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映画「小さき麦の花」夫婦の純愛と農民のリアルを描き、異例の大ヒットとなった奇跡の作品
映画「小さき麦の花」を鑑賞しました。
本作品のような、単館映画を見るのは久しぶりです。
知人からのオススメと、SNSや口コミで人気が広がった本作品。
早速鑑賞した感想をまとめていこうと思います。
◆作品情報◆
◆キャスト◆
ウー・レンリン、ハイ・チン、ヤン・クアンルイチャオ・トンピン、ワン・ツァイラン、ワン・ツイラン
◆あらすじ◆
2011年、中国西北地方の農村。
貧しい農民ヨウティエ(有鉄)は、マー(馬)家の四男。
両親とふたりの兄は他界し、今は三男・ヨウトン(有銅)の家に暮らしているが、息子の結婚を心配するヨウトン夫婦にとって、ヨウティエは家族の厄介者。
一方、内気で体に障がいがあるクイイン(貴英)もまた厄介者だった。
互いに家族から厄介払いされるかのように、ふたりは見合い結婚、夫婦になった。
1.農民の仕事と生活
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稼いでいくために、畑を耕し、麦とトウモロコシといった作物を育てる。
生活していくために、土から自作でレンガを作り、木材と組み合わせ家を建てる。
食べていくために、鶏の卵を孵化させ、鶏をヒナから育てて卵を産ませる。
こんなにもリアルに、農民の方々の仕事と生活を見るのは、初めてで新鮮でした。
農民の家庭に生まれると、自給自足で生きていくしかない。
畑の耕し方、作物の育て方のマニュアルがある訳でもない。
インターネットで検索することもできない。
農民である親から教わったことを覚えて、毎日毎日手入れをする。
休み暇もなく、遊ぶ時間もない。
どれだけ無休で懸命に育てたかが、数か月後の収穫時期、業者に作物を売った報酬として分かる。
言い訳や愚痴の通用しない、過酷な生活だと感じました。
それに比べると現代の仕事は、好きな仕事を選べる。
仕事のやり方は、インターネットで調べればいくらでも情報がある。
週休2日制、1日約8時間働くだけで給料がもらえる。
仕事や環境が合わなかったら、仕事を変えることもできる。
こんなにも優遇された働き方を、全国民に与えられているということ自体、ものすごく幸せなことだと、改めて気づかされました。
農民の方々からすると、とてつもなく羨ましいと感じるかもしれません。
もし、こんなにも恵まれた環境で生活し仕事ができているのに、文句ばかり言っているとしたら。
そんな文句ばかり言っている自分が、仮に農民として生まれていたら、誰も話を聞いてくれることはなく、飢え死にするでしょう。
恵まれた環境で生活し仕事ができていることが、当たり前じゃないということに、気付かされました。
2.夫婦の純愛
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主人公の2人は、家族から除け者扱いされ、半ば強制的に結婚させられた貧しい夫婦です。
そんな状態からスタートし、一緒にいる時間を重ねる中で育まれた夫婦愛に、心打たれるシーンがたくさんありました。
2人とも不器用な人間だからこそ、2人が一緒にいる時間の中で、必要以上の会話は生まれません。
それでも、会話が無くとも伝わってくる、行動から来る愛情表現の数々。
休む間もなく働き、結婚した当初より生活水準を上げ、妻を幸せにしようと懸命に努力する夫。
体に障害を抱えながら、夫を信じ支え、何があっても待ち続ける妻。
裕福じゃない家庭で育ったからこそ、小さなことに幸せを感じ、寄り添いあっていく夫婦の愛に感動しました。
現代では、ちょっとしたことで結婚したパートナーに不満を持つ話をよく耳にします。
それは、一緒に不自由なく生活できていることが、当たり前と感じてしまっているのかもしれません。
主人公の2人から、夫婦の幸せとは何かについて、考えさせられました。
3.リアリティを追求した演出
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本作品は、農民の方々の日常がリアルに描かれています。
主演のウー・レンリンさんの風貌や立ち振る舞いを見て、役作りでどうやってここまで農民らしさを仕上げたのだろうと思っていたら、ウー・レンリンさんは実際に農民の仕事をされてきた方で、リー・ルイジュン監督の実の父親のようです。
農民らしさを出す役作りに限界を感じたリー・ルイジュン監督は、農民である実の父親を主役に抜擢しました。
演技経験はないものの、農民としての立ち振る舞いや仕事の無駄のなさは、普段やっているからこそのリアリティがあります。
さらに、年月を経て育っていく作物の映像を撮影するために、作物の成長に合わせて10か月の撮影期間を要したそうです。
何もなかった土地を耕し種を受け、次第に成長し育っていく、作物の映像は圧巻でした。
◆まとめ◆
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余談ですが、僕の祖母と祖父も畑を持っていて、毎日朝から日が落ちるまで畑仕事をしていました。
「仕事に行ってくる」と言って畑の中に向かっていく祖父を見て、畑を耕すことがどう仕事につながるのか、子供のころの僕には分かりませんでした。
本作品を観て、祖父と祖母が休むことなく作物を育ててくれたおかげで、ごはんを食べられ生活できていたことへの感謝が生まれました。
本作品は、公開から2か月後、異例のヒットを叩き出したようです。
今年9月初め、『小さき麦の花(中国語題:隠入塵煙)』は突如中国の上映中映画の日別興行収入トップに躍り出た。
本作が中国で劇場公開されたのは7月8日だから、封切り後2ヶ月近く経ってからの快挙ということになる。
公開直後から中国の大手映画レビューサイト「豆瓣」で今年公開の中国映画トップの点数をマークするなど、映画を見た観客からの評価は非常に高かったものの、他の多くの「文芸片(=商業目的でなく、芸術性の高い映画)」と同様、興行的には大予算のエンタテインメント作の数字とは比べものにならなかった。
それが公開2ヶ月後、急に上映中作品で一番の大入り映画になったのだから、異例中の異例である。
入場者はその後もしばらく増え続け、社会現象と言えるほどのブームとなり、メディアは興行上の「奇跡」であると書き立てた。いったい何が起きたのか。
エンターテイメント映画のような、観てスカッとするような作品ではありません。
ただし、自然の雄大さや夫婦の純愛、仕事の価値観など、当たり前だと思っていたことへの感謝を感じさせてくれる作品でした。
気になった方はぜひ、本作品を観てみてください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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