誰かの幸せのために、なんてのは大袈裟だけどでも意外とそうだったりして‥って思いたい
ミスチルの『彩り』という曲は私にとっての応援歌みたいなもんだ。非生産性の固まりみたいな私の毎日が、実はそう思ってるのは私だけで、どこかで私の今日の仕事がものすごく誰かの役に立ってるのかもしれないと、曲を聴く度に妄想みたいな希望みたいな気持ちで満たされる。
だからこの小説を読み、そのカラクリに気付く時、私はニンマリしていたはずだ。
マイクロスパイ・アンサンブル/伊坂幸太郎
私は伊坂幸太郎ファンだ。新作が出たら本屋さんに走る。でも“本になった作品”以外にも伊坂作品は世の中にある。本作のようにその音楽フェスに行った人だけがもらえる冊子に載っている、知る人ぞ知るみたいな。本屋さんで見えているものだけが伊坂幸太郎の作品じゃないんだと悔しがる。他にもきっと地元仙台の新聞やタウン誌、チラシとかにも載ってそうだ。だからホントにありがとうと言いたい。フェスに行った人だけの楽しみだったのをこうして1冊の本にしてくださったことに感謝しかない。
2015年から始まって7年で短編が7作。各作品の最後には“続きはまた来年”的なことが書かれていたのかも知れない。7年で、登場人物たちの時間も7年進んだ。7年の間に人間関係の変化や、会社で出世したり家族が出来たり、あっちに行ったりこっちに帰ってきたり。タイトルの意味がよくわからず読み始めたが、読み終えてみると「そのまんまやん」なタイトルだったと分かる。
何てことのない些事がバタフライエフェクトばりに他に影響を与えて最終的に誰かを幸せにしてた‥っていうのは実に伊坂幸太郎らしい。だから、読み終わると元気になれる。幸せな気持ちになれる。世の中のために頑張ってますなんていう余計な意気込みなんてなくて良いし、それでいてどこかで誰かに喜んで欲しいな、もっと言うと褒めて欲しいなって思ってるから。私が知らないところで、どこかの誰かが喜んだりその人の役に立ってたり、「誰の仕業か知らないけどありがとうーーー」なんて叫ばれてるかも知れない。そう思えたら、私自身が幸せな気持ちになれる。
音楽フェスにちなんだ小説らしく、フェスに参加するバンドの曲の歌詞が散りばめられている。伊坂幸太郎さんは知る人ぞ知る、音楽好き、ロック大好き。その伊坂さんがチョイスした曲の数々、気にならないわけがない。アップルミュージックで探して自分でプレイリストを作ったら、幻冬舎の特設サイトにちゃんとプレイリストが用意されていることを後から知った。それでも良い。好きな作家さんの好きなモノに触れて“好き”を共有できるのは、やっぱり幸せだったから。
伊坂さんの小説(『マリアビートル』)が原作のハリウッド映画『ブレット・トレイン』がもうすぐ公開される。大好きな作品なので映画化のニュースを初めて聞いた時は心が躍った。主役がブラピだよ、ブラピ。ブラピってあの、私たちが知ってるブラピだよね?て感じで。
これで伊坂幸太郎も世界的な作家さんになっちゃうか。なんだか感慨深い。