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僕は今からキミのママにプロポーズをする

誰もが未経験なのに、チャンスは一度っきり。失敗は許されない。

ドラマや映画を通して数多くの成功事例を見ているため、クオリティの高さが要求されるもの。

それが「プロポーズ」だ。

***

今日は彼女と付き合って、1年半記念日。僕は彼女にプロポーズする予定で、ディズニーシーのホテルミラコスタに来ている。

誰もがうらやむ最高のホテル。1年半記念日当日。プロポーズをする日としてもタイミングもばっちりだ。ついに僕もプロポーズをする日が来たんだと、感慨深い気持ちになってきた。ホテルにチェックインし、ご飯を食べてゆっくりした後、彼女に話しはじめた。

「プレゼントしたいものがあるんだ」

そう伝え、僕は彼女に用意していたバラの花束を渡した。そして、準備していた手紙を読み上げていたとき、彼女の様子が変わった。


「ちょっと待って!」


まだプロポーズの途中だ。このタイミングで止めるとは、どういうことだ。


「え!?どうしたの」


「これって、そーゆーこと?」


「そうだよ」


僕は、彼女が喜んでくれると思った。


「嘘でしょ!最悪!」


彼女の予想外のリアクションに、僕は戸惑った。


「え!?何が?」


「このままやるなら、断るよ!」


「え!?」


僕の人生初めてのプロポーズは、彼女からまさかのストップが入り、失敗に終わってしまった。何度も言わせてもらうが、ここはディズニーシーで一番人気のホテルミラコスタ。婚約指輪も、バラの花束まで用意している。準備もシチュエーションも完璧なのに、どういうことだ。

これまでの準備が、すべて台無しだ。

彼女は怒り、それは次第に悲しみに変わり、今は口を閉ざしている。僕は目の前で起きていることが信じられず、放心状態。最悪の空気の中、僕は部屋の窓側に座り、ディズニーシーを眺めながら考えていた。

何がダメだったんだろう。

***

プロポーズが失敗に終わり、迎えた翌日はディズニーシーで遊ぶ予定がある。

昨日の出来事が後を引いているが、僕らは気持ちを切り替えて、ディズニーシーを楽しんだ。帰宅後はお互いに疲れていたこともあり、早めに就寝した。

一日経って、昨日の失敗したプロポーズについて冷静に考えはじめると、本当に僕のプランがダメだったのかと疑問があった。誰かの意見を聞きたくなり、僕は友達と会うたびにプロポーズの結果を話した。

「プロポーズどうなったの」

「いやそれがさ、途中で彼女に中断されたんだよね」

「え!?どーゆーこと?」

友達はほぼ全員「それは大変だったね」と僕に対して同情してくれた。彼女が僕の努力を踏みにじっていると怒りはじめる友達もいた。やっぱり、僕が間違っていたわけではないのかもしれない。

しかし、彼女に対して友達が怒りはじめたときには、僕は彼女をかばった。彼女を悪く言って欲しいわけではない。僕の準備が甘かっただけだと。他の友達には「僕の準備が甘かった」という前提で話をすると、確かにお前の準備不足と言われた。

友達にプロポーズの一連の出来事を話した結果、起きた現象は変わらないが、僕の解釈次第で良くも悪くも捉えられることが分かってきた。おそらく彼女も同じように「彼のプロポーズが最悪だった」という話を、友達にしているだろう。

賛否両論あるということは、大事なのは僕のこれからの行動だ。

このまま引き下がり、プロポーズを諦める選択もできる。そうすると、僕は他の女性と付き合い、今回のレベルのプロポーズで上手くいくかもしれない。

そう考えていると、もうひとりの自分が僕に対して「それでいいのか」と言ってきた。プロポーズが失敗に終わったのは彼女のせいにして、ここで引き下がっていいのか。彼女にこれまでの1年半、僕を信じていた私がバカだったと、言わせたままで終わりでいいのか。

それは嫌だ。

だとすれば逆に考えてみたらどうだ。ここでリベンジし、2回目のプロポーズが成功したらどうなる。ミラコスタを超えるシチュエーションで、もう一度プロポーズをする。彼女の理想を超え、感動し涙させるようなプロポーズ。それができたら、僕は彼女と彼女の友達たちに、僕を選んでよかったと言ってもらえるだろう。

