【親の介護】認知症になった親の「確定申告」をやってみた
確定申告も介護の一部分
高齢者になると若い頃に比べて医療機関にかかる機会が格段に増え、それに伴い医療費の負担額も増加していくことが一般的だ。
日本の税制では、掛かった医療費を所得から控除して税金を計算する立て付けになっている。すなわち、医療費は必要経費として所得から引くことが認められているので、税金がその分安くなるのだ。
ただし、その恩恵に預かるには確定申告することが必要だ。黙っていてもお金は空からは降ってこないのだ。
しかし、親も高齢になってくると自分で確定申告する気力も体力も知識も失ってしまっていることが多いだろうから、ましてや認知症を発症した場合には、ある時期からは子供の出番が必須となってくる。
すなわち、子供が高齢の親の確定申告を代行するのだ。今の時代、確定申告も介護の一部分と言えるかもしれない。
我が家でも、遅ればせながら今年から親の確定申告を子供である自分が代行してやってみたので、その経験がどなたかの参考になるかもしれないと考え、この記事に備忘録として残しておきたい。
ところで、確定申告で還付を受けるには、大前提として税金を納付していることが必要である。もし仮に、親世帯が住民税非課税世帯で税金を納めていない場合には、還付金を1円も受け取ることができないので、確定申告する意味が全くない。
あくまでも、払い過ぎた税金を取り戻すのが、確定申告で還付金を受け取るときの仕組みだ。
まずは、親世帯が住民税を納めているかを確認することが肝要なのだ。
参考までに、高齢世帯において住民税非課税世帯がどのくらい存在するのか調べてみた。
下表からわかるとおり、住民税非課税世帯、すなわち所得税も住民税も納めていない高齢者世帯の割合は、案外多い。
60歳代:19.2%
70歳代:34.9%
80歳代:44.7%
これは、高齢者になると、収入が年金のみに限られる世帯の割合が増えるためであると考えられる。例えば、収入が国民年金のみの場合は、単身でも夫婦世帯でも住民税非課税世帯に該当するケースが多いだろうと予測される。
ともかく、確定申告を徒労に終わらせないためには、まずは、年金の源泉徴収票などで、自分の親世帯が住民税課税世帯、すなわち税金を納付している世帯であることを確認するのが先決である。
医療費控除
住民税課税世帯に該当することが確認できたなら、次のステップは、支払った医療費の総額の確認である。
これは、1年間に支払った医療費の総額が一定額以上ない場合は、残念ながら医療費控除の対象にはならないからだ。
医療費控除の適用には、支払った医療費の総額が10万円以上必要だと巷では言われているが、この情報は、半分正しくて、半分間違っている。
自分も誤解していたが、正確には、支払った医療費の総額が10万円以上必要なのは、総所得が現役並みの200万円以上あるケースの場合である。200万円未満の場合は、基準額が異なり、もっと少額でも医療費控除が適用されるのだ。
ほんとうに、税金の制度は複雑すぎて困惑することが多い(苦笑)。誰とくの制度なんだろうか?
それはともかくとして、医療費控除額の計算は以下の式で与えられる。
総所得200万円以上:(医療費負担額-保険などの補填額)-10万円
総所得200万円未満:(医療費負担額-保険などの補填額)-総所得金額×5%
例えば、65歳以上で年金200万円のみの収入の場合には、計算してみると、4万5千円以上で医療費控除が適用される。
総所得:200万円-110万円=90万円
医療費控除の対象金額:90万円×5%=4万5千円以上
この程度の医療費なら、高齢者世帯では当てはまるケースが多いのではないだろうか?
