「アートとメンタルヘルス」|「満たされなさ」はどこから来るのか?
自己表現に生まれる「満たされなさ」はどこから来るのか?
トークセッション「アートとメンタルヘルス」の一環として、自己決定型支援団体puuSの代表仲井さんと対話を行いました。その中で話題に上がったのは、表現者に生まれる「満たされなさ」についてです。自由な自己表現が可能なはずのアートの世界で、なぜ「満たされない」感覚が生まれるのか。その背景を探り、考察を深めました。
自己決定型支援団体puuSインスタグラム
「表現の自由」と「満たされなさ」の矛盾
アーティストは一見、自由に自己表現を楽しんでいるように見えます。しかし、多くのアーティストがその中で「満たされない」という感覚を抱えているのも事実です。その原因の一つとして、内面に潜むバイアスが関係しているのではないかと考えました。
バイアスとは何か?
バイアスとは、一般的に「偏り」や「先入観」を指します。認知や判断を無意識に歪める要因で、個人の経験や価値観、文化的背景、教育によって形成されます。これが誤解や偏った判断を招くこともあります。
アートや表現活動において、アーティストが陥りやすいバイアスには以下の3つを仮定しています。
他者評価への依存:「評価されたい」「褒められたい」という願望が、表現の方向性を決める基準になってしまうこと。
文化や社会の固定概念:「アーティストとはこうあるべき」「これがアートだ」という社会的な価値観への囚われ。
自己認識の歪み:「自分は特別だ」「自分にしかできないことがある」という自己像への過信や不安定さ。
美大進学と「満たされなさ」の始まり
多くのアーティストにとって、美大進学は一つの転機となります。進学前の環境では、「絵が得意な子」や「感性が鋭い人」として周囲から注目され、自信を持つ機会が多かったはずです。しかし、美大という新たなコミュニティに足を踏み入れると状況は一変します。
そこには、同じように「特別」だった人たちが集まり、競争のレベルが一気に上がります。それまでトップだった自分が、突然「平均」や「下位」に感じられる環境。この現実が自己肯定感を揺るがし、「自分の価値は何だったのか」と悩むきっかけとなります。
また、作品の評価基準も変わることが多いです。例えば、「リアルなデッサンが得意だった」人が抽象表現を求められる場では埋もれてしまう。こうした変化が、「得意」としていた自分の公式を崩壊させるのだと推測しています。
自己否定と自己決定のループ
このような変化を経験したアーティストは、「かつての自分」を再現しようと努力することがあります。しかし、思うような結果が出ず、自己否定が強まり、さらに努力を重ねるというループに陥ることがあります。
ただ、このループを「自己否定」と捉えるのではなく、「試行錯誤」としてポジティブに見る視点も重要です。アートにおいては、試行錯誤こそが成長のプロセスだからです。一歩引いて、自分の状況を俯瞰で見つめることが、バイアスを解除するきっかけとなるでしょう。
歴史的なバイアス:「苦労」とアートの固定観念
アートの歴史では、「苦労してこそ良い作品が生まれる」という固定観念が語られることが多いです。貧困や苦悩、自傷行為などが、アーティストの「美談」として強調されがちです。しかし、これもまた一種のバイアスに過ぎません。苦労だけがアートを生むわけではないのです。このような固定観念から解放されることで、表現者として新しい可能性を発見できるかもしれません。
健康的な自己決定のために
人生には必ず「負ける」瞬間があります。その経験が少ない人ほど、挫折後のループに陥りやすいとも言えます。「自己否定」ではなく、「受け身」の姿勢を学ぶことも、自己決定を健康的に続ける鍵になるのだと思います。
また大切なのは「決定」ではなく「決定したその先」です。満たされなさを抱えることは、アーティストとしての成長の一部でもあります。表現者として自身と向き合い作品を作るために健康的な自己決定をどのようにしたら継続できるのか、これからも考察を続けます。
このトークセッションを通じて、多くの人が新しい視点を得て、自分らしい表現、また人生設計を探るきっかけになればと願っています。
次回トークセッションのご案内
このトークセッションは、月1回のペースで開催しています。経験者も未経験者も、自由に意見をシェアできる場です。「アートは特別ではない」と感じられるきっかけになればと思います。
次回は 2025年1月17日 に開催予定です。もしこの日程が合わない場合でも、リクエストをいただければ調整しますので、お気軽にお知らせください。
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