渋谷のデザイン会社が、島根でビールをつくる理由 vol.4
レベルフォーデザイン代表の清水です。
島根県益田市に高津川リバービア株式会社立ち上げ、クラフトビールの製造販売がスタートしました。6年前の関係人口創出プロジェクトの参加時からは、思いもよらない展開です。
私の大好きなスティーブジョブズのスピーチに、「connecting the dots(点と点をつなぐ)」、という言葉があります。それは「過去の経験や行動が、その時点では何につながるか分からなくても、未来で何かにつながると信じることが大切」という意味で、自分自身の判断や行い、なにげない発言までも未来につながる点になることを改めて実感することができました。そしてそのつながりを見える化し、さらに未来へとつなげ、加速させる事ができるのがデザインの役割でもあると考えています。
今回は名前、ロゴ、ラベルがどのようにデザインされたのか、意図や制作の過程をお話しします。
4. ロゴデザインと見える化編
デザインで味が変わる?
食のジャンルでいうと、私はラベルデザインで味が変わると考えています。実際の味や成分が変化するわけではありませんが、見た目によって味覚、感覚が変化するということです。
数年前にある企業様のサイダーのボトルラベルのデザイン依頼がありました。すでに販売されているもので、課題としては高い値段のわりにデザインが安っぽく、売れ行きが良くないとのこと。そこでラベルデザインを刷新したところ、各方面から「美味しくなった」と嬉しい声が寄せられ売上、取扱店も大幅に増加しました。変えたのはラベルのデザインだけで味はそのままなのです。いくら優れたデザインでも、まずいものを美味しくすることはできませんが、その良さをしっかりビジュアルや感覚で伝えることで美味しいものは、より美味しく感じさせることが、デザインにはできると信じています。
名前もデザインの重要な要素。
会社や商品の名前もデザインの重要な要素のひとつです。名前によって、考えや想いを伝え想起させることができ、そこから広がりやつながりが生まれます。
社名は「高津川リバービア株式会社」、商品名は「高津川リバークラフト」と名付けられました。
その理由は
基本的にはシンプルで伝わりやすく、地域の人が愛着を感じ、親しんでもらえるようにというという想いが込められています。
会社名はすぐに決定しましたが、商品名は紆余曲折ありました。一般のビールとクラフトビールで醸造に必要な免許が異なるため、私たちの商品には「ビール」という表現が使えません。「クラフト」という言葉は技能や技巧、手芸や工芸などの意味があり、クラフトビールに直結する言葉として「高津川リバークラフト」という商品名になり、種類別に副原料をメインとしたサブネームをつけることになりました。
「生産地」+「食材」+「ビアスタイル」の組み合わせを基本ルールとしています。このルールが決まれば、今後種類が増えても対応しやすくブランドとしての一貫性を持たせることができます。
実は試作段階でのサブネームはこれとは違う名前でした。
マスカットは「風と水の微笑」
説明文で「益田シャインマスカットの爽やかなホワイトエール」
として、ラベルもデザインしてイベントで販売しました。
その時に感じたのは、「名前が長すぎて呼んでもらえない」「説明を求められる」という課題でした。この反省を活かし、「分かりやすい」「呼びやすい」「覚えやすい」を念頭に置いて、デザインのコンセプトは「王道」としました。これは、実際のビジュアルだけでなく、色の選定、ツール制作などにも関わる重要なポイントです。
流行らせないデザイン。
「王道」を分かりやすく言うと、今風だったり奇抜なデザインではない、と言うこと。私はクラフトビール業界も、高津川リバークラフトもあまり流行って欲しくないと考えています。
それは、流行ると必ずすたれてしまうので、いくら良いものもでも流行りの過ぎたものは、それを手に持っているだけで、時代遅れと言われてしまう風潮があるここと、時代の流れが早く、今風のデザインはすぐに古い印象になってしまいがちです。だから、流行りに関係なくファンになってくれた方に長く喜んでもらえるような商品、会社にしたいからです。
シンボルマークは「高津川」の漢字名称をモチーフにハンコのようなスタイルでしっかり読めるようなデザインとしました。円は「円満」「丸く収める」「縁」を意味しており、高津川の緩やかな流れを表現しています。ロゴの基本カラーは「白地に黒」、色を使わないことでナチュラルな素材のイメージを表現するとともに、それぞれのクラフトビールのカラー、シャインマスカットは緑、イチゴは赤、ゆずは黄色のように副原料の色を際立たせ連想させることができます。
ラベルのデザインでは「王道」に加え「特別感」と「品格」を意識しています。スーパーでは1本150円前後で購入できるビールがある中で、5倍の価格、800円でも手にとってもらえるデザインにしないとその価値は伝わりません。農家さんに訪問し副原料の食材の状態を確かめ、小ロットの生産で手間のかかる工程を職人が妥協をせず、丹精込めてつくっています。デザインは、関わるつくり手や生産者のストーリーやその想いを込めて表現した結果であるべきだと思います。
商品パンフやチラシのビジュアルもメインは「商品写真」「品名」「バックに副材料の写真」と言うシンプルな構成です。この組み合わせにも、文字と写真の重なり方、色の付け方等、全商品に対応できるようデザインのルールが存在します。名前だけでなくビジュアルや伝え方を統一することで覚えてもらいやすくなり、これを継続することで「らしさ」に変わります。
見えないものを見える化する。
見えないものを見るとは、霊的な話ではありません。デザイナーは、今はまだ見えないものを感じ取り、見える化することができる仕事だと思います。
現在醸造所となっている古民家を案内された時、厨房でクラフトビールをつくる人がいて、土間で生ビールを飲んで笑顔になっている地元の方の姿が見えました。そのカウンターに立っているのは・・・「そうだ、あの人(上床さん)ビールが大好きだったなぁ」と感じ、数年後、実際に上床が社長となりカウンターに笑顔で立っています。事業構想時、その上床と地元スーパーや道の駅に訪問した時に「このビールの陳列棚にうちのクラフトビールをびっしり並べよう」と話し、そのビジュアルがカラー映像で見えました。そしてそのほとんどが現実となりました。
見えないものを見るというのは特別なことではなく、妄想に近いような想像力だと思います。となるとそれはデザイナーだけが持つ特別な力ではなく、この想像力を働かせることはデザイナーでも、デザイナーでなくてもできることで、デザイナーはそれを誰もが見えるカタチやビジュアルに変える力(見える化)が必要だと思います。
全4回に渡り「渋谷のデザイン事務所が、島根でビールをつくる理由」を書かせていただきました。現在、高津川リバービアは地元の方々、多くのファンに支えられ4年目を迎える事ができました。まだまだ小さなブルワリーですが、次のビジュアルも見えていますので進展があれば、記事にして報告させていただきます。
ご期待いただくとともに、これからもよろしくお願いいたします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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