見出し画像

輪渡颯介『闇試し 古道具屋 皆塵堂』 幽霊にどう挑む? 二人の「探偵」の対決!?

 曰く付きの品物ばかり集まる古道具屋・皆塵堂を舞台としたコミカルな時代ホラーシリーズ、第十一作はシリーズレギュラーの太一郎を主人公として展開します。強力な霊能を持つ太一郎が依頼されたのは、札差の娘・お縫に対する幽霊への対処指南。小さなトラブルメーカーに振り回される彼の運命は……

 旧知の間柄である庄三郎から札差・大和屋の養女お縫を紹介された古道具屋銀杏屋の若旦那・太一郎。売りたい香炉があるというお縫ですが、強い霊感を持つ太一郎は、その香炉に執着している幽霊の存在を感じ取るのでした。そしてその香炉の扱いについてお縫から問われた太一郎は香炉を買い取ると答えるのですが、お縫は幽霊の前で予想もしなかった行動を取ることに……

 というわけで、十巻を超えても非常に女っ気の少ない(女性の幽霊はほぼ毎回登場しますが)本シリーズに久々に登場した、物語に大きく絡む生身の女性キャラ・お縫。しかし作者の作品の女性キャラは何故かトラブルメーカーが多いのですが、やはりお縫も例外ではなく、皆塵堂――というより太一郎に面倒事を持ち込むことになります。
 とある武家屋敷に屋敷奉公に出ることになったというお縫。しかしその屋敷には幽霊が出る――というより、幽霊が出るからこそ、彼女はそこに奉公に行く気になったというではありませんか。そこで屋敷に行く前に自分が幽霊を相手にやり合うことができるか、腕試ししたいと考えたお縫の審判兼用心棒として、太一郎に声がかけられたのであります。
 実はお縫はシリーズのあるキャラの縁者、その関係で太一郎の話を聞いて幽霊に興味を持ったという、ほとんどとばっちりのような理由で、太一郎はお縫に引っ張り回されて江戸中の幽霊スポットを巡る羽目に――というのが、本作の趣向であります。

 シリーズファンには言うまでもありませんが、太一郎は毎回主人公が変わる本シリーズの記念すべき第一作『古道具屋皆塵堂』の主人公にして、シリーズ最強の霊能力を持つ切り札というべき人物であります。単に幽霊を見るだけでなく、遠くからでもその存在を感じる、そして幽霊の正体や意図をも見抜くことができる――幽霊絡みの品物にまつわる事件が中心となる本シリーズにおいては、あまりに便利すぎるキャラクターといえます。
 正直なところ、彼が最初から動けばほとんどの事件が解決してしまう(その辺りを逆手に取った作品もあるのですが)わけで、扱いが段々難しくなってきた感があった――と思いきや、たとえ幽霊の正体や存在がわかっても、大きな危険がなければ見ているだけ、という本作の設定は納得で、なるほどこの手があったかと大いに感心いたしました。

 その一方で面白いのは、いかに太一郎でも幽霊のことがすべてわかるわけではない――相手が伝えようとしていないことまでは読み取れないという点でしょう。この設定において、本シリーズの妙味の一つであるミステリ要素が効いてくることになります。さらに、幽霊を見ることと、その幽霊にどう対処するかはまた別の話であります。言い換えれば太一郎の対処が必ずしも正しいわけではなく、お縫の対処の方が正しいこともあるのです。
 というわけで、幽霊という「事件」を如何に解決するかという、二人の「探偵」の知恵比べ的な味わいもあるのが何よりも楽しく、そして実に本シリーズらしいひねりの効かせ方と感じます。(そしてエピソードの中には、えらく意外な「探偵」まで登場することに!)

 正直なことをいえば、いささか苦肉の策という印象がないわけではありませんが、しかし「太一郎の幽霊に対する能力、強くなりすぎ問題」を見事に逆手に取って、起伏と意外性に富んだ物語を描きつつ、それでいてシリーズのいつもの味をきっちり見せてくれる本作。
 変化球にして王道の味わいの快作であります。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集