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「伊勢木綿」唯一の織元は、ゆっくり、したたかに生き続ける
伝統は今を生きる vol.29
こんにちは。フォトグラファーのたかつです。
日中は暖かくなり、例年より早く桜の季節となりましたね。
仕事は変わらず忙しいですが、こんな気候になってくるとどこか小旅行したい気分になってきます。
今回は愛知から少し足を伸ばして、三重県津市にある伝統工芸「伊勢木綿」の織元さんを訪問。伊勢木綿の今についてお話を伺ってきました。
僕は愛知県の伝統生地である知多木綿でサウナハットやコーヒーフィルターなどをつくって販売するほど「木綿大好き人間」なので、今からとても楽しみです!
日本一短い地名を持つ三重県津市へ
伊勢木綿の産地がある津市は、三重県の県庁所在地。日本一短い地名としても有名です。著名人も多数輩出している土地ですが、変わったところでは渋谷の待ち合わせ場所として有名な忠犬ハチ公の飼い主 上野英三郎さんも三重県津市の出身とのことです。
そんな津市ですが、実は今回訪れるのが生まれて初めて。
名古屋からなら近鉄名古屋駅からJRで約1時間、近鉄特急なら約50分で行くことができます。以前、みたすくらすの取材でお邪魔した伊勢和紙の大豐和紙工業の中北社長から「津駅まで近鉄特急ひのとりで行けますよ」と聞いていたのを思い出し、せっかくなので乗車してみました。今回の記事とあまり関係のない話なので詳しくは割愛しますが、控えめに言って最高の乗り心地でした。
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そんなこんなで津市に到着。
津駅からはタクシーに乗って、目的地である臼井織布株式会社さんに向かいました。こちらで今回の目的である伊勢木綿を取材したいと思います。
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伊勢木綿の歴史
室町時代に綿の種が日本に伝来(諸説あります)。土、水、天候、そして鰯などの肥料に恵まれたことから、この津市周辺は綿の一大産地となりました。そこで織られた木綿生地が、伊勢商人の手によって江戸へと広がり、伊勢の国からきた木綿を「伊勢木綿」と呼ぶようになったのだそうです。伊勢木綿は伊勢神宮参拝や津の街道のお土産や、全国で愛用される「日常着」として発展。明治時代には市内で100軒ほどの工場があったと言います。
しかし戦後となり、安価な化学繊維の誕生や洋服文化の台頭で、伊勢木綿の同業者は1軒、また1軒と廃業。今では伊勢木綿の製造を行なっているのはたったひとつの織元になってしまいました。それが今回訪れた臼井織布さんです。代表の臼井成生さんに色々とお話しを伺わせていただきました。
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100年現役の織機で、ゆっくりと織り進める伊勢木綿
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―――本日はお忙しい中ありがとうございます。さっそくですが伊勢木綿にはどのような特徴があるのでしょうか?またその製造工程についても教えてください。
臼井:伊勢木綿は基本的に「単糸」という糸を使って織っていきます。ねじりの少ない綿に近い状態の糸を使うため、とても切れやすく織るのがとても難しい糸です。このため100年ほど前からある旧式の織機にて、ゆっくりと織っていきます。1台で1日13m程度しか織ることができませんので、大量生産はできません。しかしながら、ゆっくりと織ることでシワになりにくく、肌触りの良い生地となります。また洗って使っていくうちに、柔らかくなっていき、さらに肌触りが良くなっていくのも伊勢木綿の特徴だと思います。
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―――ゆっくり織ることで、この肌触りの良さが生まれるんですね!旧式の織機を今も使い続けられていることにも驚きました。
臼井:こんなに古い織機は博物館にもそれほど残ってないらしいですね。しかも現役で動いている(笑)。最近は海外の方が見学に訪れたりすることも多いです。
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臼井:糸は「かせ」という束の状態にし、その後、汚れや油分を取り丁寧に整えます。かせごとに染められた糸は、こちらも古くから使い続けている糸巻き(ボビン)に巻きつけます。横糸には密度の高い生地にするために糊は使いません。縦糸には切れるのを防ぐために澱粉糊で糊付けを施します。次に、糸巻きをチキリに巻きようやく織る準備がととのいます。
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臼井:準備したチキリ(縦糸)とシャトル(横糸)を自動織機に取り付けて、いよいよ生地織をスタート。自動織機が動いている最中は織り子はすぐそばに待機して、絶えず織りあがりに目を配ります。
その後いくつかの品質チェックを行った後、水通し、陰干しを経て販売というのがおおわくの流れとなります。
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―――ひとつの生地を織り上げるのにもすごく手間がかかっていることが分かりました。ちなみに多彩な柄がとてもモダンだと感じたのですが、これは今でも新しいデザインを考案されているのでしょうか?
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臼井:そう思われるでしょ?でも違うんです。これらの柄は昔から使われているものであって、決して新しくデザインしたものではないんです。先人達が資料として柄のレシピを残してくれていて、それをもとにデザインを決め織っています。ここには日本人の琴線に響く普遍的な美しさがあるのかもしれませんね。
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臼井:伊勢木綿は苦境に立たされてはいましたが、この格子柄をはじめとした美しい柄や風合いの良さは現代の人にも受け入れられるものと考えています。当社ではこの伊勢木綿を、時代に合わせてシャツやジャケットなどの洋装はもちろん、鞄、帽子などの小物にも商品展開をしていますので、ぜひ後から見ていってください。
ただ本心を言うと、やっぱり伊勢木綿は着物や浴衣で楽しんで欲しいとは思います。
おかげ横丁や百貨店などでレンタル浴衣のイベントを行うことがあり、それは毎回大変好評なので、今後はそのような機会をもっと増やしていければと思います。若い方にも是非とも和装の伊勢木綿を一度手にとっていただけたら嬉しいですね。
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現代的なデザインで広がる無限の可能性
取材後には店頭で販売されていた様々な伊勢木綿みやげの中から、使い勝手がよさそうな手ぬぐいを購入させていただきました。こちらは流し染めという技法で染められた貴重な逸品で、グラデーションが何とも美しい手ぬぐいです。
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他にも伊勢木綿を使ったカラフルな衣類やバッグなどが販売されていましたが、変わり種として「伊勢木綿スピーカー」などもありました。伊勢木綿には私たちが想像している以上に無限の可能性があるのかもしれません。
可愛らしい柄とやさしい色合いの伊勢木綿。織元は唯一となってしまっていますが、臼井織布さんでは先のイベントを含め伊勢木綿を身近に感じてもらうための様々なチャレンジを行なっています。昔ながらのモダンなデザインを武器に、ゆっくり着実に生き続ける伊勢木綿の魅力を知る人が、これからもっと増えるといいと思いました。
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■臼井織布株式会社
三重県津市一身田大古曽67
http://isemomen.com/company/
■臼井織布オンラインストア
http://isemomen.online/?mode=f1
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