僕の好きなアジア映画45: 声もなく
『声もなく』
2020年/韓国/原題:소리도 없이/99分
監督:ホン・ウィジョン(홍의정)
出演:ユ・アイン(유아인)、ユ・ジェミョン(유재명)、ムン・スンア(문승아)
普段は卵をトラックに積んで売り歩く二人の貧しい男(ユ・アインとユ・ジェミョン)。実は犯罪組織が誰かをリンチをする場所を提供し、かつその結果殺害されたた遺体を、山中に埋める「処理」を仕事として真摯に(?)請け負っている。
しかし普段は死体を処理しているのだが、犯罪組織が誘拐した11歳の少女を預かる仕事を請け負ってしまう。本作はそこから始める巻き込まれ型のサスペンスである。あとはできるだけネタバレを避けますね。
この映画の素晴らしさはいくつもあると思うが、まずはユ・アインとユ・ジェミョン。現代の韓国を代表する二人の演技が出色。ユ・アインの容貌はあまり好きじゃないけど(笑)、実に幅広い役柄をこなす若き名優。本作でも口がきけない(きかない?)青年という難しい役所を、体重を15kg増やして熱演。熱演にして行きすぎず的確。ユ・ジェミョンはこちらもさまざまな役をカメレオン的に演じる名バイプレイヤー。今回も巻き込まれる主人公の父的同僚を渋くかつコミカルに好演。さらに誘拐されたが親が身代金を払おうとしない少女役の女の子が、複雑な役どころを知的に演じてこれも驚くべき。
プロットの面白さ。巻き込まれながら、生きるためにいつしか誘拐そのものの主体となり、真面目に犯行を続けながら善悪で懊悩する主人公。社会の底辺にあり、その声は誰にも聞いてもらえない者たち。家族に憧憬を抱く彼と、疑似家族的な関係性。紛れもなく被害者でありながらどこか沈着な少女と、主人公の微妙な距離感。死体処理の傍で無邪気に遊ぶ子供たち。スリリングな中にブラックな笑いを散りばめながら、ラストは観るものに余韻を残す。
燃えるような夕日を始め。鮮烈な色彩の映像。美しい映像であればこそ、彼らの抱える避け難い憂鬱が鮮明に浮かび上がってくる。監督のホン・ウィジョンは、2017年に短編映画でデビューしたばかりで、長編はこの作品が初めてという新人女性監督。最初にこんな傑作を撮ってしまって、今後は何をどう撮るのか期待が募ります。
第41回青龍賞主演男優賞・新人監督賞、百想芸術大賞 映画部門監督賞・男性最優秀演技賞、アジア・フィルム・アワード 主演男優賞など。