![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152826728/rectangle_large_type_2_72a4912959fbd7efc4b3af49447384bb.jpeg?width=1200)
映画「ラストマイル」感想。疾走感と面白さ爆発!労働の縮図×格差の対比、小ネタ情報過多の社会派クライムサスペンス
私が10代の頃、自営業だった父は、数ヶ月だけ配送業でドライバーの仕事をしていた時期がある。輸出商品を製造していた父が円高の煽りを受けて、収入減・受注減の末に行き着いた考えだったらしい。その話を母から聞いたのは父が副業を始めた2ヶ月後くらいで、何も気づかなかった自分は当時、かなり驚いた。
昼間は配送業、帰宅後に本業の仕事をする。そんな父の姿を見て、なんと声をかければいいのかわからず躊躇した。数日後にやっと「身体大丈夫?ちゃんと寝てるの?」と話しかけたとき、父から少しだけ仕事の話を聞いた。
毎日最初に行う作業が、荷物の住所チェックと地図を広げてルートを考えること。届けた荷物の個数でインセンティブが発生するから、何度訪問しても不在だと「困っちゃうんだよなあ。笑」と話していた。
20代のときは、ツアコンの元同僚が半年ほど配送ドライバーの仕事をしたらしく、「稼げたけど、3ヶ月で10kg痩せた!ガハハ…」と飲み会で笑い飛ばしていた。
映画「ラストマイル」を観たとき、物流というテーマをより身近に感じて、かなり没入したんですよね……
![](https://assets.st-note.com/img/1725201555884-lVATZytJC5.jpg?width=1200)
公開2日目に映画を観てきた。
開始10秒で、おお…!とワクワクが始まる。
開始1分で、ひゃっ!!と息を呑む。
公開前からムクムクと期待が膨らむなか、展開の面白さと深刻さ、いくつもの格差の対比。小ネタを散りばめた笑いと伏線回収。鑑賞後に思考がグルグル動き出す。
1回目は豪華俳優陣の演技を楽しみ、物語全体を把握する。2回目は隅々までじっくり鑑賞を(初めて映画館にノートとペンを持ち込んだ…)
この映画、見どころが多すぎる。ネタバレすると面白さが半減する、とも感じたので基本ネタバレなし。事件や物語の真相には触れず、感想を書いてみます。
1. 米津玄師の主題歌と最強タッグ!塚原あゆ子監督×脚本家・野木亜紀子さん×新井順子プロデューサー
今作は、塚原あゆ子監督 × 脚本家・野木亜紀子さんがタッグを組み、TBSテレビが総力あげて手掛けた「物流業界の社会課題」をテーマにした映画だ。
塚原あゆ子さんといえば、黒木華(はる)さん主演「重版出来!」、木村拓哉さん主演「グランメゾン東京」、吉高由里子さん主演「最愛」などのドラマを演出した方だ。
高評価を受ける作品が多い脚本家・野木亜紀子さん。有名なドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」、出版業界を描いた「重版出来!」、小栗旬さん × 星野源さんW主演の映画「罪の声」、綾野剛さん主演「カラオケ行こ!」などの脚本を手掛けている。
そこに「中学聖日記」「最愛」「9ボーダー」をプロデュースしたTBSの新井順子氏が加わり、塚原監督 × 脚本・野木さん × 新井プロデューサーが世に放った作品に「アンナチュラル」「MIU404」があって、もちろんどれもTBSのドラマです。
この凄腕3名がタッグを組んで制作された映画が「ラストマイル」になる。
そして、アンナチュラルの「Lemon」、MIU404の「感電」ともに主題歌を担当した米津玄師さんが、ラストマイルの主題歌を歌う。
「がらくた」を聴くと、あのシーンや…あのシーンを…思い出して泣けてくる。悲しくて、でも爽やかで、生きるすべを見いだせるような優しい歌だなと思った。
2. MIU404 × アンナチュラルとのシェアード・ユニバース
シェアード・ユニバースという言葉を初めて知った。今作は「MIU404 × アンナチュラル」と同じ世界線で現在が繋がるオリジナル作品だ。
MIU404とは、警視庁刑事部の第4機動捜査隊に所属する伊吹役・綾野剛さんと志摩役・星野源さんがタッグを組み、警察車両の無線で使うコールサインのこと。「最悪の事態になる前に犯罪を止めること。そして、未来を守ること」が機捜の使命だとドラマから解釈した。
アンナチュラルのUDIラボは、不自然死究明研究所のこと。事故・事件・自死…… 遺体を解剖して死因を突き止める。石原さとみさん演じるUDIラボの三澄ミコトは「法医学は、未来のための仕事」とドラマで語っている。それは原因がわかれば、悲しい現実を振り切れたり、未来に向かって生きるチカラになり得るからだと思う。
今作は「MIU404」と「アンナチュラル」の主要キャストを総動員した豪華な俳優陣の顔ぶれ。ドラマの小ネタにニヤけその懐かしさに、ミコトだ…! UDIラボだ…東海林、中堂だ! MIU404のテーマ流れて、おっ伊吹だ… 志摩ぁー!!心がキャッキャと浮かれ気分だ。
あらすじとは離れる小ネタをザッと挙げると…
[M]きゅるっとしてる
[M]部屋番号、404号室
[M]刈谷刑事の滑舌
[M]3話の高校生が社会人
[A]相変わらず、陽気なUDIラボ
[A]ミコトと東海林、わちゃわちゃ感
[A]中堂さんクソ不可避
[A]中堂ちゃかす、坂本さん
[A]7話の高校生が社会人
[M+A]毛利刑事と刈谷刑事の掛け合い
*[M]MIU404 [A]アンナチュラルを指す
さすがに出番は少ないけれど、映画では伊吹と志摩が、UDIラボのミコトとメンバーが、事件の真相を急展開させ、物語を動かす。語る台詞、表情がインパクトを刻む重要なシーンだ。MIUとUDIラボの介入あってこそ、真相が明らかになる構成は見事だと思った。
3. 映画のあらすじ(独自の解釈です)
米国に本社を置く、世界規模のECサイト「DAILY FAST」。Amazonをイメージさせる、15万㎡の広大なDAILY FASTの関東センターが舞台だ。主演・満島ひかりさん演じる舟渡エリカがセンター長に着任し、その部下が梨本孔役の岡田将生さん。下請け配送業「羊急便」の配送センター関東局長・八木役が阿部サダヲさんだ。
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/152837374/picture_pc_31a0bccaca29a65f7d737b29479e9300.jpg?width=1200)
DAILY FASTの荷物が、ユーザー宅で爆発する。警察が介入するも、次々に爆弾を仕掛けた荷物が爆発を起こす。警察は本格的に対策本部を設け、ここでMIU404が登場する。なるほど…!!
