小さな旅・思い立つ旅|淹れたての一杯、至福の京都[私設図書館・鈍考、ティールーム・冬夏]
「蝉が鳴き始めたようです
雨がやみましたね」
小雨の降る京都の朝。市中から少し離れた比叡山の麓にある私設図書館『鈍考』を目指す。1時間に1本のローカル線に乗り、駅から緑豊かな住宅地を歩くこと約10分。目的地につくころには雨がすっかりやんでいた。
建物に入ってもスタッフから案内や説明はとくにない。目の前の案内板を静かに読み、あぁそうか、もう“鈍考”は始まっているのか、と気づく。
荷物をロッカーに入れ、壁面いっぱいの本棚に沿って、奥へと進むと、ようやくカウンター奥のスタッフに出会う。
「蝉が鳴き始めたようです
雨がやみましたね」
スタッフから声をかけられる。「いらっしゃいませ」でもなく「こんにちは」でもない。なんと風流な第一声なんだと意表をつかれ、返答がワンテンポ遅れる。
静かな住宅地に響く雨音が、いつの間にか蝉の声に変わっていることに、その一言でようやく気づく。
至福の京都体験。
ということで、私設図書館「鈍考」と喫茶「芳」の珈琲、お茶と暮らしの道具を扱う「日日」とティールーム「冬夏」の煎茶のふたつの施設をご紹介。淹れたての一杯と、至福の京都体験でもどうでしょう、という話。
鈍考donkou|喫茶 芳 Kissa Fang
ゆっくり流れる時間と読書と珈琲
ブックディレクターのBACH幅允孝さんが京都につくった私設図書館。設計は堀部安嗣さん。完全予約制で定員はたったの6人。
3000冊の書籍から気になるモノを手に取り、ひのき林の借景が美しい庭を眺めながら読書に耽る。一息ついたタイミングで、珈琲を頂く。ネルドリップでゆっくり抽出するその時間も愛おしい。
冬夏 toka|日日 nichinichi
慌ただしい時間と隔絶された空間で煎を重ねる
御所の東。閑静な住宅街に、楚々とした日本家屋がたたずむ。明治生まれの日本画家、西村五雲が住まいとしていた築100年の建物が、わずか6席のティールームとしてよみがえる。
オーナーはフードディレクターの奥村文絵さん。設計はケース・リアル二俣公一さん。「冬夏青青」という、冬も夏も青々としている松の木に、枯れない志を重ねた孔子の言葉にちなんで、店名は『冬夏』。
シンプルに構成された空間。だからこそ、そこで目にする坪庭、茶器、茶を淹れる人の所作の美しさが引き立つ。
栃の木でできたカウンターごしに、スタッフが時間をかけて、ゆっくりと丁寧に淹れる煎茶。一煎、二煎と、湯をさし替えるごとに、茶葉が持つ香りは奥行きを増し、味わいは複雑に広がっていく。
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