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僕の好きなアジア映画32:ユンヒへ

『ユンヒへ』
2019年/韓国/原題:윤희에/105分
監督:イム・デヒョン(임대형)
出演:キム・ヒエ(김희애)、中村優子、キム・ソヘ(김소혜)、ソン・ユビン(성유빈)、木野花、瀧内公美

静謐な、美しい映画です。台詞や説明で間断なく埋め尽くされる、饒舌な映画ではありません。かといって難解な映画でもありません。

簡単に言ってしまえば日韓の中年女性を主人公としたクィア映画です。性的マイノリティーが今よりさらに理解され得なかった時代に愛し合い、しかし別れざるを得なかった二人の女性の、20年ぶりの再会を描いた物語です。別れを余儀なくされた時代は、同性愛は病気であり、精神疾患として治療で修正できると考える人たちがいた時代(今も残念ながらそういう人はいます)。社会の中で同性愛者の居場所がなかった、そんな時代です。

主人公ユンヒは韓国に残り、男性と結婚し一児をもうけましたが、その後離婚。シングルマザーとして子供を育てています。キム・ヒエの抑えた演技が素晴らしい。同性愛の相手ジュンは日本人と韓国人との混血で、父母の離婚とともに父とともに日本へ。そして現在は叔母と小樽で暮らしている。ジュンは同性愛者であること、さらに混血であることも隠して暮らしています。

ユンヒ役は『夫婦の世界」、『密会』のキム・ヒエ
ジュンには中村優子

二人を20年ぶりに再開させるきっかけを作ったのはジュンの叔母であり、それを実現させたのはユンヒの娘です。性的マイノリティーに差別意識のない新旧の世代が彼女たちの、ほんの僅かな会話だけの短くて控えめで、しかし美しい再会を実現させます。徒に扇情的な場面はありません。

ほんの束の間の美しい再会

ジュンの叔母とユンヒの娘との会話は、日本語でも韓国語でもなく、英語で行われます。最も近い隣国でありながら、コミュニケーションに第3国の言葉が必要であることに、実際の距離以上の心理的「距離」を感じさせます。叔母がジュンを抱きしめる場面。韓国では親族同士が抱擁する場面に違和感を感じませんが、日本人は親族との抱擁って、普通はないですよね。ですからこの場面のぎこちなさは日本人的であり、であればこそ格別に暖かさを感じさせます。

雪に包まれた小樽の景色がなんと美しいことか。小樽ってこんなにたくさんの雪が積もるのですね。大雪の中「いつになったら雪が止むんだろう」という台詞が何回か繰り返されます。雪国の人間にとってはいつもの冬の会話でもあります。しかしこの言葉には、性的マイノリティーや人種差別の問題、進まない隣国との相互理解など、いつまで経っても解決されない事象への諦念と、幾許かの期待に似た感情が託されているように思われます。

第24回釜山国際映画祭 クィア・カメリア賞、第41回青龍映画賞監督賞、第41回青龍映画賞脚本賞などを受賞。


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