ちなみに、このリベンジがうまくいかなったとしたら。それはそれで、2回目のプロポーズに全力を尽くしたなら、潔くあきらめられるかもしれない。3回目のチャンスがあるなら、何度でもやってみたらいい。

とにかく、ここでリベンジしない選択より、リベンジする選択をしたほうがいいと思った。

***

「これからどうするつもり?」

数日後、彼女がこう聞いてきた時には、僕は覚悟を決めていた。

「もう一度プロポーズさせて」

一度プロポーズを失敗したことで、次は前回を超えるプロポーズをしなければ、OKはもらえないだろう。

「また失敗したら、私たち終わりだからね」

彼女がそう言うのも仕方がない。プロポーズは一回で成功させるものだ。

「分かった」

僕はもう一度プロポーズをすることを、彼女と約束した。ミラコスタを超えるシチュエーションで、プロポーズができる自信なんてなかった。でもやると決めたから、何がなんでも成功させるしかない。

***

プロポーズリベンジをすることを決めたが、肝心のアイデアが浮かばなかった。何日考えてもダメだ。このままだと、彼女にフラれてしまう。焦っているだけで何も変わらず、ただ時間が過ぎていくばかり。何も行動を起こさない僕の見かねて、彼女がこんな提案をくれた。

「私の友達に協力してもらったら?」

友達の協力とは何だろうと思い詳しく話を聞いてみると、彼女の友達が話していた「こんなプロポーズがいいよね」というプロポーズ案が、彼女にとってはどれも理想的だったとのこと。確かにそんなにセンスがいい友達の協力を受けられるのであれば、理想のプロポーズができる確率は高くなる。

でも、本当にプロポーズの協力をしてもらっていいのだろうか。僕が考えるプロポーズ案に対して、色々とダメ出しされるのではないか。そうなると僕は耐えられるか。

しかし、そんなことを考えている場合じゃない。僕にはもう失敗ができない。他に選択肢はないのだ。せっかく彼女と彼女の友達が手を差し伸べてくれるのだから、素直に人の力を借りようと思った。

僕は「本当にお願いしてもいいのかな」と彼女に言った。

すると彼女は「いいよ」と答えてくれた。

***

その後、彼女は僕を「プロポーズ大作戦」と命名されたグループLINEに招待してくれた。

グループLINEに参加してみると、そのグループには彼女の友達が2人いた。僕がグループLINEに参加すると、彼女は早々にグループLINEを抜けた。そういえば、僕は彼女の友達たちと会ったことがない。とりあえず「よろしくお願いします」と挨拶をした。

しばらくすると、彼女の友達AちゃんとBちゃんから返信が来た。

「素敵な演出にしましょう!期間もあと少しなので急ピッチですね!」

Bちゃんはとてもフレンドリーな様子で、温かいメッセージをくれた。
しかし、Aちゃんは違った。

「まず教えていただきたい事項として。プロポーズの日程(予定、複数可)したい工程(花束、手紙など)プロポーズに仕掛けられる金額、仕掛け人を使うか。お忙しいとは思いますが、お手すきの際に返信頂けると幸いです」

堅い。堅すぎる。なぜこんなに堅いのかと疑問に感じたが、考えてみればこれは僕が彼女の友達と仲良くなるためのグループLINEではない。彼女の友達たちも、友達である彼女を幸せにしたいから、わざわざ時間を割いてくれている。これは本気で向き合わないと、彼女の友達たちに失礼だなと思った。

