『光る君へ』最終話とラストシーン
『光る君へ』最終回 (第48回)「物語の先に」
平安時代を舞台に、貴族の雅な世界や静かな権力争いによる波乱を、紫式部=まひろ (吉高由里子さん)と藤原道長(柄本佑さん)を主軸に描いた『光る君へ』がとうとう最終話を迎えました。
私は語彙力に乏しいので感想を述べようとすると、「よかった」「面白かった」「感動した」の平易な言葉しかすぐには見つかりません。いろいろ考えずに速やかに言えばそれらの言葉が先に出てきます。
※あまりネタバレ的なことは書いていないと思いますが、書いているような気もするので、気になる人はあとで読んでもらって構いません。
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最終回、まひろは倫子(道長の正妻=黒木華さん)から道長の危篤の知らせを聞き、道長を少しでも生かしたいという倫子の願いのもと、死の床にいる道長のもとに通う。
衰弱して目も見えなくなった道長に、まひろは物語を穏やかに語りますが、その表情は愛する人との別れを惜しむつらいもので、穏やかな口調とは裏腹に悲しみの涙を静かに流したのでした。
まひろの美しさもさることながら、死のふちをさまよう道長の病状がまたリアルでした。
げっそり痩せてしまった道長の顔、とうとう命がつきて冷たくなり亡骸となってしまった道長の顔…。
実際に痩せてしまった瀕死の道長を見ていると、まひろも倫子も本当の涙が自然に出てくるのは当然なのでしょう。
それだけ道長を演じる柄本佑さんの役者魂を感じました。「痩せた方がより説得力がある」という意見を受けて、柄本さんがそれに応えて4キロ減量したという裏話もあるようです。
ちなみに『光る君へ』の直後に放送された『海に光るダイヤモンド』では、鉄平(神木隆之介さん)の父(國村隼さん)が、深刻な病気を患い床に伏せていたのですが、こちらは見た目的には顔色もよく健康的…。
いえ、病気の役をするときは役者は必ず痩せなきゃいけないとか、限りないリアリティを求めているわけじゃありません。
ただ柄本佑さんの入念な役作りが凄すぎるというだけです。
柄本さんは髪型も撮影期間は自毛を伸ばして挑んでおり、道長が出家する際の剃髪のシーン(第45回・11月24日放送)では本当に自分の髪を剃り落とすという本気度を見せてくれました。
自毛だからこそ、剃髪のシーンはより緊迫したものになり、感情も道長としてこみあげてきた結果、涙を流す…。
なんという深い覚悟ゆえのリアリティでございましょう!
それは道長の涙でもあるけれど、柄本佑さんが道長と融合した涙でもあったのだろうと思うのです。だからあのシーンは息を飲むほど緊張感漂う圧巻のシーンになったのでしょうね。
最終回では、道長を取り巻く人物をごく自然に、極力多くの人たちを登場させてくれました。道長の家族のほか、彼を支えた公卿たち、清少納言、まひろの父・為時、まひろの娘・賢子、従者・乙丸、乳母・いと、赤染衛門、源明子、などなど。
(さすがに恨み節の伊周=三浦翔平さんは回想シーンでも出ていなかったですよね?)
特に印象深いのは道長の長女であり太皇太后となった藤原彰子(見上愛さん)。
一条天皇に入内する際は幼さゆえ自分の意思も口に出すことができないほどおとなしい女子だったのが、紫式部が女房として使えることになってからは見違えるように変わっていき、逞しい女性へと成長しました。
そんな彰子を誇らしく感じたのは母親の倫子だけではないやもしれませぬ。(おほほほほ)
また、藤原隆家を演じた竜星涼さんもよかったですね。『ちむどんどん』のニーニーのキャラがプラスに転じたようなあっけらかんとした、あまり野心のないマイウェイ感。いい役作りをされましたね。
そして公卿たちの世代も代わり、道長も他界したあと、まひろは乙丸を従えて長旅に出る。いよいよラストシーンであります。
そこに、道中ですれ違った武者たちの中に、かつてまひろの実家に(賢子のもとに)よくご飯を食べに来ていた若武者・双寿丸(伊藤健太郎さん)と偶然出逢う。
朝廷の命を受けて討伐軍に参加していると言う双寿丸は、互いの無事を祈りつつ馬に乗って颯爽と目的地へ向かって走り去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、時代の潮目が変わったことを察し、不穏な未来を予感したまひろが放った言葉。
「嵐が来るわ・・・」
この最後のシーンの言葉は、早くから決まっていたとか。
そして、終盤から登場してきた双寿丸を演じている伊藤健太郎さん、いい顔つきしていました。顔立ちもそうですが、よく通る声質や流暢で滑舌のよい口調がいい。やはり俳優らしいオーラを感じました。
過去に問題もありましたが、今後はこれを糧にもっと活躍していってほしいと思うのでした。
「きっといい役者になる予感がするわ・・・」
それぞれのキャストもよかったですし、全体を通してすべて好きでした。オープニング、音楽、映像、キャストの面々。
まだまだ尽きませんが、『光る君へ』の脚本を務めた大石静さん、本当にお疲れ様でした。一年も放送される大河ドラマの脚本で、あれだけの大作を書き上げるとは、貴方こそ、光る君でございましょう。尊敬以外のなにものでもありません。
そして制作スタッフの方々もお疲れ様でした。
そしてそして、次の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(脚本・森下佳子さん)もすごく楽しみです。