実践「人格」をデザインする／さくらんぼシリーズ第1話：her cherry star
布・生地の通販サイトnunocotofabricさんより発売中のテキスタイル「her cherry star」は「幸運を予感させるテキスタイル」がコンセプト。
さくらんぼを夜空に浮かぶ星に見立て、その周りに流れ星をキラリと差し込みました。
ここまでのデザインは、書籍やウェブメディアで紹介されている方をペルソナに設定し、その媒体から得た情報をもとに制作を進めておりました。
ですが、直接その方に感想を聞けないため、自分のデザインを人はどう感じるのか、実際に喜んでもらえているのかが曖昧なままでした。
そこで今回はコンタクトが取りやすい、身近な友人をペルソナにデザインを制作してみようと思い立ちました。
そこで浮上したのが、友人のEさん23歳(武蔵野市在住)です。
今年から一人暮らしを始めたEさんなのですが、しばらく体調を崩すことが続いておりました。何か私にできることはないだろうか？と考えた時に、
私は生地の柄・生地のデザインなら作れる、ならばEさんが元気になるようなデザインを制作しようという結論に至りました。
友人をペルソナに設定することで、対面でのヒアリングが可能となりました。
「週に1度はグリーンカレー」「鉱石やアクセサリーを集めている」など、
ちょっとしたことも聞き出せて、これから制作しようとするデザインのイメージやアイデアがむくむく膨らんでいきました。
そんな背景から、Eさんというキャラクターを多面的に捉え、角度を変えて複数のデザイン、それなら3部作制作してみようと決めました。
3つのデザインを関連づけるため、共通するモチーフを設定します。
それが「さくらんぼ」です。Eさんのお母さんが、幼稚園時代の持ち物に、名前と併せて、双子のさくらんぼのイラストを描いてくれていたそうです。
そんな幼少期のエピソードにつながるさくらんぼに、
彼女を象徴させたいと思います。
ちょうど制作を始める際に出会った良書があります。アートディレクター、小杉幸一さんの著作「わかる！使える！デザイン」です。銀座グラフィックギャラリーで開催された小杉さんの個展の際にショップで購入しました。
小杉さんのデザインは柔軟で軽やかで底抜けに明るくて、
行き届いたエンターテイメントのように感じます。
ターゲットとの関係性を構築するための方法、
それは「コミュニケーション人格」を作ることなんです。
小杉さんは著書の中で「どんな人格を持ったデザインにすれば、ターゲットとする人たちに話しかけてもちゃんと聞いてもらえるか、を設定することから始める」と指摘されています。商品自体を、考えや特性を持った一人の人間として捉えるということです。
（こちらの記事のタイトル〈「人格」をデザインする〉は「わかる！使える！デザイン」のchapter 1のタイトルから拝借しました）
「話しかけても聞いてもらえるか」というのは伝えたい相手との「関係性の構築」という意味です。街中で知らない人に、いきなり新規事業の話を持ちかけられたら困りますよね。自分の伝えたいことが、伝えたい相手に伝える前の、前提となる情報・条件を揃える、とも考えられると思います。
伝える内容をデザインしていく前に、「伝えてもらっていいよ」と相手が肯定してくれる関係性をきちんとデザインしなくてはならないのです。
早速この考え方を使ってみようと、今回のデザイン制作に応用してみます。
ペルソナであるEさんとコミュニケーションを取るならどんな人？
やはり同年代で共通の趣味がある方でしょうか。
グリーンカレーや鉱石が好きな人格なら、ミステリアスな雰囲気の配色にしようかな。そしたらデザインも、モチーフを規則正しく並列させるよりかは、反転させたり回転させたり、やや複雑な装飾パターンにしてみよう。
人格の中でも内面、Eさんの乙女心にフォーカスし、さくらんぼを星空に見立てて、心の機微のように、揺らいでいるように表現してみよう。
こうして生まれたデザインがこちら。
Eさんの人格、内側に秘めている美しさ、宝石箱にしまってあるような乙女心を星空に見立てて表現し、さくらんぼを夜空の星のように配置しました。
心がときめき、何か素敵な予感をさせてくれるような、
幸運を予感させるデザイン。
「人格」のデザイン、3部作となる第1作目「her cherry star」は内面に視点を置いて制作しました。さくらんぼの柄の大きさも、小→中→大とだんだん大きくなるようにしていきたいと思います。
小柄は内面、中柄は外見、大柄はこれからの未来へ。
さくらんぼのイラストも大きくなるほど抽象的な表現にしていきます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回はさくらんぼシリーズ2作目、中柄制作での「人格のデザイン」です。
またお会いできますように。