1.再会
6月の始まりの割には、過ごしやすい日だった。
今日は、マインドフルネスの講座を受けに、美咲はとあるビルの前にいた。
そもそもどうしてこの場所にいるのかというと、もう3年も前の話に遡る。
美咲は、起業したばかりで、とある自己啓発セミナーに通っていた。
最初の契約が20万円くらいするセミナーで、経営者ばかりの集まりで場違いな場所に来たなぁと思ったものだった。
その契約を取っていったのが、今日の講座の主催者で美咲の担当のコンサルタントだった。
契約の取り方の鮮やかさ、寄り添い、決して人を嫌な気分にさせない人だった。何度かセミナーに通うたびに、彼のコンサルがついてくる仕組みで、そのやり方でうまくいっている人もいたけども、美咲には心から思っていないことをしなければいけないのが苦痛になり、なんだか合わないなぁと思っていて、あるとき彼に聞いた。
『やるしかないですね』
そういわれた時、なんだかモヤモヤしたことを覚えている。このどうしようもない感情はどこに向かえばいいのか・・・
そうこうしているうちに、彼から突然電話をもらう。彼がその会社を辞めるという。
『いつか美咲さんにも、僕がこれからしようとしていることをご案内できれば』と言われたことを覚えている。
それがこの『マインドフルネス』だったというわけだ。
3年ぶりに古巣に帰ってきた彼を当時の仲間と共に出迎える。
マインドフルネスとは何かという講義からはじまる。
私は、10年以上前にアロマテラピーからの流れで、一通りスピリチュアルや瞑想は経験していたので、なんだ、瞑想か。という半ばお付き合いのつもりで講座に参加した。
おそらく、人よりも瞑想は得意で、それをどう感じたかをアウトプットするのもありのままを伝えれたと思う。
ひとつ瞑想を紹介しよう。
『レーズンエクササイズ~食べる瞑想~』
①まず最初にレーズンやナッツなどを手のひらに取る。
②それを初めて見るかのように、観察していく。どこからやってきたのか、どんな人の手を渡ってここにきたのか?
③香りを確かめる
④口に入れる
⑤口の中で転がし、感覚を感じる
⑥ようやく咀嚼する。まだ飲み込まない。どろどろになるまで噛む。
⑦ゆっくりと飲み込む。
『どうでしたか?』
彼が問うので、『いかに自分が食べ物の味をゆっくりと感じず、早く飲み込みたいと思って日ごろ過ごしているかわかりました』と美咲は答える。
『いいですね』
そんなやり取りをしたのを覚えている。
講座が終わり、皆でランチに行くことになった。
久しぶりに見るコンサルさんは、サラダを頼んでいる。
『いろいろ生きとし生けるもののことを考えていたら、菜食になりました。』彼はそんなことを言っていた気がする。
皆で、それをからかったり、ストイックすぎると笑ったりする。
美咲は、妙な違和感を覚えた。
彼は、3年前のギラギラした感じがなく、限りなく純粋になっているのに感動した。
人ってこんなに変わるもの???
そもそも20万の契約を取っていく人がなんで1500円で講座なんかしてるんだ?
なんだかまた高い契約とか取られたりするのかなぁ・・・
本当かなぁ。。。と思った。
皆で近況報告をする。
『私、目標は達成したので次は何をしようかなと思っているんです』美咲がそういうと、彼が言った。
『美咲さん、瞑想の先生になったらいいと思いますよ。向いてると思います』
いやいや、ないですから。私セラピストですから。
そんなことを思いつつ、新たな指針に少しだけ興味がわいた。
そして、3年前より親しみやすくなったコンサルさんに、以前より親近感を覚え20日で脳が変わるのなら、私もやってみようということで私の瞑想生活は幕を開けたのだった。