僕の好きなアジア映画26:1秒先の彼女
『1秒先の彼女』
2020年/台湾/原題:消失的情人節/119分
監督:チェン・ユーシュン(陳玉勲)
出演:リー・ペイユー(李霈瑜)、リウ・グァンティン(劉冠廷)、ダンカン・チョウ(周群達)、ヘイ・ジャアジャア(黑嘉嘉)
これは「凄い映画」ではないかもしれないけれど、大好きな映画ですね。こんなチャーミングな、愛すべき映画は滅多に出会うことがありません。
監督は『熱帯魚』、『ラブゴーゴー』、『祝宴シェフ』のチェン・ユーシュン。これらのDVDなんかも実は僕は持ってはいて、もちろん注目もしていたのだけれど、この監督の作品はな〜〜んとなくなのだけど未見だったんです。
全てにおいて人より1秒テンポの早いアラサーの女性と、逆にワンテンポ遅い男性との巡り合わせの物語。前半は彼女のエピソードが描かれます。滅茶苦茶キュートな彼女の行動に和みながら、なぜかはわからないまま、原題でもある「失われたバレンタイン」が綴られて行きます。とても楽しみにしていた、バレンタインデーが、彼女が目が覚めるともうすでに翌日になっていて、全く知らないうちに終わってしまっていたのです。
前半の彼女のパートではさまざまな謎や伏線が残されるのですが、後半の彼氏のエピソードでその謎や伏線が回収されて行きます。彼を演じるのはリウ・グァンティン。いずれもNetflixオリジナルの映画、『ひとつの太陽』や『同級生マイナス』で注目の男優です。
とってもポップなのに、どこかノスタルジックな質感の映像と、テンポが良くて無駄のない展開のファンタジー。さすがにこの映画はネタバレしちゃったら全くつまらなくなるので、できるだけネタバレを避けますが、基本的には切ない物語でもあるのだけれど、クスッと笑いながら観ることができる映画です。彼女の記憶の底に埋めれている物語も、時間がそれを見つけるきっかけを与えてくれるのです。1秒早い彼女と1秒遅い彼の時間差が最終的に迎える結末は、彼らにとって必然とも言えるでしょう。
主演のリー・ペイユーは、台湾では人気の司会者でもあるとのことです。彼女の嫌味のない、底抜けに明るいキャラクターがこの映画の魅力をいちだんと引き出しているように思います。
練り上げられた素晴らしい脚本は、時にスリリングでありながら最後はほっこりとさせられます。こんなにポップで可愛い映画、僕は過去に観たことがありません。コロナ禍で劇場では観られませんでしたが、もし昨年観ていたら文句なしの私的ベスト10入りだったなぁ。
第57回金馬奨監督賞、脚本賞