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ユートピアと笑い : 「このマンガがすごい」を探る - 『女の園の星』 和山やま

「このマンガがすごい!」では、スター作家が生まれることがあります。

よしながふみ。岩本ナオ。東村アキコ。ヤマシタトモコ。同じ年のランキングトップ10に、2作品がノミネートしたことがある作家達です。

そんな"クイーンイヤー"を持つ作家の最・新人が、今回紹介します和山やまさん。
20年に『夢中さ、君に』、21年に『女の園の星』と『カラオケ行こ!』がランクインした、令和を代表する女性作家です。

今回は、そんな和山さんの最新作である『女の園の星』の魅力を探ってみます。


あらすじ

由緒正しき花の女子校、成森女子高等学校。
2年4組の担任・星先生は、女の園で、今日も静かに職務を全うする!

学級日誌の絵しりとり、担任に付けられるあだ名の謎、問題含みの三者面談。
自由奔放な生徒達と織りなす、シュールで愉快、ユーモア溢れる日常・学園・青春コメディ!

筆者要約

!!試し読みはこちら!!

どこか艶かしさがある主人公・星先生(子持ち
彼と女子高生が織りなす日常コメディです

作品の新しさ

『女の園の星』のヒットは、個人的にとても嬉しく感じています。
何故なら、これまでの女子高生主体のギャグ漫画作品は、男性作家によるものが目立っていたからです。

…マンガ紹介を読んでいたと思ったら、いきなりジェンダー論かまされて、びっくりされた方が居たかもしれません。
待ってくれ。

いや、何も私は女性作家が抑圧されてるとか、そんな話をしたい訳じゃあないのです。
実際、女子高生生活を描く女性漫画家は数多います。
しかし、ギャグに特化している作品で言えば、『日常』『あずまんが大王』『かぐや様は告らせたい』など、メジャーどころは男性作家である印象です。これら作品の主人公は女子ですが、それを描くのは男性です。

性格学の研究によれば、人は性差よりも個人差の方が大きいそうです。同性の作品よりも、異性の作品に心掴まれることは良くある話です。

ただその一方で、同性の視点からしか見えない空間がある事も、また事実。
本作の、等身大でデフォルメが抑えられたリアルな女子高生像は、その時の乙女の自然な魅力をイキイキと描き出しています。

なんてことない授業のひとコマ
既視感あるなぁ

私が本作の登場人物で、1番好きなのは小森さん。
初登場時、担任教師の卒アル写真をステッカーにして本人に見せびらかし、挙句に飽きて街に撒いたという豪の者です。

刹那を生きてる感

彼女の動じなさ、自由奔放さがとてつもなくシュールで面白いわけですが、面白いと同時に、彼女の恐れを知らない屈託の無さに、どこか憧れを感じてしまいます。

向かって左の変な人も、小森さんです

流石に私の周りには、担任のステッカーを配り歩く方はいませんでした。が、小森さんのキャラクター像に思い当たるような、やたら超然として我が道を歩く。そんな子がいたことは思い出します。


ギャグ漫画といえば、奇想天外な展開や現実離れなイベントが発生して、わりとパワーな話に向かいがちです(私は、漫☆画太郎さんとか、ちょぼらうにょぽみさんとかの、ああいうパワーなギャグ漫画が好きです)。
しかし本作は、リアルを捨てきらずに話が進みます。日常の"あるある"がちょっと派手に演出されて、独特のシュールさと、この感覚分かるわ〜の両方のツボを押してくれる。
そんな、今まで陽が当てられていなかった世界に光をあてる、懐かしさと新しさがある作品です。


求む、ユートピア

ギャグ漫画の紹介で、こうも真面目にコンコンと語ると思っていなかったですが(ギャグの解説が私には無理だと言うのもあるのだけど)、私が感じる本作の魅力を一言で言えば、それは「空気感」です。

『女の園の星』のゆるい空気は、対立の薄さに、ひとつ表れています。
本作、割とずけずけ物言いがなされるんですが、それがオーバーヒートする事がありません。生徒や同僚のおちゃめ(?)を冷静に受け止める星先生。同級生の暴走を諌めたり否定するのではなく、そのまま乗っかり放置していくゆるい空間。

おい!

女子校という舞台設定が、ここに活きていると思います。
私は共学校しか通ってきませんでしたが、同性だけしかいない空間の、伸びやかな雰囲気は分かります。異性の目を気にせず好き放題できる無法地帯。振りかぶってボケをかませられる安心感。
他人の目を気にせず、思い思いに過ごせる居心地のいい空間。

加えて、彼女らは花の女子高生です。言い換えれば無敵です。若さがあり、可能性があり、責任はなく、夢がある。野望に向け、欲望に向け、友情に向け、猪突できる人生のボーナスタイム。
そんなのびのびとした、同性だけの心地よい雰囲気が伝わってくるのです。
この、安心して話を追っていける空気感が好き。

外野からの会話(楽しい)

言い過ぎかな?
実際の高校生時代なんて、不安定なホルモンバランスと、将来に向けてのプレッシャー。やりたい事はあるけど、お金も自由も時間も制限されていて、解放できないエネルギーに悶々と悩み惑う。そんな憂鬱な時だったかも。

でも、あの時代だけにしかなかった、愉快なひと時もあったはずです。無茶が通り、何ができて何ができないか分からない。だからこそ目の前のことに夢中になってしまう。そんな時間。
『女の園の星』は、その10代後半の一瞬の楽しいひと時を、ある種のユートピアとして捉え、描き出せているように思えます。
とりわけて言えば、それを外から見る男性視点の"女子高生"ではなく、内部から見える「女子高生」の愉しさとして。
それは誰かに見せびらかす「いいでしょ〜」ではなく、自分たち内輪に向けた遊び・楽しみ。
そんな押し付けの無さこそ、本作を気分よく楽しんで読める理由のひとつではないかと思います。

自習時間のひと時
この話好き過ぎるので、もう100回やってほしい

振り返ってみれば、10代も20代ももっと上も、それぞれの世代の美しさがあるものです。
本作は、10代後半のエネルギー溢れた時間の楽しさ・好ましさを、ありありと顕現させてくれている作品です。
(ナイスミドルな先生同士の会話劇も楽しいけどね。女子高生の会話劇が「内部での楽しい時」を描いているとするなら、先生の方は、「外部から見たおじさんたちの可愛らしさ」を描き出していると言えるのでしょうか)。

ギャグ漫画から照らす、平和な日常の魅力。
抑えが効かない女子高生の破壊力。

やっぱり、「このマンガはスゴい」!



*****


最後までご覧いただきありがとうございました!

漫画(空想の世界)を描くと、同性にはリアリティを込めて、異性には理想を込めて、描かれがちだなと思います。
どちらかの視点に偏りすぎないで、それぞれの視点の物語を楽しみたいものです。そうしたところに、インクルーシブな視点が生まれたりするんじゃなかろうか。(話の飛躍)

これからも毎週水曜日、世界を広げるために記事を書いていきます!
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misoichi|ライター📝
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