「韓国ドラマ=恋愛」の呪縛を解きたい〜デザインから受ける印象
前回は、「韓国ドラマ=恋愛」のイメージがついた「第1次韓流ブーム」を振り返ってみた。
▼前回の記事はこちら
今回は、
「なぜ、多くの日本人が持つ韓ドラのイメージがアップデートされないままなのか」
その理由を探っていきたい。
デザインから受ける作品の印象
■時代を感じる日本版ポスター
「韓国ドラマ=恋愛」のイメージが払拭できない理由。
それは、
「ピンクのキラキラポスター問題」
である。
これは韓ドラ好きの間でずっと嘆かれ続けていることの一つ。
韓ドラを愛すれば愛するほど歯痒い気持ちでいっぱいになる。
韓国ドラマのビジュアル制作はハイセンス。
「分かりやすさ」と「キャスト」を重視する日本と違って、
「作品の雰囲気」と「芸術性」を大切にしている印象を受けます。
もちろん、それぞれのお国柄、決まり事があるでしょう。
記載必須項目があること、クライアントに配慮してデザインを変えざるを得ないことがあるでしょう。
ある一定の層が好むビジュアルより、より多くの集客を求めて大衆性に寄せることの必要性も理解できます。
しかし、その「大衆ウケ」を狙って作られたものは、本当に大衆に刺さっているのか?
「大衆」とは誰を指しているのか?
というところには疑問を感じます。
さらに、
「これはちょっと……」
と思ってしまうほどの、オリジナルのストーリーを完全に無視したビュジュアルはいかがなものか。
「韓国ドラマならピンクのキラキラにしておけばいいっしょ!」
と安易にとってつけたようなビジュアルが多すぎる気がしています。
韓国ドラマは年々進化を遂げているのに、日本版のビジュアルだけ古いイメージ(韓国ドラマ=恋愛)に取り残されたまま……
そのように感じてしまう問題のビジュアルたちの中から、ほんのいくつかをご紹介します。
■韓国から日本へ。
まずはじめに、2016年に公開された韓国の名作ドラマのひとつ、「トッケビ」
こちらが韓国版のビジュアル。
ポスター右下で儚げに遠くを見つめる男性と、その背中にそっと寄り添う女性。
背景の雲や空を連想させるイメージと余白。
渋い筆のフォント。
シンプルで大人な印象です。
作品をみたことがある方なら、このイメージがこの作品を物語っていることは一目瞭然。
しかし、これが日本版になると、こうなるのです。
真ん中に写真ドーン!!
ピンクのフォントドーーン!!
背景にキラキラのっけてまえ!!!
この日本版のビジュアルを見たときのわたしの心の内を表すと…
だいぶ派手にイメチェンした思春期の娘が心配だが、かける言葉が見つからない。
言葉に詰まりながらも振り絞って言葉を発した。
「……雰囲気、変わった?」
そんな母親の心境です。(いや、どんな心境)
次はこちら。
「ラブコメの女王」パク・ミニョン氏と、若手スターのパク・ソジュン氏のW主演作
「キム秘書はいったいなぜ」
韓国版オリジナルのビジュアルは
シックでシュッとしたイメージ。
それが、日本版ではやっぱりこうなってしまう。
いや、もうこっちが聞きたい。
「いったい、なぜ?」
いや、確かにこの作品はラブコメなんだけど、オリジナルのスタイリッシュなイメージはいったいどこへ??
最後はこちら。
「袖先赤いクットン」
この作品の韓国版キービジュアルは数パターンあってどれも素敵。
幸せそうに微笑む男女を遠くから眺めるこの構図。
背景の自然の色も美しい。
他のビジュアルも、イメージが違ってまた素敵。
1枚目のビジュアルと少し違って、緊迫した表情だったり、切ない表情だったり。
1枚目の楽しそうな写真は「楽しかった過去」で、辛い運命が二人を待ち受けているのか?と見る人に想像させます。
それが、日本版になるとやっぱりこうなってしまうのです。
(日本版Blue lay、DVDパッケージのビジュアル)
なんか一気にラブコメ感がでてきました。
溢れ出す"Love So Sweet"感(嵐)
ウォ ウォ ウォ〜ウォ〜♪ イェ〜イ イェイ イェ〜♪
*
「芸術性が高くセンスが際立つもの」
VS
「わかりやすくて目立つ、認識されやすいもの」
この論争は、きっと韓国ドラマ以外にもあると思います。
しかし、韓国ドラマのビジュアルたちに関しては、さすがに作品の内容を書き換えてしまっているレベル。
こうしたキラキラピンクに変換されるビジュアルが、「韓国ドラマ=恋愛」というイメージが一向に消えない原因のひとつであると感じています。
■日本から韓国へ。
では、逆に日本の作品が韓国で公開されるとき、どのようなビジュアルになるのでしょうか?
