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数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第18話

  *

 俺は、この一糸家で、ちゃんと家族になることができるのだろうか?

 この家に来て、まだ日が浅いため、よくわからない。

 けど、咲茉との一件があったあと、俺は、そのことをずっと考えていた。

 俺は、この家に馴染めそうにないかもしれない。

 いや、馴染みすぎてもダメなのだ。

 あくまで俺は、この家の居候なのだから。

 だから、もしものことがあった場合、俺はこの家から追い出されても仕方がないと思う。

 それでも俺は、この家を出ようまでの考えに至れない。

 なぜなら、この家は居心地がよすぎるからだ。

 もし、この家を出て行ったとしても、きっと俺は後悔するだろう。

 だから、このまま俺は、この家にいても大丈夫なのかどうか不安になっていた。

 俺は、どうしたらいいのか、わからずにいた。

 そして、俺は悶々とした思いを抱きながら眠れない夜を過ごすのだった……。

  *

「おはよう、蒼生お兄ちゃんっ!」

「ああ……咲茉、おはよう……」

「……どうしたの? 眠れなかった?」

「まあ、な……」

「ふーん。あたしは、ぐっすり寝たけどなぁ〜」

「そりゃあ、咲茉は朝型だもんな……」

「むぅ〜、なんか元気なさそうだね」

「…………」

 どうして、この子は平然としていられるのだろう?

 昨日の件が気まずくならないのか?

「蒼生お兄ちゃん、こっち向いて?」

「なんだよ……」

「えいっ!」

「なっ!?」

 咲茉は突然、俺に抱きついてきたのだ。

「ちょっ! いきなり、なにをしてるんだっ!」

「えへっ。充電中!」

「じゅ、じゅうでんちゅう……?」

「アオイニウムを補充しているの!」

「そ、そそ、そう……か……」

「とにかくっ! もう少し、このままでいて……」

「…………」

 咲茉は、ぎゅっと力強く抱きしめてくる。

 そして、俺は咲茉に身を任せていた。

 咲茉の体温が伝わってきて、心が落ち着く……のだけど、このままじゃいけないと思った。

「咲茉……離してくれないか?」

「やだっ! 蒼生お兄ちゃんが素直になるまで絶対に離れません!」

「えぇ……」

「ほら、ぎゅっ、ぎゅっ! 蒼生お兄ちゃんがあたしのこと好きって言うまで絶対に離れないよっ!」

「わ、わかったよ……わかったから、離れてくれ……」

「やったっ! じゃあ、蒼生お兄ちゃんは、あたしのことを恋人として好きなんだねっ! それも超がつくくらいの超絶ラブで超愛してるんだよねっ!」

「そ、それは……」

「違うの?」

「従兄妹として、な……」

「じゃあ、いいじゃん! 蒼生お兄ちゃんも、もっとあたしのことを好きになってよ!」

「そ、それは無理だよ……」

「どうして? どうして、できないの?」

「それは……その……」

 俺の脳裏には陽葵がチラついたのだが、うまく言葉にできなかった。

 そんな俺の様子を見たであろう咲茉は悲しげな表情を浮かべる。

「そっか……やっぱり、あたしじゃダメなんだね……」

「…………」

「でも、絶対に諦めないから……」

「え、咲茉……」

「だから……覚悟しておいてね? いつか、必ず、蒼生お兄ちゃんを振り向かせてみせるから……」

 咲茉はそう言い残して、俺から離れていく。

「咲茉ぁ〜? 蒼生、起きた〜? 早く起きないと遅刻するよぉ〜?」

「うん、わかった〜」

 咲茉は部屋から出て行く前に、こちらを振り返る。

「蒼生お兄ちゃん。今日は一緒に学校いこうね」

「ああ……わかったよ」

「うん。約束だよ?」

 そう言って、咲茉は一階へと降りていった。

 昨日の一件から、今日の朝まで、俺にとっての咲茉の印象は大きく変わってしまった。

 なんというか、今まで以上に積極的にアピールしてくるようになった気がする。

 これは、気のせいなのだろうか……?

 いや、気のせいではない。

 だって、さっきの咲茉は、どこか妖艶な笑みを浮かべていたのだから……。

 これから俺は、どうなるのだろう?

 そんなことを思いながら、着替えを済ませて一階に降りると、そこには美しき四姉妹の姿があった。

 俺は自分が、どんなに恵まれているのか……それを改めて知るのであった。

  *

 朝ごはんを食べ終えて登校の準備をしていると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 扉を開けると、そこにいたのは咲茉だった。

