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名乗らず帰る人

わたしは、19歳の頃からの夢「個展を開く」というものを達成したのですが(1つ前の記事参照)

不思議な気持ちになる出来事が1つありました。
少し分かりずらい所にある会場だったのですが、わたしがたまたま背のびをしに外に出た時、迷わずスタスタとこちらに向かって歩いてくる30代前半の女性が目にはいりました。
急いでるな、と思ってふふん〜と見ているとその人は会場に入ってきました。
そしてその瞬間その女性はぶわっと泣きだしました。そして

「覚えてる?」

と聞いてきました。わたしは驚きながら、
すみません、覚えてないです。
というと、「うん、小さかったからおぼえてないと思う。」とおっしゃるのです。お名前教えて頂けませんか?と言いましたが、その方は首を振るばかり。

一通り絵を、みたあと、グッズのポストカードを1つ手に取り、サインしてください。と。わけもわからず、でも丁寧にサインをし、その方はもやもやを残してしまってごめんなさいね。と寂しそうに笑ってまたスタスタと振り返ることなく帰っていきました。

わたしは、名前教えて!ばかり言っていたけれど、そうじゃなくて、わたしの人生の中で関わってくれてありがとうってなんで言えなかったんだろうと後悔して考えていましたが、そう考えている時わたしの、この作品が目にはいりました。

「早く家に帰って母さんを支えたい、90超えているからさ。とわたしに話をしてくれた70代のアルコール依存症の男性。日に日に悪化して薬が増えて、目が虚ろになって太っていった。怖さと同時に、わたしがこの人の目を残しておかなければと使命感に駆られた。3ヶ月かけて私はこの人の目を描き続けた。1度慢性期病棟に居たけれどその数年後、電車の中でその人が当たり前の顔をして座っているのを見た。大丈夫、精神科もちゃんと社会と繋がってる。そして、あなたのこと、ちゃんと見てるよ。」

この絵はキャプションにある通り、わたしが3ヶ月かけて同じ人の目を描き続けた絵です。
目に入ったその時、思いました。わたしもこの男性のことを無条件に応援しているのです。大事、とかすき、ではないけれど、遠くから、わたしは、この人が幸せで居られるようにいつも応援しているのです。

この個展がなければ、わたしを応援してくれているあの女性に出会うことはなかったけれど、きっと今まで出会った誰かはきっとわたしが、あなたが、幸せでいることを、応援、しているんじゃないかなと思いました。
わたしが目を描き続けたこの男性もわたしの事なんてきっと覚えていません。でもそれでもいい、無条件で誰かを応援するって時に無責任だけれど、でも遠くから相手を想うって幸せなことなんだ、とあの女性と重ね合わせながら思いました。

結局あの女性が誰かは分からなかったけれど、これからもわたしのことを遠くから応援してくれると思います。そしてわたしも、入院中に出会った男性のことを応援し続けようと思うのです。

#スキしてみて  #個展 #出会い

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