【小話】リラックスタイム
ふわふわと立ちのぼる湯気。冷えた身体を包む、温かいお湯。じんわりと身体全体が外側から温められることに、ほっと一息吐く時間。
冷たくなっていた指先まで湯船につけて、じっくりと肩が浸かるまで沈む。じゅわじゅわと、干からびた肌に水分が染み込むような感覚で自分が温まっていくのを感じながら、目を閉じた。
ごくらく〜……。
極楽がどんな所かは知らないけれど、そう思う。ゆったり浸かって、何も考えない贅沢な時間。
そのうち、じんわりと額に汗をかいてくる。もう少しじっとして、玉のような汗が目に入りそうになる頃、ようやくタオルで汗を拭った。
その頃には指先はふにゃふにゃにふやけていた。子供の頃はそれを「おじいちゃんの手みたい!」と言ってはしゃいだものだ。
しばらくして、風呂を上がって着替えたあと、のぼせそうなほど火照った体は室内の空気で少しずつ冷えていく。
上着を着て、水を飲んで、はあ、と吐き出した息は少し重たかった。
「……大丈夫?」
「お風呂上がったよー……」
「見ればわかるよ」
呆れたような家族の声と、ぱたぱたと手で扇いでくれるとてもかすかな生ぬるい風。
その場に座り込んで、そのかすかな風を受けながら水を飲んで目を閉じた。
「なんでそんなのぼせるほど入ってたの……」
「なんか極楽だったから」
「……今度遅かったら、生存確認しなきゃいけないね」
「そうしてー……」
「『そうして』じゃなくて、そうなる前に上がってきてよ」
ぺたっと頬に冷たい感覚があって目を開けると、家族はスポーツドリンクのペットボトルを見せた。
「飲んだら? お風呂行ってくる」
「ありがと」
渡されたペットボトルを開けて、冷たいドリンクを飲む。温まった体がすっと冷えていく気もしたけれど、それ以上に心地よさを感じてゆっくり飲んだ。
「……ねむ」
幸せな睡魔、幸せなリラックスタイム。そのまま寝てしまいたい気持ちになりつつ、渋々ボトルを片手に寝室へ向かう。
1段1段、重たい足取りで階段を上がって自室のベッドへ向かうと、そのままぱたりと倒れ込んだ。
「はぁーー……疲れた……」
一気に押し寄せる疲労と睡魔に、ボトルをなんとかサイドテーブルに置いてもぞもぞと布団に潜り込む。
意識はそこで、夢の世界へと転じていった。
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