我が家の場合も、総所得×5%で計算したら該当していたので、確定申告をおこなうことにした。
肝心の1年間の医療費支払い総額の確認方法であるが、昔のように、領収書をかき集めてきて電卓をたたく必要はない。
そもそも、高齢の親が領収書を余すことなくきちんと保管できているかは、かなり怪しいものだ(笑)。
最近では、マイナンバーカードさえあれば、1年間の医療費支払い総額の確認が簡単にできるようになった。マイナポータルサイトで連携してチャチャッと確認してみよう。
ここで注意点であるが、世帯の医療費は合算できるので、もし両親ともご健在であれば、合算した額で判定をしよう。
なお、その場合は、所得の多い方(たいていの場合は父親の方が所得が多いと思われるが)で、確定申告をおこなった方が有利である。
スマホでe-Tax(電子申告)を利用すれば、確定申告の作業自体もあっという間だ。
確定申告のDXを使いこなし、時流に遅れないようにしておきたいものだ。
親の医療費控除の確定申告を行う場合、もう1つ注意点がある。
それは、介護の利用料の一部も医療費として計上できる場合がある点だ。
利用している施設やサービスなどで扱いが異なるようなので、対象となるかどうか、一度利用している施設やケアマネージャー、税務署に確認してみることをお勧めする。
我が家の場合は、デイサービスで介護老人保健施設を利用しており、この利用料の一部が医療費控除の対象になった。
具体的には、介護保険の自己負担部分や食費が対象に含まれるようである。施設からの請求書や領収書に医療費控除対象分が明記されているので、該当する方は確認をされたい。
マイナポータルサイトで確認できるのは、医療保険を利用した医療費分のみであるので、該当する介護利用料分がある場合は、その金額も加算して確定申告することが必要だ。こちらは、残念ながら現状では自動とはいかず手入力が必要となっている。
なお、手入力した介護利用料分に関しては領収書などの提出は必要ないが、5年間の保管義務があるため、領収書は保管しておくようにしよう。
複数年分申告する
実は還付金を請求する確定申告では、過去5年分まで遡って申告することが可能となっている。
例えば、2023年分の確定申告は2024年の3月頃に実施するのが一般的だが、還付申告に関しては、2028年12月まで申告期限があるのだ。
親の確定申告でも、手間暇を惜しまず、過去に遡って複数年分を逐一申告すれば、それだけ多くの還付金を受け取ることが可能なのだ。
ただし、マイナポータルで医療費を確認できるのは、2021年9月以降利用分からであり、1年分まるまるの医療費合計金額が確認ができるのは、2022年分からになる。
我が家の場合は、それ以前の領収書は残っていなかったため、それ以前分はあきらめ、今年の確定申告では、医療費控除は2022年分と2023年分のみを申告した。
社会保険料控除
これは珍しいケースかもしれないが、同じようなことになっている方の参考のために社会保険料控除についても、付記しておく。
年金が支給される場合、税金や社会保険料が引かれた額が銀行口座に振り込まれるのが一般的である。後期高齢者の年金の源泉徴収票を確認すると、通常、以下の項目が差し引かれているはずだ。
源泉徴収税額(必要に応じて)
介護保険料額
後期高齢者医療保険額
ところが父の場合、3.後期高齢者医療保険額の項目が抜けていた。疑問に思い、いろいろ調べてみてわかったのだが、父は、後期高齢者医療保険料に関して、やや特殊な徴収方法を選択してしまっていたようなのだ。
保険料の徴収には、以下の2種類があるらしい。
特別徴収:源泉徴収
普通徴収:口座引き落とし or 振込
1.特別徴収がデフォルトの徴収方法であり、保険料は年金から源泉徴収され、税金も社会保険料控除を考慮して計算されているため、確定申告をする必要がない方法だ。高齢での確定申告は難しいので、大多数の方はこちらを選択している。
それに対して2.普通徴収は、いったん支給された年金から改めて保険料を支払っているため、税金は社会保険料控除を考慮せずに計算されており、確定申告をして還付金を受取らなければ、税金を多く支払ったままとなってしまう方法だ。
なぜ、父が2.普通徴収を選択していたのかは今となっては知る由もないが、確定申告はしていなかったため、75歳から今までずっと損をしていたことになる(汗)。
役所に相談したら、『後期高齢者医療保険料 所得控除資料(社会保険料控除用)』を過去3年分発行してくれたので、それを使って、社会保険料控除の3年分の確定申告をおこなった(2021年、2022年、2023年)。
徴収方法の変更も申請したが、システムの都合上1年毎の切替になるため、2024年分も確定申告が必要になりそうだ(苦笑)。
父の場合はレアケースかもしれないが、親の社会保険料の徴収がどうなっているか、一度確認をしておいた方がいいかもしれない。
感想
親の確定申告を代行してみて感じたのは、「もっと早く介入しておくべきだったかも」ということだ。
親は子供が考えているよりもずっと弱っている。後期高齢者医療保険料の徴収方法などは、もっと早く気づいてあげるべきだった。
しかし、実務を考えると、スマホでe-Tax(電子申告)とマイナポータルサイト連携での医療費の確認ができるようになっていないと対応が難しいので、現実には今のタイミングがベストなタイミングだったのかもしれないとも感じている。
介護にはお金がかかる。そのため、制度上、取り戻せるお金は取り戻しておくに越したことはない。
親孝行の一環だと考えて、親の確定申告を代行して差し上げては如何だろうか?
※この記事は、個人の見解を述べたものであり、法律的なアドバイスではありません。関連する制度等は変わる可能性があります。法的な解釈や制度の詳細に関しては、必ずご自身で所管官庁、役所、関係機関もしくは弁護士、税理士などをはじめとする専門職にご確認ください。
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