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名もなき私たちのための

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ギリシャ神話には描かれなかった、女性や女神の真の姿を妄想して創作します。 「枠組みからの解放」を、彼女たちと共に目指してみませんか。
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記事一覧

【短編小説】それはあまねく唯一の

 天窓から柔らかな光が差し込む某図書館。近年建てられたばかりのそこは、大空間の中に大きなランプシェードのような構造体が吊り下げられ、空間を緩やかに仕切っている。明るいシェードの下でソファに座った少年が本を広げている。  ページをめくっていた少年が、ふいと顔を上げた。一人分挟んで隣には、金色の髪の女が同じくソファに腰掛け外を眺めている。本のページと女を見比べ、少年が女に話しかける。 「ねえ」 「……ん?」 「どうしてこの人、手がないの」  少年は開いていた本のとあるページを

【短編小説】やがて世は知る完全なるを

 白い壁とガラスで構成された無機質な建物の、長い庇の下に置かれたテラス席。腰掛けた一人の女が庭の緑を眺めながら頬杖をついている。  土曜日の午後の美術館はそれなりに混み合っていて、併設カフェもテラス席まで人で埋まっていた。  にぎやかな周囲に溶け込みながら、彼女は夫を待っている。もう長いこと会っていなかった。 『最後に会ったのはいつ?』  端末から声が聞こえてくる。待ち人が来るまでの間、友人が話し相手になってくれているのだ。友人の優しさに感謝しながら、女はイヤホンを引き

【短編小説】名もなき彼女たちのための

「いい世の中になったものね」  長く波打つ亜麻色の髪をゆるやかに風になびかせて、女がそうこぼした。  オフィス街の狭間に網の目のように広がる街路樹、その申し訳程度の緑を求めて道路沿いのカフェは席を溢れ出させる。  庇のかかったテラス席、角には二人の女が座っている。一人は長い亜麻色の髪をしたスーツの女、もう一人は栗色のまとめ髪のゆるやかなワンピースを着た女。 なぜだが周りに靄がかかったように、彼女たちの存在感は希薄である。 「いい時代?」  高貴さを感じさせる仕草でコー