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差し入れしたがる利用者との攻防

先日、別事業所の職員数人と話をしていたところ、年齢が一番若い男性職員が困った顔で話し始めた。

『ちょっといいですか…僕にいつも、何か差し入れをしようするSさんがいて…断っているんですが…毎週毎週引かなくて…結局今日だけと言って預かるんです…』

あー、いるいる!物を渡さないと落ち着かない“差し入れ魔”な利用者。

結局、受け取ってしまった物は、後ほど管理者からも断って返してもらっているということだ。しかし、そのやりとりは留まるところを知らないという。

と、彼の話から、この問題はよくある事例だと思い、掘り下げてみることにした。



1.差し入れNGルールがなぜあるか、知ってますよね?

施設としては大概、職員への差し入れは遠慮させていただきますという規則がある。また、事業所利用に際して契約書や説明書には、利用者同士の物のやり取りも禁止する旨(トラブルがあった場合関与しません、という内容)が記載されていることが多い。

これは、公平性だけでなく、トラブル防止の観点から設けられている。

例えば、ある利用者にだけ頻繁に差し入れをすることで、不公平感が生まれるかもしれない。また、衛生面や医療の観点から、食べ物のやり取りは問題になる可能性がある。

そして何より、人は感情を持つ生き物。「好意」が「依存」や「執着」に変わったとき、人間関係が複雑になりかねない…ということも。

2.利用者の心の中を考えてみる

今回の件をSさんの立場で考えると、

  • もしかしたら、Sさんは職員から元気をもらっているから、お返しをしたいという気持ちがあるのかもしれない。

  • 過去に「お世話になった人に差し入れをするのが当たり前」という価値観を持っている可能性がある。

  • 彼は若い男性職員だから、孫のようにかわいいと思い、何かしてあげたいという気持ちがあるのかもしれない。

ルールはルールだが、こうして人間関係が絡むと、ただ機械的に「ダメです」と断ることが難しくなる。利用者が純粋な善意から行動している場合、それを否定するのも心苦しい。

3.断り方を考える

職員としても「角を立てず、やんわり」と断るものの、人生の荒波を何度も越えてきた利用者は、なかなか押しでは負けない人ばかり。受け取ってほしい利用者VS断りたい職員、なんてよく分からない構図が浮かぶ中、どのように対応するのが望ましいだろう。何かきっかけになればと、個人的な経験で効果のあったものを、いくつか挙げてみたい。

1)物渡し上手な利用者の対応方法

  • 「お気持ちだけで十分なんです」「来てくれるだけで本当に十分」と感謝の言葉を伝え、受け取れないと断る。

  • 「みなさん同じルールなので、ごめんなさいね」と個人の拒否ではないと全面に出し、やんわり控えてもらう。

  • (上の2つでも難しい人へ…)情には情で対抗。「これをもらってしまうと…規則違反で私がクビになるんです…!」とオーバーめに切実に訴える。

余談だが、私は男性利用者から「これあげるわ…」とお菓子を渡されたとき、「これ奥さんに知られたら怒られますよ!はい、仕舞って!」と言ってその場を去ったことがある。。

2)認知症でしばらくすると忘れる利用者の対応方法

  • やんわり受け取って帰宅する荷物の中にそっと返しておく。

  • おうちの人にこっそり返す。

  • 「昨日いっぱいもらったから、今日はもうもらえない!」と覚えてない過去の話を引っ張り出す。

どのような対応方法にも正解はない。自分がしんどい思いをしない方法で実践を心がけてもらいたい。また、自分だけで難しい場合はもちろん管理者と相談してほしい。
※地域柄などにもよるが、“押しても推しても強いオバちゃん”はどこにでもいるので注意が必要だ。

4.まとめ:結局、今日もどこかで攻防戦。

利用者の善意をどう受け止めるか、職員は日々悩みながら対応しているだろう。このような事例ではなくても、介護の現場では、ルールと人情の狭間で葛藤する場面が多い。それこそが人と人とが関わる仕事ならではの難しさなのかもしれない。

今日もどこかで繰り広げられているであろう”差し入れ魔”な利用者との攻防戦、対応する者同士、労いの言葉をかけあいたい。さて、明日もこの戦は勝ちましょうね。

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