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僕の好きなアジア映画43: あなた自身とあなたのこと
『あなた自身とあなたのこと』
2016年/韓国/原題:당신 자신과 당신의 것(英:Yourself and Yours)/86分
監督:ホン・サンス(홍상수)
出演:キム・ジュヒョク(김주혁)、イ・ユヨン(이유영)
日本で一般の劇場での公開がなかった、ホン・サンスの近作がJAIHOで配信されたというので、入会してみた。『あなた自身とあなたのこと(2016)』、『草の葉(2018)』、『川沿いのホテル(2018)』の3作品である。と書いている間にも残念ながら配信が終了してしまいましたが。この3作とも素晴らしい作品だと思うけど、僕がイ・ユヨンが好きということもあり、キム・ミニが出演していない、あまり注目度の高くなかった『あなた自身とあなたのこと』を取り上げます。
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この映画、ホン・サンスの映画の中では珍しく劇的?な展開のある映画だと思う。ちょっとストレンジで不条理な、一種のファンタジーのような展開なのです。
キム・ジュヒョクとイ・ユヨン演ずるカップル。自分の知らないところで彼女が他の男と酒を飲み、喧嘩をしていたという話を聞いた画家の男、そのことを彼女に問い詰めて口論となり、彼女は出ていってしまう。男は彼女の行方を探しまわるが、見つからない。しかし一方彼女にそっくりな女性が現れ、彼の知人たちと会い、しこたま酒を飲みつつ自分は別人だ言い張る。
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画家もしばらくしてその女性と出会うが、やはり彼女は別人であり、画家とも初対面だと言う。そして彼女はまた知らぬ同志のように新鮮な恋に落ちる。果たして彼女は別人なのか。あるいは本当に過去を忘れたのだろうか?
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これは「再起動」の映画だと僕には思えた。彼女は人間関係を再起動したのだ。日常となりしがらみの中で息が詰まりそうな恋愛関係を、彼女はリセットしたのだ。それが彼女の演技であり本当は彼女自身それを自覚しているのか、それとも「自我」を守るため精神的な防御反応として記憶を消して別人になっているのかは定かでは無い。この不可思議な状態をどう考えるかは観るものに委ねられている。奔放でしなやかな主人公をイ・ユヨンが好演している。
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さてこの映画で出会ったキム・ジュヒョクとイ・ユヨンはその後恋愛関係になり、結婚を約束する関係になるのだが、なんと2017年にキム・ジュヒョクが急死してしまうという、残念な結末を迎えることになった。だからこのカップルの映画としても本作は美しい記憶でもあるのだ。
サンセバスチャン国際映画祭2016で監督賞
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