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庭の髪を切る

 庭用の手袋は、ワークマンの「棘を通さない性能最強」のやつだ。これだと、大抵の草や枝は手で刈れる。手袋をして庭に出ると、ついつい草をむしってしまい、そこからさらなる作業に発展し、長い時間が溶けることも多々あるので、庭の空気を吸いたいだけの時には、手袋をしないで出る。
 うちの庭はけっこうワイルドなので、素手ではなにも触らない。暖かい〜暑い時期は、ほんのちょっとの時間でもネット付き帽子やアームカバーも欠かさない。絶対に刺される。絶対にだ。蚊ならまだいいが、ある夏の朝、草刈りをしていたらいっぺんに5カ所ほどアシナガバチに刺されたので、それから一切、庭には油断していない。私にとっての庭は道場のようなもの。体を動かし、自分以外のものと折り合いを探ったり、単純作業で瞑想状態に入ったりする空間だ。
 庭で作業をしていると、いろんなことを考える。今日はうっかり手袋をして出てしまい、気がついたら太めの枝を剪定していた。小型チェンソーは持っているが、離れた車庫にあるので、つい草刈り用のノコギリでギコギコとやり出した。
 いままで成長して、毎日見てきた枝を切るのはいつもつらい。ギコギコしながら、葉っぱが揺れているのを見ていると、「おばちゃーん、切っちゃうのー?痛いよー。悲しいよー」などという訴えを想像してしまい、手が止まったことも何度もあった。しかし今日は、どうしても切りたかった。たぶん、目の前の木とは別の、自分の中の「なにか切りたいもの」が臨界点だったのだろう。ギコギコと、ひたすらに手を動かした。なかなか切れない。これまでも「このポジションのまま伸びるのなら切ったほうがいいな」と思っていたのに、情にほだされて切れないまま伸びに伸びた枝。切りながらも、ああ、やっぱり切らないほうが良かったのかな。かわいそうだったかな。でももう、半分くらい切れちゃって、ここでやめても残酷だよね……の、無限ループ。暑さと喉の渇きもあって、ぼーっとしてきたところで、ふと浮かんだ。
 いや、これは髪を切っているのだ。
 自分だって髪がボーボーになったら、切ってさっぱりするじゃないか。庭だって、茂りすぎたら風通しも悪い。庭の髪を切ってるんだ。よく「庭は自分自身を映す」なんてことが語られるけど、もしそれがそうなら、切りたくなったら切ってさっぱりすればいいだけだ。
 そして勢いづいて、気になっていた四本の大きな枝を切った。さっぱりした。

(写真はミント。うんざりするくらい繁殖するというので、繁殖してほしい区画に植えてみた。うんざりするだろうか)

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