そしてこの日から、毎日膨大な量のLINEのやり取りが続く、僕の「プロポーズ大作戦」が始まった。

***

彼女はストレートで、思っていることをはっきり言うタイプだ。今回のプロポーズに対しても、何がダメだったのか、はっきり教えてくれた。

  • 前日に化粧していくべきか聞いたのに、化粧をして行った方がいいって教えてくれなかった

  • 服装がスーツでも正装でもなく、いつも通りの私服だった

  • ミラコスタの部屋がディズニーシーが見えない部屋だった

  • 2人とも室内着に着替えてオフモードだったのでこれなら家でやるのと変わらない

  • コンビニ飯にカップラーメンという質素な夜ご飯を食べたあとだった

  • 花束を袋から出して渡して欲しかった

  • 花束が生花じゃなくブリザードフラワー(死んだ花)だった

  • プロポーズが始まった時間が遅くてもう寝るモードだった

  • プロポーズをやるならホテルに入ってすぐやってほしかった

僕なりに、良かれと思って考えたプロポーズは、彼女を喜ばせられるものではなかった。すべて理由があるため言い返したい気持ちもあったが、もはや言い訳でしかない。

当時は気づかなかったが、俯瞰して見るとダメな点ばかりだった。

***

グループLINEを組んだ日、僕は夜な夜なプロポーズ動画のYouTubeを見漁っていた。チャペルでプロポーズをしている動画を見ていたとき、僕は動画を見ながら感動し、涙があふれてきた。

僕もチャペルでプロポーズがやりたいと思い、チャペルプロポーズで調べ、ヒルトン東京お台場のチャペルを貸し切り予約した。そしてAちゃんとBちゃんに「チャペルでプロポーズをやりたいです」と、プランの詳細を伝えた。すると、彼女たちがアドバイスをくれたが、それは僕の発想にないものばかりだった。

「このプランすごく素敵なんですが・・・”王道”すぎるんですよね」

王道のプロポーズだと、ダメなのか。そんなこと考えもしなかった。さらに、2回目のプロポーズということもあり、彼女の中でもハードルが上がっているようだ。僕のプランをベースに、AちゃんもBちゃんも必死でプランを考えてくれた。3人でアイデアを出し合っていたときに、Aちゃんが面白いアイデアをくれた。

「私は、〇〇くんにもプロポーズの時にいてほしいな」

まさかの発想だったが、名案だと思った。このプロポーズを最高のものにするために、彼に協力してもらうことを決めた。

***

1年半前、彼女と知り合った。彼女は僕にとって、見た目も性格も理想的な人だった。しかし、初めてのデートの帰り道に、ひとつだけ予想外な事実を知った。

「ひとつだけ言っておかなきゃいけないことがあるんだけど」

嫌な予感がした。でも、何を言われても動じないようにしようと思った。

「びっくりするかもしれないけど・・・」

「私、子どもがいるの」

彼女はシングルマザーだった。

僕はそれまで、シングルマザーの彼女と付き合うことなんて、想像したことがなかった。しかし、彼女の立場で考えてみると「子どもがいる」とカミングアウトした直後に連絡が途絶えると、ショックに感じるだろう。

(子どもがいることは一旦横に置いて、彼女のことをもっと知ろう)

それからも僕は変わらず毎日のようにLINEを交わし、2回目のデートをしたときに、僕は彼女に告白をした。

そして、僕らは付き合いはじめた。

***

「〇〇くんにスーツを着てもらって、ママ(彼女)を迎えに来て欲しい」

息子がスーツでママを迎えに行って、チャペルで待つ僕のところまで連れて来てもらうというAちゃんのアイデア。このアイデアはとても素敵で、何よりママである彼女が嬉しいだろうと思った。彼も心優しい少年なので、プロポーズの手伝いは快く受け入れてくれるだろう。

でも、彼に協力してもらうのには、少し抵抗があった。なぜならば、彼は1回目の失敗プロポーズのとき、一緒にミラコスタに来ていたのだ。僕は彼の前で、プロポーズを失敗した。情けない、かっこ悪い姿を見せた。

それもあって、彼の協力を得ることに少し抵抗があった。でも、せっかく協力してくれているAちゃんのアイデアを無下にはできない。このプロポーズは、最高のものにしたい。Aちゃんのアイデアを採用し、息子にも来てもらうことを決めた。

***

AちゃんとBちゃんのおかげで、プランは着々と決まっていた。

「せっかくなので、プロポーズのあとホテルに泊まっちゃいましょう」

「宿泊のベッドも飾り付けしたい」

「できればリムジンにもバルーンとシャンパンが欲しい」

AちゃんとBちゃんのアイデアはどれも天才的で、プロポーズプランのプロから、コンサルを受けているようなレベル感だった。

「送迎はMKタクシーのアルファードを予約するのもあり」

「バラの花束は新しく生花を用意しましょう」

僕はAちゃんとBちゃんのアイデア無しでは、また失敗を繰り返してしまいそうな、地雷を踏みそうなことばかり。自分があまりにも女性心を分かっていなかったことを、AちゃんとBちゃんとのやり取りの中で気づかされた。

