超常異能の改変作家 第10話

  *

 ――そういえば、僕は……なんで「世界」を消してしまったのだろう?

 出来が悪かった、だろうか?

 とっとけば、よかったのに……。

 どうあがいても、その世界は僕のつくるものだから、つたないところがあっても仕方ないのに。

 僕はプロじゃない。

 ただ、文章をダラダラ書くことだけが得意なアマチュア作家だ。

 その文章に意味は、あるのだろうか?

 ……そうだ、確かに僕はプロじゃない。

 だけど、認めてほしかったんだ。

 自分の努力を。

 誰かに見てもらいたかったんだ。

 だから、ほとんどの小説はネットに公開した……あまり評価は、されなかったけど。

 けどね、それでも嬉しいんだ。

 誰かに読んでもらえることが。

 どんなにつたなくても、投稿サイトのアクセスがあるだけでワクワクしていた。

 たとえ一《いち》の数値だとしても、その向こうには読者がいる。

 だから僕は書くことができた。

 評価されない零《ゼロ》ポイントだったとしても――。

 ――……で、これ……なんの話だっけ?

 そうだ、僕は今、意識を失っている。

 だって吹き飛ばされたし……大きな狼に。

 僕は今、なにがしたいのだろう……?

 いや、本当は……わかっている。

 僕はアマチュアだけど、今まで書いてきたんだ……「物語」を。

 ゆえに僕の中にあるものを使う。

「物語」の可能性は無限大だ。

 僕は、あのバカでかい狼を倒さなきゃいけない。

 だから、あいつを倒す……僕の異能を使って。

 転生したことは、絶対に意味があるんだ。

 その可能性に、かける――。

 ――あれ、これは光なのか?

 なんだか、あたたかくて――。

  *

 ――光に包まれたような。

「――あれ?」

 意識がある。生きてる。

「大公《タイコー》兄ちゃんっ!?」

「おお、生萌《イクモ》か。僕……意識がなかったような気がしているのだけど、なにかあったっけ?」

「あるよ、あるよ……超あるよっ!! 本当に意識が戻らないかと思っちゃったんだからっ!!」

 やっぱり、そうか。僕は意識を失っていたんだ。なら――。

「――どうして僕は意識を取り戻せたんだ?」

「……あのね」

「うん」

「初芽《ハツメ》姉ちゃんが異能を使ったんだ。その異能は、おそらく『回復』。さっきまでの大公《タイコー》兄ちゃんは本当に死人だったよ」

「え、初芽《ハツメ》が!?」

 僕はコロシアムの周囲を見る。

 麻音《アサネ》姉ちゃんの隣には初芽《ハツメ》が気絶するように寝ていた――。

「――そうか。異能を使うと必ず気絶してしまうようだな。たぶん『使わない感覚』を使ってしまって極度の体力消費をしてしまうのだろう……」

「……なんで、わかるの?」

「わかるっていうか、なんとなく?」

「わかってないじゃん」

「でも、よくあるじゃん……そういうの。これが『形式に基づいた小説』だったらな」

「いや、でも、これ、現実でしょ? たとえ、そうだったとしても」

「まあ、いいや。僕たちは……僕たちのできることをしよう」

「生萌《イクモ》わかった。じゃあ、今は……あたしたちのターンってことだね?」

「ああ、だから僕は……二刀流で行く。生萌《イクモ》は自分の異能が発動できるように準備しておけよ。おまえは『羅円生萌《ラエン・イクモ》』という意味のある存在なんだからな――」

  *

 ――僕は二本の剣を構え、架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》に再び勝負を挑もうとする――。

「――……グルルルルルッッッッッッ!」

 どうやら僕を見て「判断」をしているようだ。

 要するに、あれだ。

 このコロシアムには「審査員」がいる。

 これは「僕たちに合わせた模擬戦」だ。

 決して命を奪う選択をしていない。

 つまり、異能の覚醒を促すために仕組まれたイベント戦。

 なら、僕にだって可能性はある。

 やるか――。

「――そこの大きいやつ、今から……おまえを倒してやるから、だから絶対に逃げるなよ」

 まず、右手から剣を振るう。

 次に左手。

 右、左、右、左……――。

 交互に連鎖する剣戟。

 狼は爪でガードする。

 剣が爪にこすれるたび、振動が僕に伝わる。

 普通に剣を動かすだけでも、つらい。

 まったくダメージが入っている気もしない。

 どれだけ頑丈な爪なんだ……?

 ――ピキッ。――ピキッ。

「――剣が――」

 ――パキン。――パキン。

「……折れた、だと?」

 すぐに体制を整えなきゃ、まだ……――。

「生萌《イクモ》っ! もう二本、剣をくれっ!!」

「生萌《イクモ》わかったっ! それっ!!」

 計四本の剣があった。だから最後のストックを使わせてもらう――。

 剣戟、ひたすら剣戟――。

 ――ピキッ……パキン。――ピキッ……パキン。

 ストックが切れた。

 もう、残された希望は異能しかない。

「もうっ、やるしかないんだよなあっ!!」

 僕は僕の「異能《ちから》」を信じる。

「物語」は「破壊」と「創造」によって、つくられる。

 もしかしたら……僕が今やるべきことは「破壊」。

 架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》の存在を倒すこと――それが今の課題だ。

 だから、ひたすら「破壊」を念じる。

「壊れろっ! でっけえウルフっ!!」

 僕は手をグーにして、ひたすら「破壊」を念じてみる。

 ……すると、殴っていた狼の爪は結晶が砕け散るように「破壊」された。

 まだ一部分……これだけ殴って念じるのにも限界がある。

「生萌《イクモ》、おまえは……僕を『成長』させるんだっ!」

「え、でも……あたし、自分の異能がどんなものかなんて……」

「いや、きっとそうだ。『生萌《イクモ》』の名前には『成長』の意味がある。そんな気がする。だから僕に力を使え。ひたすら、なっ!!」

「わかったよ。生萌《イクモ》、やってみるよ」

 思考が加速する。

 時間が速いのか遅いのかもよくわからない。

 だけど、もう生萌《イクモ》の力は受け取った。

 あとは、デカ狼のすべてを「破壊」する。

「全部、砕け散れっ!!」

 ――架空巨大狼《カクージャイアントウルフ》は砕け散った。

 僕たちの異能は、すべて開花した――。

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