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僕の好きなアジア映画17:軍中楽園
『軍中楽園』
2014年/台湾/原題:軍中樂園
監督:ニウ・チェンザー(鈕承澤)
出演:イーサン・ルアン(阮經天)、レジーナ・ワン(萬茜)、チェン・ジェンビン(陳建斌)、アイヴィー・チェン(陳意涵)
舞台は1969年の金門島。金門島は中国大陸から2kmほどの目と鼻の先の距離にあり、両国間が緊迫した状況の中では、そこは攻防の最前線となります。その最前線に実在した「軍中楽園」と呼ばれる慰安所がこの映画の舞台です。
監督のニウ・チェンザーは子役から映画やテレビに出演していた役者でもあり、侯孝賢の『風櫃の少年』や『ミレニアム・マンボ』にも出演しています。
カナヅチであったために、若く朴訥な主人公が配属された小部隊はその娼館を管理する部隊で、そこにはさまざまな過去や事情を抱えた女性たちが働いています。戦場を舞台にしていますが、戦闘場面らしいものはほとんど出て来ません。
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つらい過去を引きずる、影のある美しい娼婦ニーニーに扮するのはレジーナ・ワン。女優好きの僕としては、この映画の魅力もそして切なさも、彼女の存在があればこそと断言したい(笑)。彼女は歌手でもあるそうで、劇中でRiver of No Return (マリリン・モンローの『帰らざる河』)をギターで弾き語りするシーンは、この上なく美しかったです。そういえば彼女、『鵞鳥湖の夜』にも出演していましたね。
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若く純朴な主人公と翳のある美しい娼婦、となればこの兵士が彼女に惹かれていくのは、まあ映画を見なくても物語として必然の展開です。そして物語はその予想通りに進みます。
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さらにサイド・ストーリーとして、上官と他の娼婦との悲しい物語も描かれます。これも非常に切ないのです。明るく振る舞いながらも、翳を感じさせる彼女たちの演技が素晴らしい。
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死と隣り合わせの緊迫した状況であればこそ、主人公たちは激しい恋に我を忘れて没入していきます。主人公は暗い過去を持つ彼女に惹かれ、刹那に愛し合いますが、しかし彼女の現在の境遇やその過去までを含めて彼女を受け止めることには躊躇せざるを得ません。実直であればこそ悩みに対しても誠実ではありますが、結局は悲劇に終わらざるを得ない、成就することのない恋が描かれます。
戦争や運命に翻弄されて、争う事もできず悲恋に向かって揺れ動く人間模様を描いた、美しく切ないメロドラマでした。
たまにはこういう甘く切ない映画も良いですね。
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