重厚な一冊であり、これがノンフィクションであることに、ハッとさせられました。
ブレイディみかこ「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」
「多様性」を、これほどまで考えさせられる本はありません。
英国在住の著者の息子が、名門のカトリック校から、<「元底辺中学校」>と形容される学校に進学し、そこで起こる大人と子供の交流を描くエッセイ。無理にシリアスにもせず、だからといって温まる話ばかりにしない、冷静に物事を描写する視点が非常に学びが多かったです。
難しい問題であり、簡単に解決できる問題ではないけれど、一歩ずつでも前進することの大切さを実感しました。
二代目神田山陽「桂馬の高跳び-坊っちゃん講釈師一代記」
現在の講談界に多大なる影響を与えた二代目神田山陽の自叙伝です。
書店の息子として生まれ、ダンス講師になり、素人芸人「品川連山」として高座にあがり、戦争を経て、やがて講談界を牽引する講談師になるという、まさに「一代記」と呼ぶにふさわしい内容でした。
いずれ山陽師そのものが、「連続物」の講談になるかもしれない……。そんなスペクタクルを感じさせるスケールの一冊でした。
📖マンガ
とよ田みのる「これ描いて死ね」①②
「マンガを描くマンガ」にハズレ無し! おどろおどろしいタイトルですが、気楽に楽しめる作品です。部活モノらしい、さわかやかさはもちろん、登場人物の個性もばっちり際立ってます(特に赤福)。
とよ田みのる作品は『ラブロマ』が大好きなのですが、『ラブロマ』のパラレルワールド的な部分もあります。
伊豆大島をモデルにした「王島」が舞台ですが、年末に行ってきました。
松田舞「ひかる・イン・ザ・ライト」
昨年のページでも紹介しましたが、あらためて紹介する理由があって、最終④巻読んだら、久しぶりに「マンガで泣く」体験をしたので。
アイドルオーディションもいよいよ大詰めで、もうパンパンに膨れ上がった感情の強さに、(途中で泣いたらダメ……読み終わるまで泣いたらダメ……)と、言い聞かせながら読んでたんですが、<「歌ってる自分が一番好き」>のシーンで号泣~。
サライネス「誰も知らんがな」①
これまで「シティ・ポップ」というか、都会的な軽妙洒脱さを描いてきたサライネスが、舞台を海辺の旅館に移しての新境地へ。ゆるやかだけど、ついつい笑ってしまうやりとりが今回もぎっしりと詰まってます。
関西弁のグルーヴ、姉妹、猫といったサライネス要素は今作も顕在。
マジでこんな感じっす。
斎藤潤一郎「武蔵野」
大好きな『死都調布』シリーズの作者による、最新作は旅マンガ。『死都調布』とは、また異なる心のザワつきを味わえました。
虚実ないまぜに描かれる旅の風景は、「……なんだ、これは?」という出会いの連続。しかし旅の魅力って美しい風景や美味しい料理ばかりではない。不可解な「未知」と出会うのも、旅にあるべき側面だと思います。