レペゼン魔法のiらんど
「サービス終了のお知らせ」という恐怖の通達を、わたしはつい先日までまだ頂戴したことがなかった。幸いにも、自分が応援しているアプリやゲームは順調に運営されつづけていて、うわさに聞くその、「かなしくて、どうしようもないこと」と対面することになったのは、思いがけずも小説投稿サイト『魔法のiらんど』閉鎖のお知らせだった。来年の三月にサービスを終了し、カクヨムへ合併されるらしい。スマホの前で思わず「ついにかあ」と声が漏れた。
平成生まれのわたしは、ケータイ小説全盛期の世代として生きて、周りが『ハリーポッター』や『黒魔女さんが通る!!』を読んでいるなか、愛読書はもっぱら『恋空』(正式なタイトルは『恋空〜切ナイ恋物語〜』)だった。上・中・下に分かれたあの横書きの文庫本を何度読み返したことだろう。
小学四年生のとき、『恋空』を読んで、はじめて「根性焼き」という単語を知った。恋におぼれ、ドラッグに陶酔する若者や、妊娠中絶の恐ろしさに触れて、うしろめたくなるほどの衝撃を受けた(今思えば教育に悪すぎるが、ここに自分のルーツがあるようにも思う)。
朝読書の時間にも、わき目もふらずケータイ小説を読んだ。きっと大人たちからすればちっともリアルじゃなかったあの物語の世界を、リアルなのだと信じて、夢中になっていた。
『恋空』をはじめ、『赤い糸』や『S彼氏上々❤︎』が流行した時代が過ぎ去り、友だちとケータイ小説を回し読みすることがなくなっても、『ちゃお』を卒業して『ジャンプ』を読むようになっても、ガラケーがスマホに変わっても、わたしはずっと、ケータイ小説を読んでいた。
学生時代、部活の大事な大会でミスをして、思うような結果が出せなかった日の夜や、定期テストの抑圧から解放された日の放課後。社会人になって、仕事に忙殺され、ただときめきだけで心を満たしたくなった休日。わたしはいつも『魔法のiらんど』を開き、夜更けから朝日が昇るまで、ほんとうにたくさんの作品を読みふけった。それはまるで、自分の傷口を修復していくような時間だった。
今年の頭にどハマりした作品があって、大学生同士の同居ラブストーリーだったのだけれど、主人公二人が一緒に過ごした部屋の間取りがどうしても気になり、Twitterで作者さんに質問を送ったことがある。そのお返事が、手書きの間取り図と一緒に返ってきたときは、うれしくてたまらなくて、いまでもその画像をたいせつに保存している。
ほかにも、更新が待ちきれず、毎晩0時に欠かさず作品ページを見に行ったり、各作者さんのサイト限定で公開されているエピソードを読むため、秘密のパスワードを必死になってメモしたりもした。そうやって、頭のてっぺんまでラブストーリーに浸かる時間が至福だった。
すきな読み方があって、冬に布団のなかで読むのがいちばんいい。読んでいると、どきどきして、身体が熱くなって、布団のなかがこたつみたいあったかくなるのだ。そのとき、わたしは自分の心臓が動いていて、たしかに体温があることを感じられる。自分の体温だけで、冷えた足先をあたためることができる。それがなんだか、照れ臭くて、けれどうれしかった。
ネットの海に広がる数多の恋愛小説はいつも、現実から遠く離れた、うっとりするほど甘い世界へとわたしを連れて行ってくれた。
こうして『魔法のiらんど』のはなしをすると、よく「懐かしいね」と言われるのだけれど、わたしにとってはすこしも懐かしいものではなく、「いま」のわたしをつくり、支えてくれているものだ。けれどそれをわかってもらおうなんて思わないから、いちいち相手に説明したりはしない。
それほどたいせつだった場所がついに、なくなってしまう。それがただ、たださびしい。かなしいよりも、さびしい。『魔法のiらんど』は約十七年ものあいだ、わたしにとってのたしかな居場所だった。
あの世界のなかで、全身全霊で恋をしながら生きていた彼らは、まだずっとわたしの記憶のなかで恋をしつづけている。
たとえあの場所が、いつかわたしにとっての「懐かしいもの」になってしまう日がきても、思い出したとき、できるだけ鮮やかなままだったらいいな、とおもう。そしてそのとき、わたしの体温はきっと、すこし上がる。
ふるさとがたくさんあります 「ただいま」と言えなくなったところもあります
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せっかくの機会なので、わたしの大すきな作品をここに残しておきます。2025年の3月まではサイトが残っているみたいなので、それまでいっぱい読み返します。
たくさんのすてきな作品と出会わせてくれた、魔法のiらんどに感謝!これからもずっとわたしのバイブルだ!
✴︎『虚しくて、愛おしい』
✴︎『世界はほんの少しの闇と溢れるばかりの愛で満ちている』
✴︎『下手くそなラヴソング』
✴︎『揺らめいて、ハニー』
✴︎『LOVE AND PEACH』
✴︎『PERFECT EDUCATION』
✴︎『届かない想いの行先は』
✴︎『白には堕ちない』
✴︎『眼中にない君のこと』
✴︎『愛か、情か。』