「近々3人でごはん行こうって、事前に話しておこうと思います」

AちゃんとBちゃんは、彼女に当日プロポーズがあることを勘付かせずに化粧とオシャレをしてきてもらうために、仕掛け人として嘘の予定を立ててくれることになった。

「プロポーズのあと宿泊するなら、息子さんの預け先の確保も必要です」

たしかに宿泊となると、預け先も考えなきゃいけない。そう考えると、彼女のお母さんの協力も必要になってくる。僕は彼女のお母さんに、プロポーズの協力を依頼することにした。

***

彼女のお母さんが息子と2人でいるときに、相談してみた。

「お母さん、少し相談したいことがあります」

プロポーズをすること、当日彼を預かって欲しいことを伝えた。すると、お母さんは快く協力依頼を受けてくれた。

「そしたらその日は家で寝させるから、大丈夫だよ」

彼も当日チャペルへ来て、プロポーズに協力してくれることになった。

彼女の友達たちと、彼女の息子とお母さんも協力してもらうことになり、5人体制で進めることになった。思っていた以上に、周囲を巻き込んで企画することになった僕のプロポーズ大作戦。ここまで来たら、何がなんでも失敗するわけにはいかない。僕はさらに身を引き締め、プロポーズの準備に取り掛かった。

***

僕はAちゃんとBちゃんのアイデアを次々と採用し、備品を揃え、プロポーズの準備を進めた。プロポーズの詳細タイムスケジュールをまとめていると、ひとつ問題点が浮かんだ。彼女に僕が手配したアルファードに乗ってもらってから、チャペルがあるヒルトン東京までの移動時間の20分を、ひとりで過ごすには長くないだろうか。

この問題に関しては、Bちゃんから提案があった。

「手紙を読んでもらうより、2人の馴れ初め振り返りムービーを見てもらうのはどうでしょう」

動画作成のアイデアはすごく素敵だと思ったが、僕は動画を作成したことがない。Aちゃんが「私が代わりに動画作りましょうか?」と言ってくれたが、動画を見て彼女が感動してくれたとして、Aちゃんが動画を作ったと知って喜ぶだろうか。動画を作るのはかなり大変そうだったが、僕が作ったほうが彼女が喜ぶと思い、僕は自力で動画を作ることにした。

***

幸いにも彼女と付き合ってからの1年半、記念日やデートに行くたびに動画を撮っていたため、動画作成用の素材には困らなかった。Aちゃんがおすすめしてくれたアプリを使ってみると、スマホで簡単操作で動画が作れた。

動画作成の時間は、やってみるととても楽しかった。僕も忘れていた出来事をたくさん思い出し、可愛い彼女が映っている動画をたくさん見て、彼女にプロポーズすることへの気持ちがより高まってきた。

一旦動画が完成したところで、AちゃんとBちゃんに動画を共有。そこから修正を重ね、約2週間かけて彼女にプレゼントする動画が完成した。

プロポーズの準備も、いよいよ終盤戦。

「バルーンだけじゃなく、花びらも散らしたい」

「ろうそく型のランプも欲しい」

「クリスマス直前だから、クリスマスプレゼントも用意して欲しい」

僕はAちゃんとBちゃんの要望を受け、次々と備品を購入し、準備を進めた。

プロポーズまで、残り2日。

Aちゃんから、ビデオ通話をしたいと連絡があった。ちょうどAちゃんとBちゃんが職場で一緒にいるそうで、ビデオ通話で確認したいことがあるとのことだった。グループLINEで始まったビデオ通話で、初めてAちゃんとBちゃんと対面。

「はじめまして」

ここまでの3週間、毎日のようにグループLINEでやり取りを進めてきたが、対面するのは初めてで少し緊張した。AちゃんとBちゃんは、プロポーズの時の花束と指輪を渡す流れをレクチャーしたいということだった。

今日まで顔を合わせたこともない僕と、彼女のためにここまで時間を割いて、一緒になって考えてくれた2人に対して改めて感謝の気持ちが溢れてきた。僕もそれなりに忙しい時期だったが、AちゃんもBちゃんも忙しかっただろう中で、よくあれだけのLINEのやり取りができたと思う。