「早く学校いこっ! 蒼生お兄ちゃん!」

「う、うん……」

「なに、その微妙な返事は?」

「いや、なんでもないよ」

「なら、よかった。じゃあ、いこっか」

「そうだな」

 俺は玄関に向かう。

 すると、そこには靴を履いて準備万端な様子の陽葵がいた。

「蒼生、学校いこう」

「ああ……」

「……どうしたの?」

「いや、なんでもないよ」

 俺は慌てて、靴を履く。

 そして、三人で家を出た。

「ねぇ、蒼生お兄ちゃん。手、つなご?」

「ああ……」

 俺は咲茉に手を差し出す。

「えへっ」

 咲茉は嬉しそうな笑顔を見せて、手をつないでくる。

「えっ……?」

 陽葵はクエスチョンマークを頭に浮かべる。

「咲茉、ずるいっ! わたしもつなぐっ!」

 咲茉は左手で俺の手を握っているので、右手が空いている。

 なので、陽葵は俺の右手を掴んできたのだ。

「……ちょっと、あのさぁ……陽葵? 咲茉?」

 ふたりは鋼の意志で俺の手を離さなかった。

 いくらリュックで通学しているとはいえ、両手が塞がっている状態は歩きにくい。

 しかも、左右からの柔らかい感触が伝わってきて、とても恥ずかしかった。

「えへへ〜。蒼生お兄ちゃんと一緒に学校いけるなんて幸せだなぁ〜」

「蒼生。このまま学校に、いこ?」

「えっ……!? このまま!?」

「うん。このまま」

「蒼生お兄ちゃん、このままでいこっ!」

「…………」

 まあ、この状態でもいいか……。

 周りが俺たちをどう見るか、わからないけど……。

 俺は諦めて、両側に美少女を連れて登校することになったのである。

 まさか、こんなことになるとは思わなかった。

 だが、俺は今の状況を受け入れてしまっている。

 俺の心は、どうなっているんだろう?

 自分でも、よくわからなかった……。

 そうして、俺は両脇に女の子を抱えるように学校へと向かう。途中、同じ学校の生徒たちから視線を感じるが、なるべく気にしないようにしていた。

「蒼生お兄ちゃん、なんか注目されてるね?」

「そりゃあ……そうだろうな……」

「ふーん。あたしは、ぜんぜん平気だけどね」

「咲茉は、どうして蒼生の手を握っているのかな……?」

「うん! だって、あたしは蒼生お兄ちゃんの恋人になるんだもん!」

「えっ……?」

「ちょっ……!? 咲茉……!?」

「あっ! このことは、まだ誰にも言ってなかったな……! 言っちゃった! えへへ……」

「いや、その……えっと……」

「あはは……蒼生は、わたしと恋人でありながら、そういうこともするの? ハーレムでも作るのかな?」

「いや、それは違う……」

「じゃあ、どういうこと? 説明してくれる?」

「それは……えっと、なぁ……」

「蒼生お兄ちゃん、あたしは本気だからね……? だから、覚悟しておいてね? いつか、必ず、蒼生お兄ちゃんを振り向かせてみせるから……」

「…………」

 俺は、なにも答えられなかった。

 どうすればいいのか、わからずに困惑するばかりだった。

「咲茉は蒼生のことが好きってこと?」

「うん、そうだよ」

「そっか……そうなんだ」

「うん」

「…………」

「…………」

「…………」

 しばらく沈黙が続く。

 そんな状況の中、咲茉は俺を見上げて微笑む。

「蒼生お兄ちゃん、大好きだよ」

「……っ!」

 咲茉の潤んだ瞳に見つめられてドキッとした。

 これは反則じゃないか?

 かわいすぎる!

 けど、咲茉は、まだ中学生だ!

 真に受けるな……!

「咲茉だけが好きなわけじゃないよ……? 蒼生は、わたしの彼氏なんだから」

「う、うん……」

 俺は曖昧な返事をするしかなかった。

 正直なところ、どうしたらいいのか、わからず困っていた。

 ふたりの気持ちに応えたいと思う自分と、応えてはいけないという自分がいて、自分の心がわからなくなっていた。

「ねぇ、陽葵お姉ちゃん? お姉ちゃんは、どうなの? あたしと張り合うつもり?」

 咲茉は挑発的な笑みを浮かべて言う。

「あたしと張り合ってみる?」

「それは……その……」

「お姉ちゃん、弱気だねぇ……」

「でも、蒼生は、わたしと……」

「わたしと? それで?」

「…………」

 陽葵は黙り込む。

「蒼生お兄ちゃん、どうなの? 陽葵お姉ちゃんと、どっちを選ぶの?」

「えぇ……」

「ほら、早く!」

「えっと……とりあえず、咲茉、黙ろうか」

「えっ?」

「家族で、いがみ合うのは、よくないよ……陽葵が困ってるし……」

「ふぅーん、やっぱり陽葵お姉ちゃんには敵わないなぁ……ちょっと妬いちゃう……」

「それに俺たちは家族だから、なにも登校中にいがみ合わなくてもいいだろ。今は学校の教室へ行くことだけを考えようぜ」

「……はーい」

 咲茉は、それで納得したようだ。

「陽葵お姉ちゃん、帰ったら覚悟しておいてね」

「えっ、なにを……?」

「わかってるくせに……!」

「咲茉っ!」

「はいはい、はーい! じゃあ、蒼生お兄ちゃん、まったねー!」

 咲茉は中等部へ向かっていった。

「陽葵、気にするな。咲茉のは……思春期特有の暴走だから、そんなに真に受けるなよ」

「……わかってるよ」

 陽葵は、少しだけ落ち込んだような表情を見せた。

「とりあえず、教室へ向かおう」

「……うん」

 陽葵……俺は、どこへいけばいいんだ。

 俺が答えを出すべきなのか……?

 ……いや、まだ、いいか。

 いずれ、答えを出せる日が来る……かもしれない。

 そのときまで、待つしかないよな。

 そんなことを思いながら、俺は陽葵と高等部のクラスの教室まで、急いで向かうのだった。

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