ベルカント 月に寄せる歌
私にとって、コロナと言えば、カミュの『ペスト』。私にとって『ペスト』と言えば、月夜の海。私にとって、月夜といえばドヴォルザーク『ルサルカ』の”月に寄せる歌”。私にとって、”月に寄せる歌”と言えば、映画『ベルカント』。
いつだったか、リビングのこたつで寝てしまって、早朝1番に耳に届いたのが、このアリアだった。恋の記憶と共に心の片隅に残っていたアリア。幾度となく聴いたあのメロディが使われていたのが『ベルカント』だった。つけっぱなしのTVからアリアが流れてくる。ついつい映画にも、見入ってしまった。
『ベルカント』ポールワイツ監督。ジュリアンムーアがオペラ歌手役。歌の吹き替えはオペラ歌手ルネフレミング。渡辺謙が実業家役で主演。 有名オペラ歌手が招かれ、要人が集う晩餐会にテロリストたちが雪崩れ込みその場を占拠。政府との交渉を行うも平行線を辿る。そんな中で、音楽を通じてテロリストと人質の心の交流が始まるが…特殊部隊の突入により、テロリストたちは銃弾に倒れる。
人々を脅かすテロリストの末路なんだから、めでたしめでたしではないかと、言う人もいるかもしれない。だけど、一人一人の人となりを理解し、打ち解け始めた矢先の銃弾線。
友人を目の前で亡くしたような悲壮感に襲われる映画だった。テロリストたちを救う道があったのではないかと思う映画だった。
中島みゆきさんの『顔のない街の中で』と言う曲を思い出した。知らない人のことならば、失われても泣かないだろう。知らない人の痛みも祈りも気にならないだろう。ならば思い知るまで知ろう。見知らぬ命を街や国や世界を思い知るまで知ろう。と言う内容の歌がある。
正に、たとえテロリストであろうが、知ってしまったら、その命は尊い命なのだ。家族や友人と等しく愛おしい命なのだ。
ドヴォルザーク”月に寄せる歌”の内容は、お月様にお願いをする歌。愛しい人にどうか私の思いを伝えて欲しいと、私がここにいることを伝えて欲しいと言う歌。
映画に込められたメッセージが、どうぞ皆様に届きますようにと祈っているようにも聞こえる。
また、『ルサルカ』は人魚姫の話に似た、人間に恋した水の妖精のお話。人間の心変わりによって悲劇に終わるお話。映画の冒頭から予言されていた悲劇なんだと思った。
noteを書くにあたって、久しぶりに”月に寄せる歌”を聴いた。忘れていた切ない思いがくすぶられるような歌声に何度も再生ボタンを押す。
コロナと言うキーワードから、思わぬボタンを押してしまったものだと、感傷に浸る私がいる。