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介護離職を避けるための公的支援制度の知識


1 介護離職の現状と課題


介護離職は、近年、日本で大きな社会問題となっています。
 
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護をしながら働く人は約365万人で、直近10年間で70万人強も増えています。
家族の介護を理由に仕事を辞める人つまり介護離職をする人は、年間約10万6,000人もいます。
介護離職者の多くは40代から50代で、とくに管理職や責任ある立場にある人が多くなっています。
 
「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業報告書」(令和3年度厚生労働省委託事業)から引用します。
 
介護離職者に、どのような職場の取り組みがあれば仕事を続けられたと思うかを尋ねた結果はつぎのとおりです。
①仕事と介護の両立支援制度に関する個別の周知(55.1%)
②仕事と介護の両立に関する相談窓口の設置(33.7%)
③仕事と介護の両立支援制度に関する研修(31.7%)
 
また、仕事を辞める理由となった勤務先の問題についての回答はつぎのとおりです。
①(仕事を続けたかったが、)勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気等があった(43.4%)
②(仕事を続けたかったが、)介護保険サービスや障害福祉サービス等が利用できなかった、利用方法がわからなかった等があった(30.2%)
 
制度の周知や相談体制、職場の雰囲気に課題があることを示しています。
 
一方、介護離職による変化についての設問です。それぞれの項目で「非常に負担が増した」「負担が増した」との回答を合計した割合はつぎのとおりです。
・精神面:66.2%
・肉体面:63.2%
・経済面:67.6%
介護離職により精神的・肉体的・経済的負担が大きくなることがわかります。
 
さらに、経済産業省「第1回 産業構造審議会 2050経済社会構造部会」(2018年9月)による経済的影響についての試算もあります。
介護離職に伴う経済全体の付加価値損失は約6500億円と見込まれています。

2 介護離職対策~公的介護支援制度


政府は「介護離職ゼロ」をめざし、さまざまな政策を進めています。
前述のとおり介護離職に伴う負担増加は大きいです。
まずは仕事と介護の両立をめざし、介護離職は極力避けたほうがよいでしょう。
そのためには、公的介護支援制度について知り、活用する必要があります。

(1)介護休業


介護休業は、要介護状態にある家族の介護を理由に一定期間仕事を休むことができる制度です。
要介護状態とは、負傷、疾病、または身体上もしくは精神上の障害により、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態を指します。
 
①取得条件
介護休業を取得するためには、つぎの条件を満たす必要があります。
 
㋐対象家族が要介護状態であること
㋑労働者が日々雇用でないこと
㋒(パートやアルバイトなどの有期雇用労働者の場合)
取得予定日から起算して93日を経過する日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了し、更新されないことが明らかでないこと
 
労使協定を締結している場合につぎの労働者は対象外となることがあります。
・入社1年未満の労働者
・申出の日から93日以内に雇用期間が終了する労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
 
②対象家族
対象家族は、配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。
 
③休業期間
介護休業は、対象家族1人につき通算93日まで取得できます。この93日間は最大3回に分割して取得できます。
 
④手続き方法
介護休業を取得するためには、休業開始予定日の2週間前までに書面等で事業主に申出を行う必要があります。
 
⑤経済的支援
介護休業期間中は、雇用保険の被保険者で一定の要件を満たす場合、休業開始時賃金日額の67%相当額の介護休業給付金が支給されます。
詳細についてはハローワークで確認できます。


(2)介護休暇


介護休暇は、要介護状態にある家族の介護や世話を行うために、労働者が取得できる短期の休暇制度です。
通院の付添いや介護サービスの手続代行、ケアマネジャーなどとの短時間の打合せに活用できます。
 
①取得条件
介護休暇を取得するためには、つぎの条件を満たす必要があります。
 
㋐対象家族が要介護状態であること
㋑労働者が日々雇用でないこと
 
労使協定を締結している場合につぎの労働者は対象外となることがあります。
・入社6か月未満の労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
 
②対象家族
対象家族は、配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。
 
③休暇日数
介護休暇は、対象家族1人につき年5日まで、対象家族が2人以上の場合は年10日まで取得できます。
また、1日単位、半日単位、時間単位で取得できます。
 
④手続き方法
介護休暇を取得するためには、事業主に対して書面や口頭で申出を行う必要があります。
社内に規定の様式がある場合は、それを使用します。
 
なお、介護休暇が有給か無給かは、企業により異なります。無給とする企業が多いようです。
年次有給休暇を取得したり、長引くようであれば介護休業を取得して給付金を受給したりといった選択肢も考えられます。

(3)短時間勤務等の措置


短時間勤務等の措置は、要介護状態にある家族を介護するために、労働者が所定労働時間を短縮するなどの措置を講じることです。
 
①取得条件
短時間勤務等の措置を受けるためには、つぎの条件を満たす必要があります。
 
㋐対象家族が要介護状態であること。
㋑労働者が日々雇用でないこと。
 
労使協定を締結している場合につぎの労働者は対象外となることがあります。
・入社1年未満の労働者
・1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
 
②対象家族
対象家族は、配偶者 (事実婚を含む) 、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫です。
 
③措置の内容
事業主は、以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
 
㋐短時間勤務制度
・1日の所定労働時間を短縮する制度
・週または月の所定労働時間を短縮する制度
・週または月の所定労働日数を短縮する制度(隔日勤務や特定の曜日のみの勤務など)
・労働者が個々に勤務しない日または時間を請求することを認める制度
 
㋑フレックスタイム制度
 
㋒時差出勤制度
始業または終業時刻を繰り上げまたは繰り下げる制度
 
㋓介護費用の助成措置
労働者が利用する介護サービスの費用を助成する制度
 
④利用期間
短時間勤務等の措置は、対象家族1人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間で2回以上利用できます。
 
以上のほかにも、所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限があります。
 

 
私も経験がありますが、介護の負担はたいへんなものです。
とはいえ、経済的困窮を避けるためにも仕事との両立をめざしたほうがよいでしょう。
そのためには公的支援制度の知識をもち、活用して少しでも負担を軽くすることが大事です。

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