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【読書記録】僕の人生には事件が起きない


私は滅多な事が無い限り、お笑い番組を見ない。お笑いのスピードについていけないのと、「いや、そんな間違いしないだろ」とつまらない事考えちゃうから、純粋に楽しめないのだ。そのため、友人に教えてもらうまで、「ハライチ」のことも「岩井勇気」さんの事も知らなかった。

彼をちゃんと認識した最初は、あるバラエティー番組の感想を友人と会話していた時に、相方の澤部さんの話になった事だ。当時私は、澤部さんが芸人だという事は知っていたけど、コンビ名も相方が誰なのかも知らなかった。なので、友人から「相方の方が面白いんだよ!」と最初に教えてもらった時は、「へーそうなんだ」ぐらいしにか聞いていなくて、「ハライチ」「岩井さん」「澤部の相方」といったワードレベルでその時初めて認識した。

数日後、友人が好きだと言っている岩井さんが、エッセイを書いていることを知った。出版されていると聞いて、どんな芸をするのかもどんな人なのかも全く知らなかったけど、その友人の事は信用できるし読んでみたいなと思ったので借りてみることにした。それがこの本を手にしたきっかけだった。

その後、同じ友人から「ラジオも面白いからぜひ聞いてみて!」と言われて進められた。初めて聞いた時点では、本の方はまだ読み始めていなくて、まあとりあえず聞いてみるか、面白かった読み始めるかも、と思ってBGM替わりに聞いた。

で、ラジオは本当に面白かった。選ぶ言葉が良かった。頭の回転が速くて驚いた。誰かを貶める様な笑いのとり方もしないし、嘘だとわかる嘘を本当の様に話すのがうまくて、この人すごいな、と思った。それにちゃんとついていっている澤部さんももちろんすごいのだが。

こんな面白いラジオする人が、文章に書くとどんなことを書くのだろうか。借りてからしばらく開いていなかったけど、読んでみよう、という気が起きた。


前置きが長くなってしまったのだけど、読み終わった今、結果、自分で買えばよかった、と思った。もしかしたら読み終わったけどこれから買うかもしれない。間違いなく2冊目が出たら買うと思う。久々に芸能人が書いたエッセイもので「面白い」と思うものに出会えた。内容はラジオで話したことが大半だったから知っているエピソードばかりだったけど、それがまた良かった。『知っているからつまらない』とは決してならなくて、文章化するとこう伝えてくるのか、とさらに興味深くなった。

このエッセイには、岩井さんの日常の一コマを切り取った話が25個出てくる。特別な日とかは一切出てこなくて、普通で、ありきたりな話ばかりだ。なのに面白い。

本の序盤は「さすがだな、芸人さんは『盛る』のがうまいな」ぐらいにしか考えていなかった。でも読み進めていくうちに「違うな、これは『盛る』のがうまいんじゃない」と気が付いた。


盛っているのではなく、岩井さん本人も書いているが、1つの物事に対しての捉え方の角度が、とても個性的なのだ。

例えば、彼自身はとても忘れっぽく、財布とかのモノを忘れてくるのはもちろんのこと、予約した病院の事をすっぽかしたりもする。それも尋常じゃない回数だ。(読みながら「病気では?」と疑いもした)

この忘れっぽい性格を、彼は『忘れる という能力者』と表現している。『能力者』と言われてしまうと「そうか、能力か、じゃあ仕方ない」と半ば飽きれも入った諦めができる。「本人がそう言っているんだもの、第三者がとやかく言っても仕方ないよね」という感じ。だって能力だもの。『能力=個性』と思えるから、その『個性』にとやかく言えない。


他には、『現代アートは大喜利に似ている』だとか、花瓶に枯れた木をさして『死のインテリア』だとか、学生時代は楽しかったとか言っているのは一種の『呪い』だとか、他にも色々と個性的な角度で個性的な表現をしている。

確かに毒舌だし、「え、これ本人読んじゃったらどうするの・・・?」と、関係ないこちらがひやひやするような表現も赤裸々に書かれているのだけど、無駄にむやみに人を傷つける発言が無いのも良かった。(毒舌や嫌味の相手は、もれなく彼に失礼な態度をした人ばかりだった。)


ずっと飽きずに面白く読めたからどれもこれも好きなエピソードなんだけど、なかでも同窓会のエピソードはとても面白かったし、共感した。(なお、ここでいう同窓会は年に1回らしい。さすがに私も多いなって思うよ。)

岩井さんはアンチ同窓会と言ってよいほど、同窓会を毛嫌いしている。というか、頻繁に同窓会に行く必要がないし、会いたい友人には会っている、と言っているのがとても共感できて、このエピソードでは何度うなずいたかわからないぐらいうなずいた。芸能人だから余計に「同窓会」というものが嫌なのかもしれないけど、彼が言っている事が見事に的を得ているのだ。

例えば彼は、「同窓会」の流れが毎回一緒なのが怖い、という。(簡潔にまとめているので、本当はどう書いているのかはぜひ書籍を読んでほしい)

毎回同じ流れで話が進み、毎回同じ話をして、毎回同じところで笑う。これが呪いの様だ、と言う。あと主催者が苦手らしい。30過ぎてわざわざ昔の友達を集めて同窓会を開くなんて、今の自分を認めてもらいたいし、自慢したい現れだ、と言っている。わかる、すごいわかる。

卒業したてとか、まだ皆学生で、とかならまだ集まりたい気持ちはわからなくもないけど、良い大人が集まろうって、、なんでだよ、って私も思う。会いたい人には会いたタイミングかつ会えるタイミングで会っているし、今更何年も会っていない友人に「会いたい」という気持ちなんて湧かない。最近の現状がわからない昔の友人(もはや今は知人)と気を使って会話するぐらいなら、家族か気の知れた友人と、気をつかわずダラダラと会話した過ごした方が有意義だ。

昔は良かった、という考えも好まない。それって、今に満足していない、って話でしょ、って思う。そんな事言っている暇あったら、今を未来を少しでも良くする様動こうよ、って思っちゃう。毎日の幸福度が更新される様な生き方を日々追い求めることで、私の24時間はいっぱいいっぱいだ。


ま、要するに、自分の身に大してプラスにならなそうな事は、もういい加減徹底的に排除して生きていきたい、という気持ちの表れなのだ。岩井さんも同じように思っていたのが、勝手ながらとても親近感がわいた。芸能人らしくなくて、良い。だって、芸能人になったら、それこそ今の自分を認めてもらいたい、自慢したい、って思う人多そうだな、と一般人の私は思うからだ。

紹介したのは一例だけど、掲載されている25個のエピソード全てに、「そうか、そんな考え方があるのか」と思える瞬間が多々あった。ラジオ聞いていても思ったけど、岩井さんは頭が良い。頭が良い人の書く話はもれなく面白い。面白い話に触れられるのは、自分の頭もアップデートするかのようで楽しい。これだから読書はやめられない。


なお、岩井さん曰く、他業種の人間に「お前頑張ってるの?」と聞くことは失礼な事らしい。うっかり言ってしまっていないか、ヒヤッとした。


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