#読書感想文〜「海をあげる」上間陽子
たまたま昨日の、テーマの1つである「家出少女」とシンクロしましたが、こちらは「若年出産」の調査をしている琉球大学の先生が「webちくま」で連載されていたエッセイをまとめた本です。
「海をあげる」上間陽子・著(筑摩書房・2020)
Yahoo!ニュース・本屋大賞 2021・ノンフィクション本大賞
他、複数の賞を受賞された、話題の書です。
現在、沖縄で暮らす著者が、自分の生活や、ご自身の身の上を、静かに、柔らかく語っています。
自身の離婚のこと、祖母のこと、幼い娘との日常。
自分の研究である、若い母親への聞き取り調査について。
ただ、こうして綴られた文章には、彼女の、絶望、怒り、疲労が滲み出しています。
沖縄の人が持つ危機感が、日本の本土の人たちに伝わらないこと
少女たちが背負う苦悩が、あまりに大きく、不均等であること
現場にいない人たちが、勝手に物事を決めてしまうこと
彼女は憤っています。
1995年に、沖縄で小学生の女の子が米兵に強姦された事件があり、沖縄では抗議集会が開かれました。
その当時、東京で大学に通っていた著者に、
「すごいね、沖縄。抗議集会に行けばよかった」
こう、声をかけたのは、指導教官の一人でした。
まるで、海外アーティストのコンサートを思わせるような
、この言葉に、彼女は困惑します。
「すごいよね、8万5千は。怒りのパワーを感じにその会場にいたかった」
彼にとって、沖縄の怒りは傍観するものであり、それでは、到底、抗議行動にまで、追い詰められた人々の気持ちなど、わかりようがないでしょう。
そうして、彼女は沈黙します。
どうしたら、伝わるのか。
長い時間をかけて、彼女が生み出したのが、この本だと思います。
この本は、賞を取ったことで、メディアに取り上げられ、多くの人に知られることとなりました。
私もそのひとり。
で、それで、何か現状は変わるのだろうか?
私たちは、本を読んで、沖縄の苦悩を知って、そして、その苦悩を共有することを選ぶだろうか?
こんなに話題になって、人々が沖縄の抱える問題を知って、それでもなお、何も変わらないとしたら。
著者の絶望は、ますます深くなるような気がします。
著者は、もう抱えきれなくなった問題を、こちらに投げかけています。
私たちは、沖縄の「海」を受けとめられるだろうか。
ノンフィクション本大賞の受賞スピーチを、テキストで読めます。↓
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