月の使者#ゴーショー⑦『ウーリーと黒い獣たち』
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突然の幸運
賢者シュミクトと別れて2~3日後…
朝方からわたしの部屋を叩く音が聞こえた。誰かと思い、扉を開けたらそこに居たのは賢者シュミクトだった。シュミクトは開口一番に、わたしにこう喋りかけた。
シュミクト
「ゴーショーさん、おひさしぶりです。
お元気でしたか」
わたしは口角をあげてシュミクトを部屋の中へ迎え入れる。
ゴーショー
「シュミクトさん、おひさしぶりです。
とは言っても、数日前に会ったばかりですからね。
お互いに元気でなによりです」
わたしは、シュミクトを部屋の中央にあるソファーへ案内した。そして、タイミングよく入れたコーヒーを取り、シュミクトのテーブルへ置いた。
ゴーショー
「ところで、いきなりご訪問されてどうしたんですか」
シュミクトは、わたしの話の切り出しを待っていましたと言わんばかりに食い気味に喋り出す。
シュミクト
「さすが、ゴーショーさん!分かっていらっしゃる!
ぜひとも、聞いてほしい話があるのです」
まるで子供のように「聞いて聞いて」と目をキラキラに輝かせて喋るシュミクト。
「わたしで良ければ」と快く返事を返し、心を落ち着かせる意味でもシュミクトへコーヒーを勧める。シュミクトは言われるがままにコーヒーを飲み、一呼吸落ち着いてから要件を喋り出した。
シュミクト
「じつは…
ゴーショーとお会いしたその日にアクーン王の診察がありまして…
わたしは医者ではないのですが、賢者として
アクーン王の怪我の具合を確認したんです。
そうしたら、何やら原因となる”悪い気”というものを察知したのです」
!?
わたしは驚く。シュミクトがアクーン王の怪我の原因が分からないと連日にわたり嘆いていたにもかかわらず、いきなりの進展を得たからだ。シュミクトは続けて話す。
シュミクト
「わたしが”原因が見つからない”と悩んでいたのは、
ゴーショーさんもご存知のとおり。ところが、ゴーショーさんと
出会ったその日に突如、アクーン王の怪我の原因が分かった。
これはですね。
ゴーショーさんのおかげだとわたしは考えるんです」
ゴーショー
「いやいや、たまたまでしょ💦」
シュミクトは顔を乗り出して、真剣に話しかける。
シュミクト
「冗談は言ってませんよ!わたしは信じてます。
ゴーショーさんと出会えたから、こういった幸運に巡り合えた。
ゴーショーさんには本当に感謝しているんです」
ゴーショー
「お恥ずかしい…」
わたしは顔を隠し、照れている様子を演出した。おそらく、表情は変わらず平静を装っていただろう。ただ、心の中は突然の追い風にザワザワが止まらない。
そもそも、シュミクトが『ゴーショーさんと出会ったから見つけられた』という考えもあながち間違っていないのではと予想した。というのは、わたし自身はアクーン王へルボン王女の悪い気が送られていることを知っていたのだから。そして、そういった認識がわたしからシュミクトへ電波のようにつながり、結果としてアクーン王の検査で”悪い気”が送られていることにシュミクトは気づけたのではないか。
物事とは、そうした小さなキッカケで思わぬ方向へ切り出すのは良くある話である。
シュミクト
「ゴーショーさん!」
わたしが照れ隠しで、腕を上げていたのを下げるタイミングで話しかける。そして、真っすぐな目でわたしを見つめる。
シュミクト
「このことは勝手ながら、アクーン王へお話しさせていただきました!」
!!??
アクーン王にわたしの存在が認知された。ただ、ここからの話の持ち方ではどのように転ぶかは想像できない。わたしは多少の悪い方向を予想しつつ、シュミクトの話しに耳を傾ける。
シュミクト
「ゴーショーさんのおかげで、アクーン王の怪我の原因を認知できたこと。
あまりの興奮に思わず、アクーン王へお話しして、するとアクーン王が
どうしてもゴーショーさんに会いたいと言い出したんです!」
でたっ!!
この話の流れは良い方向だ。いや、あまりに事が上手くいきすぎて少々、鳥肌が立ってしまった。ゾワゾワするのが否が応でも分かってしまう。
シュミクト
「というわけで、もう話の結末はご理解いただけたと思いますが、
ゴーショーさん。アクーン王にお会いになってみませんか」
さすがに一気に話に乗るのは怪しまれる。
少しばかり遠慮がちに返事をする。
ゴーショー
「いやいや、わたしのような庶民とアクーン王がお会いするなんて。
なかなかに気が引けますね…」
シュミクト
「いやいや、大丈夫ですよ。アクーン王はそういった点は、
まったく気にしておりません。むしろ、
”命の恩人として丁重におもてなししたい”
とおっしゃってましたよ」
なんと!?命の恩人として丁重におもてなししたいですと!!
