数年ぶりに再会した従姉妹と、ひとつ屋根の下で甘い生活を 第16話
*
陽葵が扉を開けると、中には琴葉さんがいた。
「ようこそ、生徒会室へ」
「琴葉姉さん、こんにちは」
「琴葉さん、こんにちは」
琴葉さんは、俺たちを見て笑みを浮かべた。
「さあ、座って」
琴葉さんに促され、俺と陽葵はそれぞれソファに腰かけた。
「あの、それで……俺はどうして呼ばれたんですか?」
「あなたにお願いがあって呼んだの」
「俺に?」
「実は……もう、蒼生くんは、その問題に踏み込んでいる感じはあるけど、不良生徒たちの問題を解決してほしいの」
「問題……ですか?」
「ええ。蒼生くんは、いずれ風紀委員になってもらうつもりだし、その前にこの問題を解決できるなら、早いほうがいいと思って」
「わかりました」
「助かるわ」
「いえ、でも、どうして、俺なんですか?」
「うーん、まあ、蒼生くんは陽葵を守ることで頭がいっぱいだったかもしれないけど……でも、あなたには、もっと大切なものがあると思うからよ」
「大切なもの?」
「ええ。陽葵もそう思っているはずよ」
琴葉さんが微笑む。
陽葵は小さく首を縦に振っていた。
「だから、蒼生くん、これからもよろしくね」
「はい」
こうして、俺は琴葉さんの頼みを引き受けることになった。
琴葉さんの言う通り、俺は、陽葵のことばかりを考えていた。
でも、それだけじゃなかった。
俺には、もっと大切にしなければならないものがあったのだ。
だから、俺は――。
「陽葵、俺は風紀委員になるよ」
「……うん」
「そして、不良生徒を取り締まる」
「……わかった。わたしも手伝うよ」
「……ありがとう」
「ふふっ」
陽葵が嬉しそうに笑う。
「まず、その台詞を私に言ってくれないかしら」
「あっ……」
「琴葉姉さん、わたしからもお願いします」
「……お願いします」
俺は頭を下げた。
「ふふっ、それじゃあ、蒼生くん、これから一緒にがんばろうね」
「はい!」
こうして、俺は風紀委員になった。
そして、陽葵を守ると改めて決意するのであった。
*
そんな感じで一日が終わろうとしていたはずなのに、なぜだ……。
陽葵が俺の手を握っている。
現在、俺は陽葵と一緒に下校している最中である。
「……ねえ、蒼生」
「どうした?」
「最近、ずっと考えていたことがあるんだよね」
「そうなのか?」
「うん。わたし、思うんだけど……」
陽葵は立ち止まると、真剣な表情で俺を見つめてきた。
「わたしが困ったときや落ち込んだときに助けてくれる人は、いつも蒼生なんだなって思ったの」
「陽葵……」
「だからね、蒼生は……どんなことがあっても、絶対にわたしのことを見ていてほしいんだ。わたしも、蒼生のことを見ていて。わたしたち、お互いのことを一番近くで見ていこうよ」
「ああ、そうだな」
「ふふっ」
陽葵は満足げに笑ったあと、再び歩き始める。
「なんか恥ずかしいことを言っちゃったかも」
「大丈夫だよ。ちゃんと伝わってる」
「そっか。よかった」
陽葵は照れくさそうな顔をしながらも、どこか嬉しそうだ。
俺は陽葵の隣を歩きながら、考える。
俺は……これから先、なにをすべきかを。
それは、まだわからない。
でも、いつか必ず答えを見つけよう。
陽葵と一緒に。
それがきっと、俺のやりたいことだから。
*
帰宅すると、少しだけ一糸家の様子がおかしいことに気がついた。
一華さんがリビングのテーブルに座って、なにかを考え込んでいたからだ。
「ただいま帰りました」
俺の声に気づいたのか、一華さんはハッとした顔になる。
「おかえり〜」
しかし、すぐにまた考え込むような仕草を見せ始めた。
「どうかしましたか?」
「ちょっと悩み事があってさ〜」
「そうですか……ちなみに、どんなことについて悩んでいるんですか?」
「えっとねぇ〜、でも、今は、いいかな〜」
「えっ?」
「とりあえず、蒼生と陽葵は休んでて〜」
「はあ……」
なんだよ、結局教えてくれないのかよ。
