短編小説「Life goes on」
俺は明日で三十路を迎える。
子供の時は、誕生日の前日からドキドキしたものだな。と煙草の煙を都会の煌びやかな街並に向かって吹きながら回想に浸った。
浸ったは良いが、ガキの頃の楽しかった思い出と今の生活とのギャップに、自己嫌悪という名の悪魔が現れ、そして俺に話しかけてくる。
「なあ、お前申し訳ないと思わないのかよ。子供の時の自分にさ。子供の時の夢、一つでも叶えられたか?」
俺は右の口角だけ上げ、ふっと小さい苦笑をこぼした。
俺は悪魔と頭の中の小さい密室で会話をすることにした。
「過ぎちまったものはしょうがねえだろ。時間は巻き戻せないんだ。」
悪魔が嬉々として話しかけてくる。
「そうやって毎年毎月毎日毎時毎分毎秒、それを自分に言い聞かせているのか?愉快な奴だな。時間を巻き戻せないなんて、ガキでも知っているぜ。あと3時間で三十路のお前がなに言ってやがる。あぁ愉快愉快。」
さらりと受け流すはずが、鼻の奥がツンとなり視界が少しぼやけた。
煙草をいつもより長めに吸い込み、大きく長くそして力強く煙を吐き出した。
まるで悪魔を吹き飛ばすかのように。
そして煙草の火を消した。
すると同時に悪魔が消えた。
俺は、あと3時間で三十路になる。
悪魔に言い負かされている場合ではない。
時々悪魔が出たりするけど俺はまだ健康だ。
それに“生きているだけで儲け物”って誰かが言ってたっけ。
Life goes on.
人生は続くのさ。
続くから、もう少し頑張ってみようかな。
そうして俺は部屋の片隅に追いやられていた埃かぶった参考書をまた開いた。