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僕の好きなアジア映画110: 本日公休
『本日公休』
2023年/台湾/原題:本日公休/106分
監督:フー・ティエンユー(傅天余)
出演:ルー・シャオフェン(陸小芬)、フー・モンボー(傅孟柏)、ファン・ジーヨウ(方志友)、チェン・ボーリン(陳柏霖)、リン・ボーホン(林柏宏)など
久しぶりに映画を見て号泣した。「本日号泣」である(←ベタですみません)。この映画に描かれている主人公の価値観はひょっとすると若い人には理解し難い、あるいは理解はしているものの興味の対象にはならないのかもしれない。確かに描かれている価値観として新鮮なものではないし、感覚的に斬新な映画ではない。でも僕は感激した。
この映画の価値観は、常に感謝の気持ちを持つこと、家族や友人そして知人を大切にすること、他者に親切である事、そしてその価値観に従って行動できることだと思う。カビの生えた感覚かもしれない。あたりまえのことと思われる方もいるだろう。そして必ずしも若い人にそれが全く欠如しているわけでもない。しかし基本的に若者はお金がない。だから生活のために最も重要なのは金銭的に得をすること、最低限損をしないことであり、ここに描かれている価値観を本当に理解する可能性があるのは齢を重ねてからだと思う。主人公のように自身が損をしても他者のために行動する事を若者が理解できなくてもそれは仕方がない。
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主人公のような人は日本でもすでに希少種である。昔は生活の端々で屡々感謝の言葉を聞いたり、市井の人同士が助け合ったりということがあったように思うが、現在はそれは滅多にない。この映画を観ていてふと顔が浮かんだのは、山形にある台湾料理店の主人である。台湾出身の鄭さんにはまだそういう日本人が忘れた価値観の面影を感じる。
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もう一つ映画で描かれているのは「老い」についてである。この映画OSTの歌詞に唄われている様に、時の経つのはいかにも速く、気がつけば髪も白くなっている。僕は45年間ほど同じ美容院で整髪をしている。そしてこの映画のように「いつもと同じに」というだけであとは店主に任せっきりである。体して会話もしないけどそれで通じる。ただ同じ事を繰り返しつつ、老いへの時間を共有してきた。静かに日々を暮らし、いつもどおりの繰り返しの中で粛々と老いを受容する心境は、僕も理解できる年齢になってきた。それは老いへの諦念とはまた異なる感覚だと思う。
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ちなみに主演のルー・シャオフェンは、どこかでみたことがあると思っていたら、アン・ホイ監督/マギー・チャン主演の『客途秋恨』以来24年ぶりの映画出演とのこと。素晴らしい演技だった。この映画はスキャンダラスでも、もちろんショッキングでもない。極く地味な映画である。だから観る人も少ないとは思うけれど、こういう映画が響く人が多いことを願う。我々はコミュニケーションにおける多くの美徳をすでに失ってしまった。
第25回台北電影奨最優秀主演女優賞、金馬奨最優秀助演女優賞、第18回大阪アジアン映画祭薬師真珠賞など。
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