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ブリーチしたらエモすぎて紫シャンプーを買い枯れ葉を一掃した話

 生まれてはじめて髪の毛をブリーチした。ええ、年甲斐もなく。”ダブルカラー”ってやつをやってみたかったのだ。”インナーカラー”ってのもやってみたかったのだ。

 美容院で”ダブルカラー”を”インナーカラー”でこんなふうにやりたいんですけど、と、モデル写真をピックアップしてスマホで見せた。

 「この色にするためには、ブリーチ一回じゃここまで黄色みが抜けないから難しいですねえ。あと、白髪染めが残ってるとこはもっと落ちないですけど、でも、まあ一度やってみましょうか。」

 というわけで、こめかみより上の髪の毛をブロッキングし、それより下の内側になる毛を人生初ブリーチ。

「薬剤しみてないですか?」「皮膚丈夫なんで全然だいじょうぶです」「初めての方、結構痛いっておっしゃるんですよ」「余裕っす」「マジで頭皮強いんですねえ」

 薬剤を洗い流した後の鏡に映る髪の毛は、想像してたのの何倍も色が無かった。あまりの”パツキン”っぷりにマスクの下で口あんぐりしてしまったほど。今までした”一番明るいカラーリング”など次元が違う。ついさっきまで四十数年間、いつもの色をしていた髪の毛がこんなにもいつもと違う色になるなんて。

 ただ、毛先は言われた通り過去の白髪染めが残っていて色が抜けきれず、赤っぽい状態だった。 

 おや、これは誰かに似ている……



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 煉獄さんだ!!

 

 もちろん、ダブルカラーなので、脱色した部分にカラーリングをする。このまま煉獄ヘアというわけじゃない。だが、私は一気に愉快になってしまった。

 だって、こんな私、初めて見たもの!


 ここ5年くらい、カットやパーマは数ヶ月に1回だが、染めるのはカラーリング専門店に毎月行っていた。人に会う時に、白髪がちらほらしてたら嫌だという理由。渋々だ。そして、コロナで外に出られず、家族以外の人にほぼ会わなかったこの1年、カットは前髪だけ自分で切れば良いから行かなくなったし、カラーリングすらもセルフでまかなうように。これはもうただの面倒事でしか無くなっていた。

 けれど、美容院もいろいろ対策が進んで、行くことへの抵抗感が薄まってきている。神経をすり減らした息子の受験もようやく終わった。じゃあ、そろそろまた行こうかなと予定した時ふと疑問が湧いた。

「カットやカラーリングって、誰のためにしてるんだっけ……?」


 今まで、ロングもショートもパーマもカラーも、様々なヘアスタイルをしてきた。逆に、手を出せずにいたヘアスタイルも沢山あった。ブリーチもその一つだ。

 一度はやってみたいんだよねと言いつつ、やらなかったのは、自分には似合わないかなと思っていたのと、もし失敗したら次の日どうするの?という不安が拭えなかったからだ。毎日通学や出勤をして必ず誰かに会う。行きも帰りも人に会う。万が一”やっちまった”という状態になった場合、リカバリーの時間がないまま人前にでなければならない。面倒なことだ。そうやって二の足を踏んでいるうちにどんどん歳をとり、”やってみたいんだよね”は”やってみたかったんだけどね”になっていた。

 もう今さらね、と、いかに楽にちゃんとして見えるかだけを気にした結果の無難で年相応なヘアスタイル。それに慣れ、諦めたつもりはなかったけれど、いつしか自分が大きく変わることを思い描かなくなっていた。美容院に行く前も、行ってる間も、行った後も、さして変化のない、いつもの自分。これがしっくりきてるからいいんだ…。

 でも、しっくりって誰にだろう。家族に?同僚に?世間に?もし、自分自身にしっくりきているのだったら、美容院でこうしてもらってこのヘアスタイルになることが、もっと楽しいんじゃないの?本当はどうしたい?

 千載一遇のチャンスだと思った。今しばらくまだ出社の必要もないし、人に合う予定も無い。もし、思った以上に似合わなかろうが、やっちまって、世間的にイタいヘアスタイルになろうが、どうということもない、オンライン会議だって顔出ししないもの。やり直す時間もたっぷりある。ほら、やってみたかったブリーチをするなら、今がチャンスだよ!


 私のしてもらったダブルカラーのインナーカラーなんて、モデル写真とは少し違ったし、最終的には全然大人しいもんで、きっとヘアスタイルに凝っている若い人やブリーチ慣れしている人からしたら「なんだたいしたことないじゃん」って鼻で笑っちゃう程度なのだと思う。

 でも、十分満足だった。美容院にいる間も、家に帰ってからも、初めて持ち得た髪の色をとても美しいと思い、嬉しくて何度も眺めていた。この色はどう変化するんだろう。そして次はどうしようか、モデル写真の色を目指してもう一度ブリーチしてみようか、それとも、別の色もいいかな。どれも見たことのない私。もし、似合っても、似合わなくても、イタくても、全部私が選んだ私自身だからいい、きっと愉快だ。

 次の朝、いつもの家事をしていると、美容院でカラーキープに良いときいて早速Amazonで注文してた紫色のシャンプー、通称「ムラシャン」が届いた。受け取ったついでに、玄関前の落ち葉や冬枯れた草花の花壇と植木鉢を大掃除した。枯れ草はゴミ袋いっぱいになった。そうだ、花壇に蒔く花の種を買ってくるのはどうだろう、まだここで咲かせたことのないやつを。

 新しい季節が来る。まだ見たことのない、花を咲かせよう。






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