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生まれ変わった山南!? 池田屋事件待ったなし 安田剛士『青のミブロ 新選組編』第3巻

 山南が瀕死の重傷を負い、騒然となった新選組。それでも止まらず前に進む彼らは、ついに長州浪士たちを一掃する機会を迎えることになります。一方、その浪士たちの側も決して一枚岩ではなく――あの池田屋事件が目前に迫ります。

 将軍家茂の再上洛に伴い、大坂警護を命じられた新選組。ある晩、岩城升屋に押し入った賊の存在を知った山南・沖田・におは現場に急行し、山南がその真の強さを発揮して賊の大半を斬り伏せます。
 しかし、店の子供を人質に取られ、顔や体を斬られる山南。実は血が出ると止まらない体質だった山南は、瀕死の状態に陥りつつも、賊を全て討つのですが……

 史実でも岩城升屋での切り合いで報奨金を得るほどの活躍を見せながらも、この時に負った傷がもとで前線に立つことができず、それが後の行動に繋がったという説もある山南。しかし本作での傷は、その体質も相まって、一時は命も危ぶまれるほどの状況に陥ることになります。
 そんな状況から辛うじて蘇生した山南は、におに己の過去と想いを語ります。正しさを求めるあまりに傷付いた過去の経験から、冷静なようで激昂しやすくなり、その一方で現実を前に一歩引いてしまう性格になったという山南。しかしそれが尾を引いたともいえる今回の一件で、様々なことを理解したと彼は語ります。
 かくして、顔に負った傷を隠すためか髪型を蓬髪に変え、この巻の表紙のような姿となった山南。変わったのは外見のみで、隊の中でも穏健な良識派であった彼の内面は、変わらないように見えたのですが……

 そんな中、におは巡察中に大量の武器を隠し持つ男・升屋を捕らえることになります。大事の匂いを嗅ぎつけた新選組の面々は厳しく升屋=古高俊太郎を尋問しますが、古高は土方の拷問にも無言を貫くのでした。
 しかし、意識を失った古高と暫時二人きりになった山南は、企みが判明したと土方に告げます。その様子からある事実を察しながらも、土方は山南と共に近藤に報告します。祇園祭の前夜、長州浪士たちが街に放火し、松平容保らを襲撃するとともに、帝を奪取するという大事を目論んでいると……


 というわけでついにその導入が描かれることになった池田屋事件。いうまでもなく新選組最大の活躍、晴れ舞台である一方で、維新が五年遅れたともいわれる大事件です。
 それが本作においてどう描かれるのか、大いに気になっていたところですが、導入については通説と大きな違いはなく――と思いきや、山南の行動が大いに不穏な空気を漂わせることになります。
 明らかに古高と会話していないにもかかわらず、その計画を掴んだと告げた山南。だとすれば、彼が語った計画とは何なのか。近藤に報告する前の土方のリアクションを見れば、一つの推察ができます。この計画は、山南の××である可能性が高いのではないかと。

 もちろん、この後に述べるように、一部の浪士たちが過激な行動に出ようとしていたのは事実であり、その取締りが必要であったことは言うまでもありません。しかし仮にそれが××であったとしたら――土方も同意している
 
 ものの、彼以上に「鬼」の判断であり、これが生まれ変わった山南であるならば、愕然とさせられるばかりです。

 その一方で、以前にも京都に火を放とうとした「血の立志団」の存在があるだけに、ここで奇妙な説得力が生まれていることは間違いありません。あの時には、正直なところ「池田屋と被っていない?」などと思いましたが、この時のことを計算しての展開だとすれば、感心するほかありません。

 さて、この不穏極まりない推測を裏付けるように、ここで物語は浪士側からも同時進行で描かれることになります。(何故かずっと女装をしている)桂小五郎、彼に従う天才児・吉田稔麿、捕らえられたのは別人だったという設定で史実の軛から解き放たれた岡田以蔵、そして桂らが敬愛する吉田松陰の友であったために巻き込まれることになった宮部鼎蔵……
(ちなみに本作の宮部は、四人が会話しているところを発見し、稔麿に殺されかけた一郎を救っただけでなく、自ら屯所に連れていき頭を下げるという、近藤も感じ入る――一郎も芹沢めいた大きさを感じた――ほどの一廉の武士として描かれます)

 少なくとも浪士たちの軽挙妄動には批判的な立場であった桂と宮部にとって、古高が捕らえられたのは大きな痛手――しかしそれは古高の武器が必要だったのではなく、それによって浪士たちが暴発するのを恐れたためとして描かれます。
 かくして一行は、浪士たちが集まった池田屋に向かい、彼らを説得しようとするのですが、既にデマにまで毒された彼らは全く聞く耳を持たず、それどころか桂たちを説得しようとして……

 と、これはこれで実にありそうに感じられる展開なのですが、しかし山南たちの動きと照らし合わせれば、不気味なものを感じてしまうのは事実です。
(ここに至るも、浪士たちに問題の企てがあるのか明確に語られないのが不気味です)

 しかし事態は既に動き始めました。新選組が、いかにも彼ららしい姿を見せながらついに出動した一方で、桂や宮部、そして浪士たちはいかに動くのか。池田屋事件勃発待ったなしです。

 前巻のブログ記事はこちら


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