地元の夏祭りは、台風が来るというので中止になった。30年ほど前に開発された住宅街には、まだ子どもたちの気配もあって、お祭りがあったはずの時間をそれぞれ持て余しているような、気だるく、湿度の高い午後だった。 緑道を挟んで向かいの家では、代替案としてビニールプールを広げている。本当なら今頃聞こえてきたはずの祭囃子に変わって、蝉の声が響いている。もともと遊ぶ予定だったのだし、せっかくだからと集まった小学生たちが、行くあてもなくだらだらと緑道を歩いている。 「なんだ、結局晴れたじ
ポジティブなことを中心に発言できる人は素晴らしいと思うし、人の尊厳を傷つける誹謗中傷は無くすべきだと思う。ただ、批判的なものの見方やそれを発言することも尊重されるべきで、炎上を恐れてものが言えなくなる社会は望ましくない。僕の苦手な「身内感」の正体はそこにある気がする。 大人として「空気を読む」ということはもちろん大事。だけど、どうもその「空気」とやらが肌に合わないことが増えてきた。その場が面白く(丸く)収まることが重要で、水をさすことは悪であるという空気のこと。 社会には
坂の多い街だった。 初めて訪れた場所、また来たいと思った場所、小樽。 目に沁みるほど美しい朝焼けが、坂の向こう、海の方から立ち上がる。 やがて、海も、山も、街も、おもむろに動き出す。 歴史の情緒を残しながら、明日へと向かう臨海の都市。 スナック街には歌声が響き、 旋回するウミネコのように 街を巡る運河のように 人の営みが巡回しているようだった。 札幌で1泊してから、次の目的地へと向かった。 八雲町での夜は、刺激的だった。 忘れられない夜空。 湯気に紛れ
散歩が好き!だと思っていた。それで、最近は1時間以内で行ける場所であれば、なるべく歩いていくようにしていた。 そんなある日、打ち合わせに向かって歩いている最中に、愛用していたワイヤレスイヤホンが壊れた。右側だけ聴こえなくなってしまったのだ。 左耳だけで聴いているのもなんだかいずい(仙台弁)ので、その日は音楽を諦めて残りの30分ほどの道のりを"裸"の耳で通り過ぎた。 そして一つ、気づいたことがある。僕は「歩くこと」が好きなのではなく、じっくりとイヤホンで音楽を聴く時間を持
おじいちゃん子だった。 小学校から帰ってくると、おじいちゃんの部屋に行き、戸棚のカンカンを開け、そこに隠してある板チョコを取り出して、それを持って膝にちょこんと座る。 「手を洗ってからにしなさい。あと、ママには内緒だよ」 おじいちゃんは、大相撲の中継から目を逸らさずに僕に言うのだった。 そして、言われた通り手を洗ってからまた膝の上に行き、2人で相撲を観戦する。たいてい僕がすぐ飽きて、 「観るんじゃなくてやろうよ、相撲やろう!」 と言い出す。 それでおじいちゃんも
新千歳空港から札幌へ向かうバスの中。時刻は22時を過ぎようとしていた。 車窓を流れる景色は、初めてみる街並みなのに、妙に懐かしいと思った。 携帯ショップと「セイコーマート」、それから時々現れるスーパー銭湯やパチンコ店。「トリトン」を見つけて(あれ、さっきもここ通んなかったっけ)と思う。これを3回ほど繰り返して、バスは目的についた。 初めて降りる、札幌の寒夜。さて、どれほど寒いのか、と息を吸い込むと、-4℃の冷たい空気が体の中を伝うのがわかった。その"口当たり"は、やっぱり
「人」と「場」をつなぐコミュニティメディア『はにふみ』の編集長、ミフミが、「場」の取材を通して感じたことを徒然なるままに綴ります。 episode.2:バベルとジェンガ 世界中でバラバラの言語が使われているのは、かつて人間が神の怒りを買ったからだそう。 そう、あの有名な旧約聖書「バベルの塔」の話だ。かつて、天まで届く塔の建築を目指した人間たち。その高慢さに激怒した神。そうして、お互いの言葉が通じないように言語が散らばっていった、というお話。 さて、翻って、現代・日本。「
「人」と「場」をつなぐコミュニティメディア『はにふみ』の編集長、ミフミが、「場」の取材を通して感じたことを徒然なるままに綴ります。 episode.1:We are 「コミュニティ」がわからなかった。 僕は本業として「広告」の業界に身を置いている。すると、しばしば「コミュニティづくり」と言ったワードが出てくることがあった。時に、お菓子メーカーのファン育成のためのプロモーションとして。時に、不動産ディベロッパーが、家を売るための販促施策として。 「自走するコミュニティが豊
