かおりの記憶(総称としての“オバサン“と口紅)
先日誕生日を迎えた。
良い歳になったから、と
何かちょっとアップデートしたくなるのは、
年齢によらず昔からの癖だし、
少なからず多くの方に共感してもらえるのではないか。
今年のわたしのテーマは、
「ブランドものの口紅」だった。
幼い頃、大人の女性たちの化粧箱が宝物のように見えて憧れだったなぁ。
そういえば、近頃の色味の口紅も持っていないし。
そんなときに、すこしばかり歳上の美容評論家の方がおすすめしていた口紅がとても素敵に見えて、これだ!口紅だ!となったのでした。
別の用事で立ち寄った銀座の街で
意気揚々と百貨店に立ち寄る、
までは良かったのだが…
円安インバウンドに湧くカウンターは
まるで年末のアメ横よりもカオスで
まず話を聞いてもらうにも整理券が配布されていた。
正直なんでこんなことに時間をかけるのか?と考える間もなく
この口紅を手に入れねば!と妄想に取り憑かれた私は
長蛇の列に並んで
ようやく、笑顔の裏にきっと様々な想いを抱えたに違いない美しいBAさんにお話する機会を得た。
久々の百貨店のカウンターでケープを巻いてもらいドキドキワクワクする私を尻目に、特に話も聞かず、「あー普段もナチュラルメイクならこの辺ですね、年齢も服装も気にせずいつでも使えます。2色まで試せます」とチープな対応をされるも、勧められるがまま、キラキラの口紅とブランドロゴが書かれた小さな紙袋を手に入れていたのでした。
家に帰って、
喜び勇んで塗ってみたその口紅からは、
記憶の奥底に眠っていた「おばさん」のかおりがして、一気に現実に引き戻された。
そうだ幼いころ、
あらかわいいわねぇと言って近づいてくる人たちの化粧のにおいがとても苦手で、下を向いてやりすごそうとしていたこと。
カップに残る紅の跡が、あまりにも生々しく女性的で嫌いだったこと。
あの笑顔の下で何を考えてるのかなんて知りたくもないけど、かわいいなんて思ってないくせに、とへらへら愛想笑いを浮かべながら思ってたんだっけ。
私はいつまでも「年相応の求められる姿」に踊らされてるんだなと笑ってしまった。
それにしても、驚くほど同じかおりだったのだけれど、ずっとこのブランドはこのかおりを使い続けているのだろうか?
このかおりは、世の中の皆さんにとっては「美しく返信するための魔法のかおり」なのだろうか?
私はまだまだ、おとなにはなりきれないらしい。