爆弾はどこで仕掛けられたのか。
DAILY FASTか。または羊急便か。
犯人の目的は何なのか。
荷物を仕分けるコンベアを停止したい刑事と、絶対に止めない!と言い張るエリカ。ユーザー宅へ荷物を届ける羊急便のドライバーたち。
そして、爆発→事件→死体とくれば、アンナチュラル。UDIラボの出番だ。
<キャスト>
◾️DAILY FAST
舟渡エリカ:満島ひかり
梨本孔:岡田将生
五十嵐道元:ディーン・フジオカ
◾️羊急便
八木竜平:阿部サダヲ 宇野祥平/火野正平
◾️警察
大倉孝二/酒向芳/丸山智己
◾️アンナチュラル
石原さとみ/井浦新/窪田正孝/市川実日子
竜星涼/飯尾和樹/薬師丸ひろ子/松重豊
◾️MIU404
綾野剛/星野源
麻生久美子/橋本じゅん/前田旺志郎
4. 興味深い見どころが多く、小ネタ情報過多の面白さ
物流業界をテーマにした映画だけれど、いくつもの格差の対比が描かれ、ある出来事をキッカケに心理の変化が起こる。上下関係の心理的立ち位置が入れ替わったり、特に満島ひかり×岡田将生の心理変化がとても興味深い。
・DAILY FAST、広大な関東センターの構造
・社員9名に対して、常時700名の派遣社員
・米国本社 DAILY FAST×日本支社の立ち位置
・クライアント vs 下請け業者
・そして、警察 vs 舟渡エリカ
・配送業者の裏側、その動線と働き方
・商品をポチるユーザー心理の変化
・主要キャストたちの心理変化など
このあたり、鑑賞後に思考がグルグル巡る。そして、配送ドライバーとして登場する宇野祥平 × 火野正平の「佐野親子」めちゃいい……(語彙力)
巨大倉庫の圧倒的なスケール。爆発シーンのリアルさに、映像だけで表現する軽やかさ。そこに印象深い台詞をぶち込む。ツッコミとボケる笑い、面白小ネタが投入される。過去ドラマの意義を蘇らせて、3つの物語を線で繋げ、壮大な1つの物語に導く。台詞・構成・映像・音楽、配役も俳優陣の演技も、異様にまとわりつく記憶の断片と、この余韻は一体なんだろう……
テレビ業界の未来とエンタメの底力を見た気がした。映画の企画段階から、制作陣が紡ぐ物語が始まっていたのだろう。
5. 最後に、映画から受けとったもの
MIU404×アンナチュラルとのシェアード・ユニバース・ムービーとして、物流業界の社会課題を事件・事故と結びつけ、こんな形で表現した監督 × 脚本家 × プロデューサーにリスペクト。
沖縄出身、主演の満島ひかりさん。やっぱり最高だな。エレナに詰め寄る岡田将生さんも迫力あって、続きの孔の物語が気になっている。
ある人物が言った「ブラックフライデーが怖い」
この意味を理解したとき、物流業界の労働環境悪化に自分も加担してる? そんな疑念がよぎった。気軽にポチッ!と商品を購入できるシステムの裏側で、商品を取り扱うECサイトの倉庫センターと配送業者のスタッフが悲鳴を上げてる気がしたからだ。
配送料の値下げは、配送業者の人件費削減・給与減給を意味する。そうなると、残業や副業で給与をカバーしようとして、労働時間の増加/睡眠時間の削減/寝不足&体力消耗… そんな悪循環が容易に想像できる。労働基準法を掻い潜るようなグレーゾーンの世界だ。これはたぶん… 配送業者に限ったことではないはず。
便利と欲望の裏で、歪みが生まれる。
マジックワードが何を意味するのか。
誰しも身近に存在する「物流」というテーマは、無意識に自分ごと化してしまう魔力が潜む。だから共感する部分も、印象に残る部分も、映画鑑賞後に抱く感想は人の数だけ枝分かれすると思う。ラストマイルに込められた真の意味を理解したとき、感動と後悔と… 未来を変える勇気が沸き立つだろう。
━━ そして先日、家に荷物が届いた。
玄関先でドライバーさんから段ボールを受け取ったとき、目線を合わせ笑顔で「ありがとうございます」と伝えていた。
配送業のドライバーさん。
ほんの一部かもしれないけれど、
世の中の異変に気づいてるだろうか♫
いいなと思ったら応援しよう!
![みやねえ / ライター・編集者](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/75779763/profile_58118e634f6b1903042e87820543cba6.jpg?width=600&crop=1:1,smart)