自分の名前を口にするのが恥ずかしかった。 物心ついてから、確か小学校低学年くらいまでは。 「未史(ミフミ)」という変わった名前であることも、理由の一つにはあると思う。 「お名前は?」 「…みふみです」 「ん?ひふみくん」 とか 「みふみちゃん、女の子みたいだね!」 とか 「みふみくん、どんな字書くのかしら?」 みたいなことを言われて、それ以上の会話が求められている気がして、シャイなミフミ少年は顔を赤くすることしかできなかった。 今はというと、この名前が大好きだ
5月1日。 その日の朝は、よく晴れていた。 目的地へは歩いて40分。 散歩がてら歩いて向かう道中、春めいた街並み。 赤や黄色、特にオレンジの花がよく目立つ季節だった。 大学の同級生で、 大手ハウスメーカーで設計士をする友達から 「自分が設計した建物の写真を撮影してほしい」 と仕事の依頼が来たのは 1週間ほど前のことだった。 嬉しかった。 二つ返事でOKして、とんとん拍子で撮影日が決まった。そして、この日、まさにその撮影場所へと向かっていた。 杜の都仙台の象徴的な風景で
コピーライターのミフミです。 これまでいくつかの記事でお伝えしてきましたが、コピーライターである僕がお菓子を売る、という奇妙な企画が無事終了しました。 背景はコチラ 出展したイベントは『仙台まるごとデザインマーケット』。 イベント自体が第1回開催、そして僕にとって初めての「自分で作ったものを売る」経験。さらには、イベント前日に開業届を出して(※この話はまた今度)の、初仕事。 初めて尽くしの『おかしとはなし』。結果として、イベントの終了時刻を1時間残して、予定数量完売
こんにちは、コピーライターのミフミです。 さて、「おかしとはなし」初出店がいよいよ今週末に迫ってまいりました。 おかしとはなしについてはコチラから お菓子の写真は、僕のtwitterや、mamanさんのinstagramでちょこちょこ投稿してまいりましたが、「はなし」については、コチラの記事であらすじを公開したくらいで、どんな話が読めるのかわからない部分も多いと思います。 そこで今日は、「おかしとはなし」の商品には含まれないけど、こんなボリューム感、書き味の話が読めます
コピーライターのミフミです。 前回の記事の続きとなりますので、もしよければそちらもご覧ください。 前回の記事:コピーライター、お菓子を売るの巻 さて、そんなこんなでお菓子屋さんとコピーライターが手を組んで出展する「おかしとはなし」。ここで具体的な企画説明をば。 例えばジブリ映画に出てきた料理がやたら美味しく見えるような、お話の中から飛び出てきたお菓子と、そんなお話が読めるQRコード付きのカードをセットで販売するものです。ジブリ飯もそうですが、個人的には、ビール工場に見学
コピーライターのミフミと申します。 僕は普段、企業様からご依頼をいただいて広告の企画を考えたり、キャッチコピーの提案をしたりしています。表現すること、とりわけ「言葉」を扱うことが好きで今の仕事を選びましたが、最近、思うことがあるんです。それは、モノを売るためのコミュニケーションを考えているわりに、自分自身にモノを売る経験が乏しいのはいかがなものか、ということ。 恥ずかしながら、学生時代のアルバイトも含めて、カタチがあるモノの企画・製造はおろか、販売・接客もしたことがありま
面白いことがオモシロくない。むき出しの言葉が溢れている。 YouTuberは人のモノを勝手に売ったり壊したり、過激なイタズラで“撮れ高”を稼ぐ。 「テレビは規制や炎上を避けてつまらなくなった。YouTubeの方が面白い」 という声も少なくない。 「いやいや、テレビもまだまだやるじゃん、見直した」 そういう声がたくさんつぶやかれる、いくつかの人気番組。芸能人のプライベートを隠し撮りして、その奇妙な行動を笑い者にしたり、一般人のインタビューにテロップでツッコミを入れて馬鹿にし