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カッコイイはいつも静か

 2月14日(水)はバレンタインデーだった。今の時代、職場でも浮かれたイベント感は無く通常通り。車での出勤途中、敷地内の坂道を歩いている非常勤嘱託の方が右手に見えた。冬場はいつも、中折れ帽にチェスターコートを着て、手には革の手袋、足元はしっかりフォールドしてくれるトレッキングシューズを履き、背中には大きなリュックを背負って、バスと電車を乗り継ぎ約1時間程かけて職場にやって来る。御年80歳。背筋は私よりピンッと張っていて、歩く姿を見かける度に『カッコイイなぁ』と思う。今年の3月末で契約終了とのことで、この方の姿を見られなくなるのが寂しい。私の職場では60代、70代の方が普通に勤めていて、その姿に50代の私は、逆に元気を貰っている。だからといって私は60歳以降は勤めたくないかも…。

 その日は、職場に着くと朝イチで職場の方から今人気の『クルミッ子』を頂いた。ケースも可愛いぃ。

期間限定商品の
ペールブルーの缶だった!

 金曜日は帰宅途中に、休日のコーヒータイムのお供となるラムボールを買いにケーキ店に寄った。お店に入ると他の洋菓子には目もくれず「ラムボールを5個お願いします。」と頼んだ。1個150円のラムボールはそのお店で1番のお手頃品。苦味の強いコーヒーと共に口にするラムボールが私にとってのささやかな楽しみ。

 そして、お店の方がショーケースに手を伸ばした時にフッと気付く。私が買った後にショーケースにはラムボールが1つだけ残る。咄嗟に「あ、ラムボール6個にして下さい」と言葉が出た。その時、友人のことを思い出した。若い頃、ケーキなどの生菓子を買う時に、同じように1つだけ残る時は、いつも彼女はその1つも含めて買っていた。はじめ私は、何故だか分からずに店を出た時に彼女に理由をたずねると「1つばかり残しても仕方ないでしょう。ショーケースの残り1つを買う人って少ないから。」と答えた。その時、人知れずカッコイイ!と思った。

 そう言えば、その昔、私の母や祖母も最後の1つは同じように買っていたのを思い出した。これは、昭和世代の多くが持ち合わせていた、おおらかな優しさなのかもしれない。そんなことも思った。

 そして、カッコイイついでにあと1人カッコイイ人を思い出した。

 小学生の頃、母に頼まれて手土産用のケーキを買いに、家から少し離れたケーキ店に行くことがあった。そのお店は、旦那様が洋菓子を作り、奥様がお店に立って、ご夫婦二人で営んでいた。シンプルなケーキはどれもズバ抜けて美味しかった。周りの大人達もこのお店には一目おいていて、店内にはその証しのように賞状が飾られていた。なかでも、今再び人気となっている昭和懐かしのレモンケーキと、手のひらサイズの平たいスポンジケーキにカスタードクリームを挟んだだけのシンプルで安価なオムレットは抜群に美味しかった。やっぱり、カスタードクリームが美味しいお店は信用出来る。

 ある時、お使いでそのケーキ店に行くと、いつも元気なおばさんの姿が無かった。「すみませーーん!」と大きな声で、どこかに居るはず?のおばさんに向けて呼びかけた。すると、店の奥から姿を現したのは初めて見る白衣姿のおじさんだった。細身で銀縁の眼鏡をかけた、学校の先生のような雰囲気に少し緊張して、母に持たされた買い物のメモ紙を手渡した。おじさんは、おばさんほど手際良くはなかったけれど丁寧に箱に詰めて包装してくれた。そして、お札を渡し、おつりを受け取った。その時おじさんが「ありがとう存じます。」と深々と頭を下げた。聞き慣れない言葉遣いと、とても静かで心のこもった姿に子供の私は『カッコイイ…』と痺れてしまった。子供扱いするでも無く、子供相手にこんなに丁寧に応対してくれる大人がいるんだなぁと感動した。

 私の身近なカッコイイはいつも静かだな…と思う。


 
 


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