「もう流石です!素晴らしい!短い期間でここまでよく準備お疲れ様でした!」

Bちゃんからのメッセージは、心に染み渡った。

「あとは、彼女さんが感動して泣くのを待つだけですね!全てうまくいくように、あと少し頑張りましょ」

Aちゃんも激励のメッセージをくれ、とてもうれしかった。

プロポーズまで、残り1日。

***

プロポーズ前日は、最後のタイムスケジュールチェックをする程度で終わり、当日を迎えるのみとなった。

当日の流れは以下のとおりだ。

17:15-
彼女、仕事終了
AちゃんとBちゃんとフレンチに行く予定でヘアメイクをしてもらう

18:00-
フレンチに行くと思って職場を出ると、アルファードが止まっている
Aちゃんが彼女をアルファードへ乗せる
そのタイミングで動画を転送
移動中、動画を見てもらう

18:30-
彼女がホテル入口へ到着
スタッフさんと一緒に、スーツ姿の息子が待っている
息子がママ(彼女)をチャペルへ案内
チャペルへ入ると、花束を持った僕が待っている
僕のところまで、息子が彼女を連れてくる
息子には座って見守ってもらう
バラを渡す→ひざまずく→箱パカ→僕と結婚してください→彼女OK→立ち上がる→指輪をはめてあげる

19:30-
3人でレストランで食事

21:30-
お母さんが迎えに来てくれて、息子は帰宅
僕らはホテルへ
ホテルではバルーンアート、ノンアルワイン、ケーキを用意している
クリスマスプレゼントをサプライズで渡す
2人でゆっくり夜を過ごす

ここまで入念な準備をしてしまえば、もう何の不安もなかった。

***

当日は、清々しい気持ちで朝を迎えた。彼女にとってはいつも通りの朝だ。

「今日の夜はAちゃんとBちゃんと東京駅の35階のレストランでディナーがあるんだ」と嬉しそうに話していて、いつもよりオシャレな服装で職場へ向かった。

僕は午前中はいつも通り仕事をしたあと、午後からホテルへ向かって準備をする。午前中の仕事を終え、15時ちょうどにチェックインできるようにホテルへ向かい、部屋の飾りつけをはじめた。

試行錯誤しながらもなんとか16時には完成し、完成した様子をグループLINEで共有。時間ぎりぎりまで部屋の飾りつけの修正を重ね、AちゃんとBちゃんのOKをもらったころには16時半を過ぎていて、僕は急いで帰宅した。

***

急いで家に帰ると、家には息子とお母さんがいた。彼は今日プールの予定があり、まだ帰ってきていない予定だった。

「今日はこのあと急がなきゃいけないから、プールは休ませたのよ」

彼が帰宅したら急いで準備をして、一緒にホテルまで連れていく予定だったので、もう家に帰宅していることはありがたかった。お母さんのおかげで時間の余裕ができ、僕はスーツに着替えた後、10分間だけ目をつぶって呼吸を整えた。さらにお母さんが気を利かせてくれて、僕らをホテルまで車で送ってくれて、見送ってくれた。

「頑張ってね」

何から何までサポートしてくれる、お母さんの優しさに感謝だ。

プロポーズまで、残り1時間。

僕は息子と、チャペルへ入室した。時間の関係で下見に行けなかったため、予約したチャペルへ入るのは、このときが初めてだった。

扉を開けチャペルに入った瞬間、空気が変わったかのように感じた。

そこは研ぎ澄まされた空間で、言葉を失うほど綺麗だ。

チャペルの奥には十字架が飾ってあり、その奥の壁は前面ガラス張りで、東京タワーとレインボーブリッジが綺麗に交差した夜景が見える。

彼女と息子が扉を開けて入ってくることをイメージして、バージンロードの奥で用意していた108本のバラの花束を持って立ってみた。照明が変わると、白一色で統一されたチャペルが青一色に。こんな景色、映画やドラマでしか見たことがない。

