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好き嫌いの激しい私が、食品メーカーで活躍できた話

独身時代に勤めていた会社での思い出。
きっともう、あれほど素敵な仕事には巡りあえないと思う。
#天職だと感じた瞬間

小さい頃から、食べ物の好き嫌いが激しかった

「うどんの上の青ネギは、一つ残らず取り除いてほしい」
「ピーマンを炒めた後、同じフライパンで作った料理は食べられない」
「外食はいつも同じ店の、同じメニュー」
「気に入った食べ物は、飽きるまで毎日食べ続ける」

とにかく食へのこだわり・好き嫌いが激しく、神経質だった私。
反面、同じものを食べ続けることは苦痛ではなく、むしろ精神の安定にも繋がっていました。

そんな私が大学卒業後に勤めたのは、東海地方のとある食品メーカー。配属された部署は、品質保証部でした。

繊細な五感を問われる仕事

品質保証の仕事は多岐に渡りましたが、そのなかでも私の持ち味が活かされたのは、試飲・試食の業務でした。

スタンダード品と比較して遜色ないか、つまりは「いつもと同じ味・品質を保てているか」を確認します。
科学的な分析値には出ない、僅かな差異。それに気が付くことを、全ての製造品において求められました。

ここで私の神経質な部分が輝きます。

「本来は入っているはずの『生姜』の風味が薄い」
「醤油味なのに、豚骨の香りが少しする」

前者は『生姜パウダー』の使用量不足、後者は製造マシンの洗浄不足(匂い残り)でした。
これは塩分や水分、phなどの分析値には大きく反映されません。検査者本人の五感が頼りの部分です。

メーカーとして商品を製造している以上、スタンダード品と異なるものは出荷・販売してはいけません。
たとえ『お客様は気付かないだろう』という程度でも、時には法に触れてしまうので絶対に駄目なのです。

なぜ製造ミスが起こったのか、大量にできてしまった規格外品をどうリカバリーしていくか、今後の対策はどのようなものが最適か。
それらを検証し、製造現場と二人三脚で業務改善を行っていくのも、品質保証として大切な仕事でした。

関東の人の舌

もう一つ、私の味覚が活かされた場面。それは、新商品の開発に際してのこと。

新商品は、少しずつ味や見た目にバリエーションをもたせて、いくつかのサンプルを作成します。
例えばABCの三サンプルを用意したとき、東海以西の出身者のみで構成された開発チームは、第一候補をA・第二候補をCと提案したとします。
しかし、その新商品を首都圏で展開・販売したい営業担当者はBが良いと考えており、意見が真っ向から対立してしまうケースがあります。

そんなとき、部署で唯一『関東地方(神奈川県)出身の私』が、それまでの経緯を知らされないまま開発課へと呼ばれます。
バイアスが掛からないようにするため、試食前に言われるのは「一番美味しいと感じたものを教えて」だけです。

そこで私が迷いなく『B』と答えると、営業担当者はガッツポーズで大喜びするのです。
ほらみたことか、神奈川の人が美味しいって言うんだ。絶対Bでいこう、こっちの方が確実に売れる!

生まれてこのかた培ってきた味覚が、関東で育ったというアイデンティティが役立った瞬間です。
勤続年数が少ない若手の私が、熟練の開発担当者に勝る。
私はその後、社長主導のプロジェクトメンバーに抜擢され、新商品開発や既存商品のリメイクに携わる機会を得ることができました。

好き嫌いが多い子を育てている親御さんへ

「もっと色々なものを食べてほしい」
「好き嫌いが多いと、将来苦労しないか心配」
「苦手なものを克服させようとしても、上手くいかない」

我が子に対して、そんな悩みを持っている親御さんは多いはずです。
こんな偏食では健康を害するのではないか、あれ嫌だこれは無理だとワガママばかりで気が滅入ってしまう。

けれども、そんな『味覚の敏感さ』を仕事で活かせた私のような人間もいます。
好き嫌いは多くとも食品メーカーに勤めて、きちんと業務をこなせていました。

確かに、なんでも美味しく食べられることは大きな強みです。
そして、子どもが嫌だという食材をいちいち取り除いたり、子どもの好みに合わせた献立を考えるのは大変でしょう。

けれども『味覚の敏感さ』という個性は、上手く活かせば役に立つ、特別な武器にもなりえるスキルです。
食べ物の好き嫌いが多い当事者としては、過度に矯正せず、適度にお付き合いいただけたら嬉しい限りです。








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