小さな旅・思い立つ旅|ジブリのような建築を巡る旅[無国籍で懐かしい、土着的に緑を纏う]
見たことがないのに “懐かしい”
建築家 藤森照信の建築を、隈研吾はそう評する。いつの時代の、何の建物にも似ていないのに、なぜか “懐かしく” 感じる。大人も子供も、そこに行くと自然と笑顔になってしまう、究極のエンタメ建築。
藤森さんが、設計するときのポイントを4点あげている。でも、ご本人も「最終的になぜこうなったのか、よくわからない」とよく言っている。何度も考えているうちに、自然とそこに落ち着いた、と。
小田和正と東北大建築学科の同期であり、建築探偵団を結成し、路上観察学会を発足し、建築史家で東大名誉教授で、建築家デビューは45歳という異色の経歴の持ち主。
そんな藤森さんのジブリのような建築を求めて旅に出る。無国籍で懐かしい、土着的に緑を纏う建築でもどうでしょう、という話。
“懐かしさ” と 建築
懐かしさは人間にとって重要な感情で、他の動物にはないと言われている。喜怒哀楽は、犬にもあるが、「あぁ、懐かしい、、」としみじみする姿を見たことはない。
人間は毎日、寝る前と起きたときに目に映る景色で「変わっていない」ことを、無意識に確認している。古いもの、変わらないものを見ることで「自分が自分である」という確認作業をしている、と藤森さんはいう。
建物は『記憶の器』
見覚えのある街並みや建物を見ることで、昔と今が繋がっていることを無意識に感じとる。時間の連続性を確認する。これが、ホッとする懐かしさの正体である、と。
最新の脳科学で、無意識に “変わらないもの” を感じる座標系が、知性や感情のカギだということを、ついこの前知る。
藤森さんが言っている「建築と懐かしさ」の関係は、まさに脳科学の「座標系と感情」の関係と一致している。
“ずっと変わらず、そこにある建物”を『記憶の器』と表現する藤森さんは、最新の脳科学で解明される遥か昔から、直感的に理解してたんだ、という気づきに、つい嬉しくなってしまう。
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ということで、そんな藤森建築で、大人も子供も楽しめるところをご紹介。
曲線と緑で空を縁取る建築
屋根が草で覆われた建築
どんぐり屋根の建築
宙に浮かぶ建築
三角屋根のてっぺんに松が植る建築
モザイクタイルミュージアム|多治見
なぜか、ふしぎな、うつくしさ。
公共の建物のアプローチで、これほど細いものは普通ない。こんなに小さな入口の扉も、普通はない。ミュージアムの入口は、わかりやすく入りやすく、明るく中が見える、が普通なので。
でも、そうしないのが藤森さん。
円でも四角でもなく、歪んだ曲線の屋根
空との境界に映える緑
ラ・コリーナ|近江八幡
自然を愛し、自然に学び、人々が集う場
八幡山から連なる丘に、緑深い森がある。広大な敷地には、草におおわれたメインショップをはじめ、キャンディーファームやパンショップ、本社などが立ち並ぶ。
駐車場から建物に入るアプローチが、これほどワクワクする場所は他にない。自然とともに増殖を続けるラ・コリーナは、定期的に行きたくなり、少心に戻れる大人気スポット。
ねむの木こども美術館|掛川
丸い屋根の形が通称“どんぐり”
丸い屋根は銅板。職人だけでなく、素人の大人と子供も一緒に、銅の板を手で揉んで歪ませて、ひとつひとつ屋根に貼る。なので、ひとつとして同じ形はなく、素朴な印象になっている。
秋野不矩美術館|浜松
靴を脱いで自然の温もりを足で感じる美術館
建物に入るまでの坂道のアプローチから、もうワクワクが止まらない。コンクリートの擁壁には杉板を張り、排水溝には木を嵌め込み蓋にして、柵は栗の木の板をしゅろ縄で繋ぎ、上を見上げると宙に浮いた茶室がある。
美術館は、鉄平石で葺かれ、外壁はワラと土を混入した着色モルタルと天竜の杉材の板で覆われている。なんとも不思議な風景。
神勝寺 松堂|福山
禅と庭のミュージアム
見る。歩く。休む。瞑想する。
総門をくぐってまず目に入る寺務所「松堂」。山陽道から瀬戸内一帯を象徴する植物であり、また禅のイメージにもっとも近い松をテーマにしているので「松堂」という名前。
手曲げ銅板で葺いた岩山のような屋根の上に、松の木を植えている。表面を削った松丸太の列柱で、周囲と溶け合う風景をつくり出している。
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