展開が良すぎる!驚くほどに上手いこといってやがる!
(ちょっと興奮して口が悪くなりました)
だとすれば、返事はこうだ。
ゴーショー
「では…
わたしで良ければ」
シュミクト
「決まりですね。それでは、いきなりではありますが
今からアクーン王に会いに行きましょう」
そこは
いきなりなんですね(;^_^A
と心の中でツッコミを入れつつも、この流れを途切れさせるわけにはいかないと思い、シュミクトへ「はい、分かりました」と答える。
さぁ、
なんとも奇妙な流れながらも突如としてアクーン王に逢える機会を得られた。この幸運は、一生分を使い果たしているかもしれない。または、ルボン王女の想いとやらが、わたしの道を照らしているのかもしれない。ただ言えることは、わたしはアクーン王と出会うべくして存在する人物なのかもしれない。この答えは、まもなく分かるのだろう。
アクーン王の
注意事項
わたしはアクーン王に出会うために身なりを整え、すぐにシュミクトと共にサンライト城へ向けて同行した。道中、シュミクトからアクーン王と会うにあたっての注意事項を教えてもらった。注意事項は3つである。
以上の3つだ。ひとつ目の注意事項は分かる。相手は王様だからこそ、言葉遣いには気を使わねばならないし、態度も考えなければならない。そういった王族との礼儀については、諜報員として身体に叩きつけているので問題はない。ただ、ふたつ目、みっつ目が奇妙だ。
ノリを大切にする?
下手にツッコミをいれない?
ちょっと言葉の意味が分からず戸惑ってしまう。シュミクトに「どういう意味なんですか」と問いかけても、「言葉のままですよ、会えば分かりますよ」と言われて放置された。
おそらく、コミュニケーションの一種としての注意事項だろうと長年の勘から想像はした。ノリというのは、現場の流れから逆のことを言わないといった感じだろう。流れのままに長い物には巻かれろ的なこと。『下手にツッコミを入れない』という点には、一旦、保留でいこう。それこそ、シュミクトの言うように会ってみてから判断すればいいだけ。難しいことではない。
アクーン王の注意事項を聞かされて、悶々と考えながらシュミクトの跡を付いて行くと、気づけば「サンライト城」の前に着いていた。
シュミクトは門番に「おつかれーー(_´Д`)ノ」と手をあげて顔パス。
わたしも会釈する程度で、門番はとくに気にすることなくスルーした。「シュミクトが客人を連れて来たんだろう」ぐらいにしか思っていないという顔だ。
門の内側に入ると、さらにサンライト城内へ入る扉が正面に見えてくる。扉の高さは3mほどだろうか。扉の左右には衛兵が立っている。シュミクトは衛兵にアイコンタクトを送ると、「分かりました」と衛兵は左右の扉を押して空けてくれた。わたしは、シュミクトの後ろを追いかけるように扉の中へ入っていく。
城内は、薄暗くも左右の天窓から日の光が差し込んでいる。光は中央に向かって集まり、わたしたちの歩く赤い絨毯の照らしている。絨毯の先には、さらに右と左に分かれるように上へつながる階段が螺旋式で設置されている。わたしはシュミクトと一緒に螺旋階段を上がり、城内の2階側へ登る。階段を昇り切ると、小さな通路を歩かされた。50m程度を歩いたのだろうか。すると、とある入り口に着くと、入り口の前に衛兵が二人たっている。どうやら、この先はとても重要な場所で厳重な注意が必要なことが取ってみるように分かった。そう、アクーン王の間である。シュミクトはアクーン王の間に入る前に立ち止まり、わたしにこう告げた。
シュミクト
「ゴーショーさん、着きましたよ!
ここから先がアクーン王のいらっしゃる部屋になります」
ゴーショー
「ありがとうございます」
シュミクト
「部屋に入ると、最初にわたしのほうからゴーショーさんを
アクーン王にご紹介させていただきますね。そうすると、おそらく
アクーン王からお言葉を頂戴する方向へ進むかと思います。
そのあとは、アドリブでどうぞ」
なんとも無茶ぶりな感じもありつつ、迎え入れてもらえる立場なので文句は言えないとシュミクトに頭を下げた。
シュミクト
「それでは、いきますね。ついてきてください」
ゴーショー
「はいっ!よろしくおねがいします」
いよいよ、アクーン王とのご対面。緊張で顔に出ていないか心配しつつも、ここまで来たからには”いきおい”が大切である。アクーン王とは、どうった人物なのか。なぜ、奇妙な3つの注意事項があるのか。わたしは肌で体験できるこの状況を楽しみたいと思いつつ、シュミクトの跡を追って、アクーン王の間へ入っていった。
続く…
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