2017年上半期読んだ本ベスト:『天使の鐘』リチャード・ハーヴェル
2017年も上半期終了ということで、上半期に読んだ中でのベスト本について書きます。
まあベスト本がどうとかは口実で、どうしてもこの本についてどこかに書きたかっただけなのだけど。
書名:天使の鐘
著者:リチャード・ハーヴェル
訳者:栗原百代、北沢あかね
出版社:柏書房
http://www.kashiwashobo.co.jp/book/b244531.html
発行日:2016/10
18世紀のスイスの村から物語は始まる。いったん鳴り始めると聴く者の鼓膜をぶち破るとんでもない鐘を作った村人たちと、その鐘に魅かれ、来る日も来る日も鐘を叩き続けて、鐘の下で生涯を送ることになった女性。
ラ米文学(マジックリアリズム)を思わせるような出だしからもういきなり面白く、物語に引きずりこまれる。
この鐘と女性をめぐってすったもんだの展開がまずあるのだが、それは、この小説のほんのごくごく「冒頭」にすぎず。
彼女から生まれた息子がこの物語の主人公だ。
なにしろ彼は、たぐいまれな(というか、もはや超能力のような)聴力を持っていて、その耳は他人の心臓の音すら聞き分けることができる。数メートルも離れたところにいる他人の心臓の音をだ。
それでいて、聴く者の鼓膜をぶち破る例の鐘の音に、彼だけは平気でいられる。だって彼はその鐘の音とともに育ったのだから。
そして、彼がもって生まれたものはそれだけではない。
歌声。
彼の歌声は彼自身を楽器に変える。彼の歌声を聴いた者は涙を流す。世界の色彩を変えることができる声だ。
そんな天才を備えた少年の(青年の)数奇な冒険の物語である。
彼は早々に孤児となってしまい、ふたりの修道士に拾われる。
そう! このふたりの修道士。
この小説をすてきなものにしているのは。
何があっても少年を守り抜くと誓い、誓ったのだからと我が身をかえりみず少年を懸命に守ろうとする巨漢の修道士、ニコライ。
一見、無愛想で、とにかく常に本を読んでいる(馬に乗っている最中ですら読むのをやめない!)狼のような風貌の修道士、狼レムス。
今これを書いていても思い出すと涙が出そうになるほど魅力的なふたり。この小説は彼らのためのものだと感じたほど。
このふたりに拾われた少年は修道院で暮らすことになり、そこで天使の声を見いだされる。
けれど、誰もをとりこにするその美しい声ゆえに少年は、取り返しのつかないものを失い、やがて大切なものを失ってしまう。
彼の周囲にうずまく黒い欲望。
天使でありつつも異形となった、かつての少年。
失ったものを彼は取り戻せるのか?
クライマックスで轟音を立てて鳴り響く、天上の鐘の音。
鐘の音で始まった物語はもちろん鐘の音で閉じられなくてはならない。
愛にあふれたその鐘の音は、この本を読んでいる者の頭の中にもきっと激しく響き渡るだろう。
本に目がない諸兄に告ぐ。
この超面白小説を、ゆめゆめ読みのがすなかれ。
巨漢ニコライと狼レムスに出会ってほしい。
ふたりの修道士以外にも、実在の人物、作曲家グルックやカストラートのグァダーニを始め、魅力的な人物が多数出てくる。
あと、「オルフェウス」。「オルフェウス」は絶対観たく(聴きたく)なる。
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