超常異能の改変作家 第8話
*
これは、もしもの……可能性の話。
僕たちの世界が滅亡する危機にあるとする。
そうなったとき、僕たちは、どう判断するべきだろうか?
世界を救うための行動をするのだろうか?
手段さえ見つかれば、すがりたいと願うだろうか?
これは世界が消滅するかもしれない危機に立ち向かう日本人の……いや、僕たち人間の物語だ。
「要は自分の世界を救えない英雄が、この世界を救える英雄になれるか、って話だよ。まずは邪悪獣《ジャークビースト》を模した架空獣《カクービースト》との戦闘をおこなってもらおう。そうすれば、キミたちの世界を救う道は拓かれる」
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これは、わたし――若菜初芽《ワカナ・ハツメ》と羅円《ラエン》家の世界の話だ。
西暦三〇XX年の日本の人口は千人にも満たない。
わたしたち日本人は絶滅の危機にあった。
約千年前の日本より生活環境がウイルスなどで汚染されており、とても生きていくには難しい課題があった。
わたしは両親を幼いころに亡くし、大公《タイコー》たちのいる羅円《ラエン》家に引き取られることになる。
羅円《ラエン》家は環境汚染により親を亡くした子どもたちを引き取る、いわば孤児院であった。
そのときに大公《タイコー》たちに出会うのだけど、どうも……わたしは、大公《タイコー》が苦手だったのかもしれない。
「転移」した次の日に大公《タイコー》は、わたしの……いや、わたしたちの前で初めて感情を吐露したわけだけど、どうも違うような気がするのだ。
まあ、本人が言っているから、そうなのかもしれないけど。
無口で不気味で、なにも感情を出さない、近づこうとしない、つかもうとするのだけど、離れてしまう……羅円大公《ラエン・タイコー》は、そんな人間だったのだ。
「…………」というセリフが永遠に続くくらいに無口な少年であった。
そんな大公《タイコー》が、だ。
いきなり「結婚してください」というわけよ。
ちょっと思考が追いつかなくなる。
だけど、悪い気はしていない。
幼いころから、ずっと一緒にいたのだ……幼馴染として。
だから、わたしは……いずれ、彼と結婚するのだろう。
それが自然だ。世の中の理だ。
でもね、その前に、やらなきゃいけないことがあるの。
わたしたちのいた西暦三〇XX年の日本を……いや、世界を誰でも豊かに暮らせる環境にしなければいけない。
だから転移するときにハーティアの女王が言っていた邪悪王国《ジャークキングダム》からトランピアを守って救わなければいけないのだ。
そうしなければ、「聖杯」の機能は発動しない。
トランピアを邪悪王国《ジャークキングダム》から救う……それが、わたしたち転移者の使命なのだ。
「聖杯」は、平和になって……初めて、機能するのだから。
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「要は自分の世界を救えない英雄が、この世界を救える英雄になれるか、って話だよ。まずは邪悪獣《ジャークビースト》を模した架空獣《カクービースト》との戦闘をおこなってもらおう。そうすれば、キミたちの世界を救う道は拓かれる」
ハーティアの女王が言っていることは、つまり……こういうことだ。
「自分の世界を救いたければ、トランピアを救える実力がない場合、世界ごと消えろ」って意味。
なんて残酷な言い分である。
「なんで……わたしたちは、ただ、わたしたちの世界を救いたいだけなのに……どうして、わたしたちを試すようなことをするの? それでも、あなたたちは、わたしたちに世界を救ってほしいの?」
僕は初芽《ハツメ》の肩に手を乗せる。納得させるように言う。
「初芽《ハツメ》……もう、やるしかないよ。そうしなければ、僕たちの世界は救えない」
「でも……」
「どっちにしろ、僕たちのやるべきことは変わらない。それに模擬戦だ。この世界に来て、やっと自分の能力を使えるときが来たんだ。とにかく……やってみなきゃ、わからないよ」
初芽《ハツメ》は僕の両隣にいる姉妹にも顔を伺う。
どうやら、彼女たちも僕と同じ意見みたいだ。
「……心は決まったようだな。ならば模擬戦に移ろう。架空獣《カクービースト》の架空狼《カクーウルフ》と戦う準備ができた者から名乗りを上げるがいい。今日中に戦わなければ、明日にはキミたちは消えている――」
*
――僕たち四人は同じ世界の住人だからパーティになる。
どんな能力を持っているのかは不明だが、名前も関係するらしいから、それで考えてみるか?
それと……僕には、どんな能力があるのだろうか?
それがわかるだけでワクワクしてしまう。
ただ、これは遊びではない。
これは世界を天秤にかけた戦いなのだから――。
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