超常異能の改変作家 第9話
*
――たとえ模擬戦であったとしても、これは世界を天秤にかけた戦いだ。
この戦いに勝利できなかった場合、その人たちと、その世界は消滅する。
これは、ある意味では本番なのだ。
だから僕たちは、この戦いに絶対、勝たなきゃいけないんだ。
「異次元――『西暦三〇XX年の地球』の世界代表……羅円麻音《ラエン・アサネ》、羅円大公《ラエン・タイコー》、羅円生萌《ラエン・イクモ》、若菜初芽《ワカナ・ハツメ》……前へ」
僕たちは西洋のコロシアムを模した会場の扉を出て、円上のステージで武器を構える。
僕たちは四人とも剣を持ち、架空狼《カクーウルフ》との戦いに備える。
僕たちの周りには観客らしき人らがいて、どうやら「審査」をしているようだ。
まあ、どっちにしても勝たなきゃ意味ないけど――。
――そんなことを思った瞬間、架空狼《カクーウルフ》が四体、大きな扉から解錠される。
『グルルルルルッッッッッッ!』
四体は鳴き声を揃えながら吠えている。
通常サイズが三体、それよりも十回りも大きいやつが一体か。
「これ、勝てるのかな……?」
ふと弱音を吐く僕に三人は……――。
「なに言ってんのよ、これに勝たなきゃ、どっちにしろ、わたしたちの世界は消滅するってのに! 絶対に、勝つよ!!」
「初芽《ハツメ》姉ちゃんの言う通りだよっ! 生萌《イクモ》もがんばるから、大公《タイコー》兄ちゃんもがんばるんだよっ!!」
「タイくん……とにかく、私たちの能力を試すときだよ。確か、名前の意味が能力に反映されるんじゃなかったかしら? 私は羅円麻音《ラエン・アサネ》だから……麻の音?」
麻音《アサネ》姉ちゃんは「麻の音」を空想する。
すると、さっそく異能が発動した。
『…………????』
「これって、混乱状態ってこと?」
「そうかもね、初芽《ハツメ》姉ちゃん。架空狼《カクーウルフ》は四体とも動きが鈍くなってるようだよ」
「なるほど、麻音《アサネ》姉ちゃんデカした!! ……麻音《アサネ》姉ちゃん?」
僕は声をかけたが、麻音《アサネ》姉ちゃんは急に倒れた。
「大丈夫っ!? 麻音《アサネ》さんっ!!」
「麻音《アサネ》姉ちゃんっ!!」
僕たち三人は、かけよったが、麻音《アサネ》姉ちゃんは……――。
「――……大丈夫よ。そんなことより、今のうちに倒しちゃいなさい」
『――……了解』
僕たち三人は声をそろえて……通常サイズの架空狼《カクーウルフ》をそれぞれ一体ずつ倒す。
残すは通常サイズの架空狼《カクーウルフ》より十回りも大きい、いわゆる架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》だったが……――。
「――……グルルルルルッッッッッッ!」
めざめたようだ。
「だったら、僕の異能をめざめさせるしか、ないか」
息を整える。
よし、やるぞ。
……あ、でも……どっちを使えばいいんだ?
僕の本当の名前か? 羅円大公《ラエン・タイコー》か?
でも、羅円大公《ラエン・タイコー》は、ある意味では僕じゃないし、あ……でも、今は僕か。
羅円《ラエン》は、集めて、まるく収めるって意味かな?
羅は鳥や小動物などを捕獲するための網って意味らしいし、円は、まるく囲むって意味になるかな……?
つまり、統一する?
大公は君主の称号を意味するが、本当にそのままの意味なのだろうか?
もし君主の称号を意味するならば、統一する君主的な意味になるのかな?
いや、難しく考える必要はない。
ただ、空想をするだけでいい。
イメージするのは、常に最強の自分……あれ、どこかの作品の主人公が言ってなかったっけ……まあ、いいや――。
――僕は思い出す。
僕は常に嫌な場面でも小説という形で物語を書いていた。
だから僕の能力は、おそらく――。
「――『物語』だっ!」
僕は絶対に勝つ。
だって主人公だから。
大公《タイコー》は、おそらく「大きな主人公」という意味だと思う――そんな気がする。
だから僕は主人公として、絶対に勝ってみせる。
それが僕の主人公としてのあり方だ。
やってやる――。
――僕は剣を構え、架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》に刃先を突き立てようとする……しかし――。
――剣をはじいた……だと?
「バウッ!」
巨大な狼は剣をはじいて僕に――。
――僕は巨大な狼に爪を立てられ、コロシアムの内壁まで吹き飛ばされた――。
「――どうして? ……――」
――意識が消えていく。
……が、ふと思う――。
――僕は主人公じゃなかった、のか?
……僕は、僕の原点を振り返る必要があるかもしれない――。
*
――原点。
僕は素人《アマチュア》でも小説家だった。
あらゆる世界を創造した。
その自信は、確かにあった。
だけど、その中には……その世界を破壊してしまったことだってある。
原稿を捨てる。
PCにデータとして残っている文章ファイルを削除する。
そうして、僕は僕自身が生み出したものを破壊した。
それが原点だとするならば、僕の本当の能力は、なんなのだろうか……?
僕は、それを理解できるのだろうか?
このままじゃ、ダメなんだよ――。
――だって、僕は転生を望んでいたから。
だから、戦いに勝利して、ハッピーエンドを迎えることしかできないんだよ――。
*
――大公《タイコー》の意識が戻らない。
わたし――若菜初芽《ワカナ・ハツメ》は……いや、わたしたちは絶体絶命のピンチだ。
架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》は健在している。
唯一、力のある大公《タイコー》は意識を失っている……いや、もとからヒョロヒョロで力なんてなかったっけ? でも、男子だしなあ……。
この状況を打破するためには、わたしと生萌《イクモ》の異能を覚醒させるしかない。
大公《タイコー》は、もう……でも、わたしは信じてる。
これは大公《タイコー》がヒーローになるための試練だって。
まだ、わたしは……あきらめない。
わたしは、まだ返事をしていないから。
まだ日本では、十八になるまで結婚できないから、わたしは十八になるまで待とうと思う。
だから……起きてよ。
わたしたちの世界を守ってよ。
わたしたちの世界を救ってよ。
そうじゃなきゃ、ダメだよ。
この物語をハッピーエンドにして……それ以外の選択肢は、絶対にダメだからね。
めざめて、大公《タイコー》……――。
――若菜初芽《ワカナ・ハツメ》は願う。
「若々しくて初々しい植物」のような名前を「概念化」して放つ、その異能は――。
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