まあ、でも、言いたくないのなら仕方がないな。
俺は自分の部屋に向かうことにした。
*
ベッドで横になって本を読んでいると、陽葵が部屋に入ってきた。
「入るけど、いいよね?」
「ああ、ノックは、してほしいけどね」
「ごめんね。ちょっと気になったの。今日は、いろいろあったけど、疲れていない? 平気?」
「大丈夫だよ」
心配してくれているらしい。
ありがたい。
「陽葵こそ、大丈夫?」
「うん、元気! あ、でも、今日は、いろいろあったし、眠くなってきたかも」
「寝るなら、ごはんを食べ終わってからのほうがいいぞ」
「うん、そうする。けど、その前に今日の癒やしが、まだだよね」
「えっ?」
「んー……」
陽葵は俺の身体に抱きついてきた。
「蒼生成分を補給しないと」
「あ、あー……」
「いい?」
「まあ、いいけど……」
「やったー!」
陽葵は満面の笑顔を浮かべると、俺の胸に頬ずりを始めた。
本当に猫みたいだ。
「ねえ、蒼生」
「ん?」
「あのね、わたし……最近、よく夢を見るんだ」
「へえ、どんな内容の夢?」
「えーっとね……」
陽葵が俺の顔を見上げる。
そして、口を開いた。
「夢の中だと、わたしはね……蒼生のお嫁さんになって、幸せな毎日を過ごしているの」
「お嫁さんって……」
「ふふっ、でも、これは、どうなるか、わからないけどね」
「なんで?」
「だって、わたし……蒼生と一緒にいるだけで、こんなにも幸せだから」
「陽葵……」
「それにね、わたし……蒼生に、ずっと守ってほしいと思ってるんだ」
「守る……」
「うん。わたしを守ってくれる人を、わたしはずっと待っていた気がする。だから、これからも……わたしのことを守ってくれますか?」
「ああ、もちろん」
「ありがとう」
陽葵は嬉しそうに微笑むと、再び胸の中に飛び込んできた。
「わたし、今が一番楽しいかも」
「そうか」
「うん!」
こうして、俺たちは一緒に過ごす時間を積み重ねていく。
やがて訪れる未来に向かって――。
*
訪れる未来は必ずしも一本の線のようになっているわけではない。
ひとりの人間だけでも複数の可能性を持つものなのだ。
だから、これから先、俺たちにどのようなことが待ち受けていようとも、陽葵と一緒に、一歩ずつ進んでいこうと思っていた。
でも、俺たちは大事なことを見落としている。
それは俺と陽葵がニセモノの恋人関係であること……これは紛れもない事実である。
だからこそ、俺は……陽葵とのニセモノの関係を終わらせなければならないのだ。
それが俺と陽葵の関係の最終手段であることは間違いない。
俺たちは、たぶん、この選択で後悔しないだろう。
問題は……家族……親戚たちが、どう思うか、だ。
俺たちは、従兄妹である。
そして、一糸家の四姉妹とは、なにかと複雑な関係性にあると俺は思っている。
もし、俺が陽葵と本当の恋人になってしまったら……。
それは俺が一糸家で生活をすることができなくなるということを意味すると思う。
つまり、一糸家から追い出されることになるわけで……。
そうなった場合、俺はどうすればいいのか?
答えは出ない。
そもそも、この問題は簡単に解決できるものではないはずだ。
それでも、俺は、どこかで決断しなければならない。
*
そんな思いを持っていた俺だが、俺の心を揺るがす事件が発生してしまった。
夕食を食べ終え、お風呂に入ろうとした俺、湯船に浸かっているときに事件が起こった。
それは咲茉が俺が入っている風呂場に入ってきたのである。
そうだ。
俺は、まだ咲茉に答えを出せていない。
まだ、俺は……優柔不断なクズで、肝心なときに決断ができない愚か者だったのだ。
こういう表現が俺に適しているのかは、正直なところ、俺には決められないが、俺の過去の回想を神の視点で見れる者たちに委ねることにしよう。
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