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諸富祥彦氏の「カール・ロジャース入門」を読んで“クライエント中心アプローチ”について考える

仲間内の勉強会で次のテーマとして「クライエント中心アプローチ」を取り上げることになり、資料を作成するためにこの本を手に取りましたが、大正解でした。

クライエント中心アプローチは、社会福祉士や精神保健福祉士の国家試験で勉強しました。この本を読むまでの感想は「受容・共感・一致は大切!」というような単純なもので、クライエントごとに選ぶ援助技術のメニューの一つという印象でした。が、間違いだと今では思います。そのクライエントを目の前にしても行われるアプローチはクライエント中心アプローチです。

ロジャースのクライエント中心アプローチには「自分自身を見つける」という確信が貫かれています。この確信には、ロジャースが抑圧的で息苦しい家庭環境で育ったという背景から、人との出会いや学びを通して「自分とは何か」を巡る人生を歩んだ経験が支えになっているからです。

「〇〇するべきだ」「〇〇なんだから」といったものに意識的、無意識的に影響されて私たちは日々何をするか、これからどうしていくかを選んでいます。しかし、ふと「あれ?自分は本当は何をしたいんだっけ?」と自分ではない何かに捉われてしまっているように感じ、ふと、自分を見失っていることに気づきmす。ロジャースも育った家族の人間関係の中でその息苦しさを感じていたようです。ただ、その息苦しさから解放させるきっかけも、またロジャースが出会った人たちとの関係にあったのです。

ロジャースは「人間関係で傷ついた心を癒すのもまた人間関係だ」と述べています。傷ついた心を癒すためにクライエントが訪れるカウンセリングの場で、ロジャースが築いたのがクライエント中心アプローチなのです。

カウンセリングの場でセラピストに求められるのが「受容」「共感」「一致」です。
クライエントが表明する事柄の矛盾も含めてクライエントの大切な一面として受け止める“受容”。クライエントの感じている感情をあたかもセラピスト自身のことのように感じ、クライエントと共有する“共感”。そして、セラピストが感じきれている事と、まだ曖昧な部分を切り分けて無理に理解しようと焦らないでいられる“一致”。そのカウンセリングの場で醸し出されるのが「自分がじゅうぶんに自分らしくいられる場」であり、その人間関係を味わい体験する事によって、クライエントは自分自身を実感し、回復していくことになります。

このように、ロジャースはカウンセリングにおけるテクニックや診断を否定しませんがそれよりも、クライエントとセラピストの“関係の質”を最重視します。

ソーシャルワークの援助技術からクライエント中心アプローチを見てみます。援助技術には大きく二種類のものがあると私は考えています。それは、状況に応じて組み合わせが可能なものと、そうでないものです。例えば、前者にあたるのが問題解決アプローチや危機介入アプローチ、認知行動アプローチなどです。一方で、後者にあたるのがクライエント中心アプローチです。そのように考えるのは、クライエント中心アプローチが人にや状況によらず、根底にあるべき姿勢だと考えるからです。

クライエント中心アプローチは、援助技術のメニューの一つではなく基盤になる考えるのは、クライエント中心アプローチが目指すものと、ソーシャルワークの根源的価値である「個人の尊重」「主体性の喚起」「参加の促進」と中核的価値である「本人主体」とが合致するからです。なので、クライエント中心アプローチを援助技術の一つとして取り上げてしまうのは、ソーシャルワークの価値すらも援助技術のメニューの一つのように捉えられてしまうことになるのではないかと考えます。ソーシャルワークの価値を活かした支援にするためにも、クライエント中心アプローチを核としたソーシャルワーク援助技術の整理をしてもいいのではないかと私は考えます。

「カール・ロジャース入門」はクライエント中心アプローチについて理解を深める良い一冊です。ロジャースの人生についても知る事ができるため、より立体的にクライエント中心アプローチを捉える事ができました。また、自分自身はどうだろうか「私は私を見つけているのだろうか」と考え直してしまいます。援助者としてクライエントと質の良い関係を築くためにもこれからもこのアプローチについて深く学んでいくとともに、また一人の“ひと”として自分の状態や態度を見直すためにも、定期的に読み直して確認したい一冊と出会った思いです。

最後に一つ引っかかるのは、カール・ロジャースの結婚観ではあります。否定的な言葉で語られる不倫や愛人を「衛星関係」と呼び、夫婦で開かれた関係をもちそのことをオープンにお互い語る方が独立した人間として成長できるといい、晩年に自身も複数の人と性的な関係を結んでいたということです。著名な白人の学者であるカール・ロジャースが示すこのような見解には、自分の行動を正当化しているように感じられてしまいます。ロジャースと不倫の関係にあった人たちの間に今でいう「セクシャルハラスメント」があったのではないか。「衛星関係」というが、衛星とは誰のことを指しているのかロジャースの都合がいいように論を展開しているように思ってしまいます。

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