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敏感気質の娘とリトミック

長年人間やっていると、「あの時のあのタイミング、あの時あの人と出会ったことが人生の分かれ目だったんじゃないか」と思うことがままある。
子育てやっていてもそういう瞬間はくる。
そのタイミングを逃したくないから親は悩んだりもするわけで。
娘にとってもそういうタイミングと出会いがいくつかあったのでその一つを書いてみたい。

今日書きたいのはリトミックと娘を教えてくれた先生のこと。
書こうと思ったきっかけは私のクライアントさんにリトミックの先生がいて、彼女がSHCである繊細な気質の子にリトミックをしたときのことがSNSに書かれていたから。
クライアントさんはとても優しい人で彼女が目の前にいるだけで私もほっとする…そんな人なのだ。
彼女のところに行ったSHCのお子さん、幸せだ。

うちの娘は繊細な気質の子。
とても怖がりで2歳前後まで歩けずしゃべれず、子育て広場に行っても私の膝から離れないような子だった。
そのころの苦労は枚挙にいとまがないくらい。
そんな娘が少し変わったきっかけはリトミックと先生にあった。


楽器を長らくやっていた私は娘にも楽器をやってほしかったけれど、その前にまずリトミックやソルフェージュが大切だと思い、とある音楽スクールに娘を連れて行った。たしか娘が4歳前くらいの頃のこと。
そのスクールは昭和の大建築家、吉村順三が設計した古いけれども端正かつ可愛らしい建物だった。
子どもには環境も大切。殺風景な建物じゃないほうがいい。
家から一時間近くかかるけれどもそこがいい!と私が思い連れて行った。
直感で動く自分らしい行動。
誰とも挨拶できないような娘はとても緊張していたと思う。


スクールのホールで先生が子どもたちと一緒に歌を歌いリトミックをする。
それを見学する娘と私。
なんだか涙が出そうになるような懐かしいような温かい光景。
先生の美しい歌声と優しく明るい語り掛け、そして子どもたちの楽しそうな声。
娘は固まったように身動きせずその光景を見ていた。
すると先生がとても優しい声で娘に声をかけた。
「K子ちゃんも一緒にやる?」
なんだか絶妙のタイミング。
このタイミング以外ではあり得ない…と思うようなタイミングだったのだ。
その場の雰囲気や娘の様子や目に見えない呼吸のようなもの…すべてを分かって声をかけてくださったように感じた。


この子はどうするのだろう…たぶん無理だろうと思っていたら、
コクリと頷き、前に向かって歩き出した。
あの時の光景を私は一生忘れないと思う。
ホールの細い窓から夕方の陽が淡いオレンジ色にさす中を娘はトコトコ歩いていった。
単なる直感だけれども「ああ、この子引っ込み思案でも大丈夫」と私が初めて心から思った瞬間だったと思う。
娘は先生に迎え入れてもらい、お友達と一緒におそるおそるリトミックをやり始めた。
見ていると、こわばっていた娘の顔に少しはにかんだような笑顔が浮かびだした。
身体を動かすって心の解放につながるんだな。
音楽があるって素晴らしい。
そんなことを感じた。

そしてその日の帰り道。
これこそがその後の娘を決定づけたんじゃないか?と思う出来事が起きた。
これは長くなるのでまた別途書きたいけれどわたしにとっては劇的だった。
その出来事もリトミックをしなかったら起こらなかったと思う。

私は詳しくリトミックを知らないので、リトミックそのものについては何も書けないけれど、音楽を聴いて自分を身体で表現できるというのは子どもの発達にとてもよいものだと感じる。
そしてとても大事なのは誰に教えてもらうかということなのだ。
子どもは大人と違う。
それを分かってくれる先生に習うことが大切だと私は確信している。
安心安全の中で習うことが一番、特に敏感気質の子にとっては大切なこと。
だから冒頭に書いたクライアントさんと一緒にリトミックできる子は幸せだと思う。


娘にリトミックとソルフェージュを教えてくれたのは江原陽子先生。
娘の最初の音楽の先生。
大事なことはぜんぶ陽子先生に教えていただいた。
音楽だけじゃなく、人としての振る舞いも娘は学んだと思う。
先生はもう何十年も日本フィルハーモニーと一緒に子ども向けの夏休みコンサートや春休みコンサートで見事な司会や歌を披露していらっしゃる。
サントリーホールでの先生とスクールの小さなホールでの先生。
場所は違っても、子どもたちへの温かい眼差しも美しい声も変わらない。
娘はたくさんの愛情を先生からいただいた。
音楽の基本も身についた。
歌も大好きになった。
何より音楽が大好きになった。

娘はやがて違うところでこれもまた素晴らしいヴァイオリンの先生に教えていただくことになって、時間的にどうしてもリトミックには通えなくなってしまった。
けれども、あの何年間かはかけがえのない時間だったし、娘の人生に大きな宝物を与えてくれたと毎日元気に学校に通う娘を見ていて感じるのだ。

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