こちら、2015年に公開された映画「ビリギャル」の日本版ビジュアル。
よく見慣れた日本の映画のビジュアルですね。
出演者の写真は必須。
文字情報ははっきりと。
個人差はあると思いますが、わたしは、「中高生向けの作品かな〜…」というイメージを持ちます。
しかし、これが韓国版になると……
なんだかシンプルでオシャレ!
主演の有村架純さんが際立つ!
さらに、個人的にはこちらの別バージョンの韓国版ビジュアルが好き。
ひとり懸命に目標に向かってひた走る主人公の心情が伝わってくるようです。
このポスターを見るだけで少し胸を打たれます。
日本版のビジュアルで
「若者向けの作品かな……」
と敬遠していたけれど、こちらのビジュアルだと
「あ、ちょっとみてみようかな……」
と思い直す方もいるのではないでしょうか。
少なくとも、わたしは見てみたくなりました!
次はこちら。樹木希林さん主演の名作「あん」
こちらの日本版のポスターも、キャストが誰なのかはっきりわかるように構成されています。
日本版が悪いわけではないんですが、こちらも韓国版がとても素敵。
見た瞬間に、グッと心を掴まれます。
端にひっそりと添えられた一言。
「世の中の全てのものはストーリーがある。」
綺麗で趣があり、視聴意欲を掻き立てるビジュアルだなーと感じました。
最後は、こちら。
2017年に公開された是枝裕和監督の「三度目の殺人」日本版ビジュアル。
そして、韓国版がこちら。
カッコよくて痺れる……
真っ白な雪景色の奥に俳優たち。
赤いタイトルとその他の情報が十字架のようであり、滴る血のようでもある……
是枝監督ご本人も、韓国版のビジュアルについて、
「大胆で素敵なデザイン」
「解釈やデザインから学ぶことが多い」
とコメントされています。
■韓国の制作会社「Propaganda」
上述したような日本作品の韓国版ビジュアルを多く手掛けている、韓国の気鋭の制作会社「Propaganda」
彼らが手がける作品のキービジュアルは、シンプルで洗練されていていて、且つ作品のメッセージを視覚的に訴えかけます。
こちらのインタビュー記事が面白かったです。
▼制作会社Propagandaのインタビュー記事
*
彼らが主張する
「映画を一番格好よくみせるために包装すること」
「このポスターをみて『この映画、観たい!』と感じさせること」
まさに、わたしがそう感じた一例がこちらです。
今年、Propagandaが手掛けた日本映画のビジュアル。
片山慎三監督、佐藤次郎主演の映画「さがす」
このポスターの雰囲気と
演技派の俳優が揃っていることが気になって
映画の公開前からチェックしていました。
数パターンあるポスターから、それぞれの視点から何かを探しているんだなということが伝わるし、各登場人物のキャラクターポスターのようでカッコいい。
映画館で見たかったけど、作品の内容からして映画館でみるのはちょっと怖いかも……と思い二の足を踏んでいたら上映期間が終了してしまい、
「やっぱり見ればよかった……」
と後悔していたところ、Amazon Primeで配信されたので即視聴しました。
(テーマが重たくて軽々しく感想を言えないので、気になる方は見てみてください…!)
この記事を書くためにPropagandaの過去作を探していたら、このビジュアルも彼らが手掛けたものだと知り、妙に納得しました。
まさに、「映画を一番カッコよく包装」していて、「この映画、みたい!」と思わせるビジュアル。
Propagandaの他の作品が気になった方、ぜひインスタやウェブサイトをチェックしてみてください。
▼Propaganda公式インスタグラム
「大衆」とは誰なのか?
もし、この記事が配給会社や制作会社の方に届くとしたら。
「韓国ドラマはラブコメっぽくしておけばいい」
という認識を考え直してみてほしい。
少なくとも、わたしが知っている韓国ドラマ好きの間では、このビジュアル変換問題に対して意義を唱えている人の方が圧倒的に多い。
長年の慣例で行っていることが、果たして今も今後も通用するのか。
大好きな作品があったとして、その日本版DVD BOXのビジュアルがド派手ピンクのキラキラ装飾に変換されていたら……
わたしは、買わない。
何がなんでも、買わない。
そう思うのはきっと、わたしだけでないはず。
それだけ機会損失していると思う。
ストーリーのイメージを活かしたビジュアルがいい。なんならオリジナルのそのままがいい。
作品へのリスペクトがうかがえるサービスやクリエイティブにお金を落としたい。
視聴者はそう思っています。
これ、ほんとです。
そして、
キラキラに変換されたイメージに惑わされず、
ぜひ自分の視点で、韓国ドラマをみていただきたい。
あなたの目には、
韓国ドラマはどのように映りますか?^^
韓国ドラマをこよなく愛すいち一般人の、
いち視聴者からの視点でした。
ではでは、今日はこの辺で。
アンニョン^^
▼映画「さがす」レビュー記事
▼片山慎三監督がポン・ジュノ監督と作品を語るインタビュー