しかし、これはドラマではなく現実だ。

僕が準主役であり、彼女が主役だ。1か月前に僕は一度プロポーズを失敗した。でもあきらめずに、ここまで来た。隣にいる息子に聞いてみた。

「ママ喜んでくれるかな」

彼はこう答えてくれた。

「ここまでやれば大丈夫っしょ」

一度プロポーズを失敗したときも隣にいた彼が、そう言ってくれたのは心強かった。

***

僕がチャペルで準備をしていた一方、彼女はいつも通り仕事を終えて、Aちゃんのサポートのもとヘアメイクをやってもらっていた。準備ができた彼女はAちゃんと職場を出ると、職場の前に黒いアルファードが止まっている。

Aちゃんは、彼女へ車に乗るように促した。戸惑う彼女にかまうことなく、Aちゃんは彼女に動画を送った。そのあとすぐに、彼女から僕にLINEが来た。

「今一人、車内でテンパり中なんだけど」

「今あなたが作成した動画みた。感動しちゃった」

「でも、今はパニック。何か起こってるのこれ」

急に車に乗せられて、行先も知らされずに一人でいると、動揺してしまうのもおかしくないだろう。チャペルに到着するまでサプライズにしたかったが、車内で移動中の20分間、何も状況も分からない状態で放置するのはかわいそうだ。楽しみを奪ってしまうのは良くないので、僕は詳細は伝えないように返信をした。

「驚かせてごめん、待ってるね」

「え!?今この車で、運転手さんが向かっている先にあなたがいるの!?」

彼女から驚いた様子のLINEが来たので、僕は「後でゆっくり話そう」と返信をした。

***

僕はチャペルのバージンロードの奥で、青い照明に照らされながら、バラの花束を抱えて待っていた。今日まで3週間怒涛の勢いで準備を進めてきたが、プロポーズは一瞬で終わるのだろう。チャペルで待っている間は、今日までのことを振り返っていた。

「彼女さん、そろそろ到着します」

彼女がどんな表情で、扉を開けてくるのだろう。第一声、どんな言葉を発するのだろうか。そんなことを考えていると、入口の扉が開いた。息子と一緒に、彼女が現れた。

「なに、すごい!」

「うそ!」

「なになに!」

彼女は驚きを隠せない様子で、感動して顔に手をあて泣きだした。チャペルまで彼女を誘導してくれた息子は、チャペルの最前席に座ってもらった。普通だったら、プロポーズをして結婚した後に、彼が生まれる。

子どもが親のプロポーズを見る機会なんて、人生で存在しないのだ。

しかし彼は、最前列で僕のプロポーズを見ている。口数の少ない彼は、どんな気持ちで見ているのだろうか。しっかりと見て目に焼き付けて欲しい。

僕は、今からキミのママにプロポーズをする。

彼女は、僕がプロポーズの準備をしていることは知っていた。だから、彼女は自分が泣くことはないだろうと思っていたそうだ。しかし、このシチュエーションは彼女の理想を超えるものだったようで、彼女は涙した。

彼女が泣き止んで落ち着くまで待ち、僕は準備していた言葉を伝えた。

「1年半、ずっと一緒にいてくれてありがとう」

僕は彼女に、バラの花束を渡した。彼女は、笑顔で聞いていた。僕はひざまずいて、指輪を取り出した。

「お待たせしました」

「僕と、結婚してください」

彼女は満面の笑みだった。彼女は、座って見ていた息子のほうを向いて、こう言った。

「ママ、結婚してもいい?」

彼は、こう答えた。

「うん」

彼女は僕のほうを見て、笑顔でこう言った。

「よろしくお願いします」

僕は立ち上がり、彼女の薬指に指輪をはめてあげた。

そして、彼女を抱きしめキスをした。

***

誰もが未経験なのに、チャンスは一度っきり。失敗は許されない。

ドラマや映画を通して数多くの成功事例を見ているため、クオリティの高さが要求されるもの。

そんなプロポーズを、僕は一度失敗した。

しかし、そこであきらめずに、周りの協力してもらって成功させた。

息子を含め、これからプロポーズをするみなさんに、ひとこと言わせてほしい。

一度失敗しても、諦めないで欲しい。

僕の経験が、これからプロポーズをする男性のみなさんの参考になれば嬉しい。

今回のプロポーズに協力してくれた、彼女の友達たち。

お母さん、僕の養子となる息子。そして彼女に感謝している。

僕は必ず、彼女を幸せにし続ける。

僕のプロポーズ大作戦は、大成功で幕を閉じた。

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